森に集う狼達
「怪物が来たぞッ! 」
「お前がいると、みんなが怖がるんだッ!」
「出て行けッ!」
その少年は、子供ながらにして大人と見まごう程の体格をしており、両腕には銀の籠手を常に装備していた。
彼は、その土地では珍しい褐色の肌をしており、美しいルビーのような瞳をし、モンスターを片手でねじ伏せる程の怪力を保有しており、彼を見た人達は“悪魔の化身”や“地獄から来た者”などと言われ、怖れられていた。
だが、彼はどんな仕打ちを受けようと、決して善良な者に手をかけることはなかった。
石を投げられ、蔑まれようとも。
悪魔と罵られ、住む場所を追い出されようとも。
ある時、住居を追い出され放浪していると、外で遊んでいる子供達がモンスターに襲われそうになっている現場に遭遇する。
彼は子供達を守るため、モンスターをその怪力で粉砕する。
しかし、子供達の泣き叫ぶ声で駆けつけた親達に、彼は誤解されてしまう。
モンスターを粉砕した時の血飛沫が子供にかかり、そして彼の銀の籠手には同じ血が付いていたことから、彼が子供達に暴行をしたのだと言われ、彼の風貌からくる噂やその人外のような怪力から、国から追い出されてしまう。
国を追われた彼は、全身を覆うローブを羽織り、旅の馬車に乗せてもらうと、ある大きな別の国へとやってくる。
そこは騎士の文化が繁栄しており、正義を重んじる国であった。
市街地で、雨風を凌げる場所を探すと、彼は暫くそこを根城にすることにする。
街を見て回っていた彼は、路地裏で隠れて民に暴行を行なっていた騎士達を見つけると、騎士の腕を掴みその行いを止めた。
「何だ貴様ぁッ!? 邪魔立てするなら・・・」
騎士がそう言いかけた時、彼と同い年くらいの少年達を連れた男に出逢う。
「先生ぇッ! 騎士の奴らがまた何かしてるぜッ!」
「その辺にしていただきましょうか。 今すぐこの場を離れるのなら、彼にはこの事は黙っておきましょう・・・」
男がそう言うと、騎士達は何か言いたそうな顔をするものの、そのまま黙ってその場を後にした。
「お前、度胸あるなぁ! 騎士に楯突くなんて。 ウチの道場に来ねぇか!?」
「アーテムッ! 初対面の人に対して失礼だろ! それにこの方にも事情ってもんがあるだろうし・・・」
「シャーフの言う通りよッ! ホント子供なんだから・・・」
三人の中の良さそうな少年達の会話が繰り広げられる中、男が近寄ってくる。
「この国では騎士の権力が強い。 今のようなことは今後避けた方がいいね。 ・・・でも、君の人を助けようとする心は、とてもいい事だ。 私はこの近所で道場をやっている者でね、もし君がよければいつでも遊びにおいで」
「そうだぜッ! 俺はアーテムッ! よろしくなッ!」
「シャーフです」
「シャルロットです、よろしくお願いします」
彼は初めて、人に迎え入れられたことに感動し、以降道場に通うようになると男の理想に感銘を受け、正義のために生きる道を選ぶ。
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閉ざされた門の前でこのまま戦っていても、ジリ貧になり全滅するだけだと思ったファウストは、意を決し、ある提案を持ちかける。
「もしかしたら門をこじ開けられるかも知れない・・・」
「本当か!? 」
これに希望を見出したミアが、ファウストの言葉に食い付く。
「だが、開けている間、無防備になる・・・。 時間を稼いで欲しい」
「どれくらいかかる?」
「やってみなければ分からない・・・。 何せ門をこじ開けることなど初めてだからな・・・」
モンスターの数は多く、その強さもまちまちで、ミア達が相手にした四足獣や、それと同等のモンスターも複数見受けられる。
「それしか無いならやってみようッ! ミア、君はシャルロットを観ながら援護をしてくれッ! ナーゲル、戦えるかい?」
「大丈夫っス! 俺も戦えるっスよ!!」
ツクヨの的確な指示でそれぞれが、それぞれの役割につき、ファウストが門をこじ開ける間の時間稼ぎを行う準備につく。
「ブルート、すまない戦場を一時離脱する・・・」
「あぁ、任せてくれ!」
戦闘を中断し、門へと向かうファウストは、その巨大な門にある窪みに指をかけると、その怪力でこじ開けようと試みる。
「んんんんんッッッ・・・!!!」
ファウストの怪力を以ってしても、門が動いているようにはとても見えない。
その間にも、聖都で暴れ回っていたモンスターや、騎士を倒して来たのか、新手のモンスター達が集いつつある。
