光の鎖
朝孝は臆する事無く、シュトラールの懐へと飛び込んでくる。
「貴方らしくもない・・・。熟考し過ぎると判断力が鈍りますよ」
「くッ・・・! 減らず口をッ・・・」
彼の斬撃は、一振り一振りその場に斬撃を残していくため、一つの場所に留まることが出来ず、戦闘は常に朝孝が斬りかかり、シュトラールがそれを避ける形で移動しながら行われる。
しかし、残った斬撃をそのまま放置しておくと、行動の範囲を制限されるため、シュトラールは巧みに、朝孝を誘導するように避け、朝孝と残った斬撃を一直線上に並べると、彼も光の剣によって生み出された衝撃波で、これを破壊して周る。
「しつこい奴だッ・・・!」
現状の鼬ごっこに嫌気が差したシュトラールは、急加速で後ろに飛び退くと、剣を握る手とは逆の手を、めくり上げるように顔の位置まで上げて見せる。
それはまるで、オーケストラの指揮者が腕を上げ、演奏の合図を出す直前かのような体勢だった。
「光の鎖ッ!!」
シュトラールがスキルを唱えると、朝孝の足元から彼を囲むように光の鎖が地面から上空へと撃ち出され、伸びて行く。
そのままシュトラールは、演奏を止めるようにグルっと腕を回しながら、拳を握る。
「回転ッ!!」
今度は、朝孝の少し上空まで上昇していった光の鎖が回転し始め、複数の鎖が絡まり合うと、彼を取り囲むように範囲を縮めていく。
完全に絡まり切れば、彼を締め上げるであろう仕組みだ。
「ッ・・・!?」
自分の置かれた状況に瞬時に気付いた朝孝は、身体を小さくすると、迫り来る鎖の檻から飛び出して回避する。
「逃がさんぞッ・・・」
飛び出してきた彼が地面を滑りながら着地すると、再び同じような鎖が飛び出し回転し始める。
しかし、それでも彼を捕えることは出来ず、回避しながら徐々にシュトラールとの距離を詰め始める。
光の鎖は、飛び出しては回転し、そして消えて行くのを繰り返し、朝孝をシュトラールの元へと運ぶ。
そして十分な間合いにまで入ると、地を思いっ切り蹴り、素早い動きで飛びかかる朝孝。
だが、次に光の鎖が現れたのは、シュトラールの周りだった。
朝孝が刀を振り抜くよりも早く、光の鎖は回転し、今度はシュトラールを守る盾となる。
御構い無しに攻撃を仕掛ける朝孝だが、光の鎖によって防がれる。
それだけに止まらず、光の鎖は逆回転し、その拘束を解くと、朝孝の刀を弾く。
そして中には、既に朝孝目掛けて光の剣を振っているシュトラールの姿があった。
空中に投げ出されてしまった朝孝には、シュトラールのこの一撃を躱す術はない。
「お見事・・・。 不用意に貴方の間合いに入り過ぎましたかね」
そう言うと朝孝は、空中で身を屈めると抜刀術の構えをとる。
「これは、避けられまいッ・・・」
振り抜かれたシュトラールの剣が放つ光の斬撃を、朝孝は目にも留まらぬ抜刀術で斬り刻むと、細かいものを除き、朝孝の両脇を通り過ぎていった後、彼の後方で土煙を上げながら建物の崩壊音を奏でる。
「埒が明かないな・・・」
「・・・そのようですね。 考えを改める気になりましたか・・・?」
「冗談を・・・。 ここまでして、後に引くわけがなかろう?」
シュトラールが、スキルの効果が切れたのか光の輝きを失った剣を、手でゆっくりひと撫ですると、そこから薄っすらと湯気のようなものが発生する。
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市街地で目につく人々の救助をしながら、目的地に向かうイデアール。
「さぁ、早く逃げるんだッ!」
「あっありがとうございます!」
小型のモンスターを倒しながら、市街地で救助に当たる騎士達と連携、民の避難を優先し動乱の沈静化を進める。
「ここらはだいぶ落ち着いているな・・・」
「はい、騎士達の被害はあったものの、モンスターにそれ程苦戦することはありませんでした」
「そうか・・・南部の方は俺が見て周る。引き続き、逃げ遅れた民がいないか捜索に当たってくれ」
「了解しましたッ!」
彼は極力南部から人気を払うようにし、何も知らぬ者達にシュトラールの計画を悟られないようにした。
聖都にこれ以上の混乱を招かないようにするためもあったが、シュトラールに気を使った配慮と、彼自身の身勝手な思いでもあった。
少し前にシンと手合わせをしていた場所、朝孝の道場近くまでやって来た彼は、この騒動の中、やけに物静かなことに不穏な予感を感じ取る。
「・・・? 既に避難していたのか・・・? この辺りだけやけに物静かだな。 シュトラール様は彼と接触することが出来なかったのだろうか・・・。 いや、それなら一体何処へ・・・?」
多少、建物に崩壊の跡は見られるものの、まだその建造物としての形を保っている道場に近づき、恐る恐る中の様子を伺う。
「人の気配がッ・・・! しかしそれ程大人数ではない・・・、生徒の子供達の避難は終えているのだろう」
シュトラールが朝孝の元へ向かった事は、大凡の予想はついており、その際に生徒の子供達に良からぬ思いをさせてしまうのではないかと心配していたイデアールは、一先ず子供達やその親達への被害が出ていないことに安堵する。
「中にいる気配は・・・二人・・・。 シュトラール様と、もう一人は・・・」
戸に耳を当て、物音を聞いた後に手を添え、中の気配を探る。
だが、あの二人がこんな物静かに事を収めることが出来るだろうか。
シュトラールは決して自身の理想を折ることはしないし、朝孝も手段を選ばぬ彼のやり方を見過ごすくらいなら、この国に留まっていることもおかしいくらいだ。
「これから始まるのか・・・、それとも・・・」
戸を開けて中を覗こうとした時、何かの気配が二つ、イデアールに向かってくるのを感じた。
咄嗟に扉かた離れたイデアールに襲いかかったのは、在ろう事か聖都で毎日目にしている筈の白銀の鎧を着た聖騎士達だったのだ。
「ッ・・・! 何だお前達ッ!? 何故ここに・・・!」
間一髪、攻撃を躱すイデアールだったが、彼の問いかけに二人の聖騎士は何も答えない。
「・・・? どうした? 何とか言ったらどうなんだ?」
「・・・・・・」
聖騎士達は無言のままイデアールへ襲いかかる。
「貴様らッ・・・。 隊長の俺に手をあげることが、どういう意味かわかっているのかッ!? タダでは済まさんぞッ!!」
イデアールは二人の攻撃を紙一重で躱しながら、矛先を片方の騎士の首へ、反対側の石突きをもう片方の騎士の首へ入れると、バク転しながらその槍を蹴り上げ、二人の兜を吹き飛ばす。
「ッ・・・!? これは・・・」
彼はそこで初めて目の当たりにする。
中身の入っていない空っぽの騎士の姿を。