「この数ッ・・・! 流石に相手仕切れんなッ・・・」
「足だッ! 足を狙って機動力を削ごうッ! 倒さなくても、それなら多くのモンスターの動きを止められるッ!」
「ブルートさんッ! 足っスよ足ッ!!」
ナーゲルは、リーベとの戦いで見せた狼のバーサーカー姿に囚われることなく、一部の力を引き出し、あの時程ではないものの、足や腕を獣化させ、その素早い動きと鋭い爪で、モンスターの足を裂いて周る。
ブルートは、その細剣でモンスターの足を裂いていきながら、一撃で急所に剣が辿り着く相手に対しては、細剣を急所に突き刺し、血液を抜き取ることで更にモンスターの行動を制限する。
ツクヨも、城で見せた素早い動きと無駄のない攻撃で、モンスターの機動力を落としていき、ミアはシャルロットを門の付近まで後退させ、素早く動く三人に当たらぬよう出来るだけ大型モンスターの頭など上部の方を狙う。
皆が一応に戦う中、門を動かせぬことに焦り出すファウスト。
「・・・これを・・・使うしか無いッ・・・」
ファウストは腕に付けていた銀の籠手を起動させる。
すると籠手は変形し、何本かの排煙機とも見える筒状のものが伸び始め、勢い良く蒸気を排出すると、ファウストの腕膨れ上がらせていく。
「ファウストッ!? ・・・それを・・・使うのか?」
彼の異常な状態を目にするっとブルートとナーゲルが、彼を心配する。
「ファウストさん・・・」
「俺は・・・この力を人の為に使いたいッ・・・。 俺を受け入れてくれ・・・俺の望みを叶えてくれたこの国の為にッ・・・!」
蒸気は更にその勢いを増していく。
「今こそッ・・・恩を返すチャンスなんだッ! チャンスはいつ来るか分からない・・・。 今なのかもしれない、もっと先なのかもしれない・・・。 だから、全てのチャンスに対応出来るよう・・・覚悟していたッ・・・。 そして今がその時だッ!!」
彼の覚悟に応えるように銀の籠手は、更に変形し蒸気を吹き出す。
すると、今までピクリとも動かなかった巨大な門が、徐々に向こう側の景色を見せ始める。
「ミアッ! シャルロットと共にッ・・・!! 早くッ・・・長くは持たないぞッ!!」
人が何とか通れるくらいの隙間が開くと、ミアはシャルロットを通し、自分も門の向こう側へと向かう。
「ツクヨさんッ! 貴方も・・・早くッ・・!!」
戦いをやめ、急ぎ門へと向かうと彼の腕を潜り、門を通る。
「すまないッ・・・、ありがとうッ!!」
ファウストはツクヨの言葉に、一度きりの強い意志を持った頷きで返す。
「ブルートッ! ナーゲルッ!! もう・・・抑えきれないッ・・・! 早くッ・・・!」
「ナーゲルッ!! 早くしろッ! アーテムの約束を守るんだッ!!」
門の向こう側からミアが叫ぶ。
アーテムにシャルロットを任せると言われたナーゲルに、その使命を思い出させる為に。
「ファウストさん・・・水臭いじゃないっスか・・・。 忘れたんスか? “狼は決して仲間を見捨てない” んス・・・」
「アーテムさんに任されたのは、シャルロットさんの身の安全なのだろ? それなら彼らが果たしてくれるさ・・・。お前だけを置いて行ったりしないさ、ファウスト・・・」
「お前達ッ・・・」
ファウストが支えていた門を開く力が、少しづつ弱まる。
「何を言っているんだッ!! 助かる数じゃないんだぞッ!? 」
ミアとツクヨが、向こう側で門が閉まるのを止めようと必死に抑えようと行動するが、二人の力ではどうにもならない。
「ミアさん・・・、俺達は組織である前に・・・一つの“家族”なんス・・・。 みんなそれぞれの事情があってここに集まりましたが、志は今も昔もずっと変わらず一緒なんです・・・。 だから、そっち側には行けません・・・」
ナーゲルは少し寂しそうな表情で振り返る。
「シャルロットさんのこと・・・お願いします・・・」
「バカを言うなッ!! 奴の思惑通りに滅びるのがッ!! お前達の志じゃないだろッ!!」
しかし、無情にもミアの言葉が彼らに届く前に、門は閉ざされてしまう。
「ミア・・・」
ツクヨは全身の力が抜け、その場に座り込んでしまうミアの肩に手を添える。
「・・・バカに関わるとろくな事にならない・・・、勝手なこと言いやがって・・・」
「行こう・・・ミア。 ここもまだ、安全とは限らない・・・。 彼らに任されたことをやり遂げよう」
「あぁ・・・約束は果たす・・・、必ず・・・」
傷ついた狼達は、一つの森に集まった。
彼らはそれぞれの貧困を抱えていたが、その森で何よりも豊かなものを育んだのだ。
それは彼らにとって命よりも優先すべき、大切なものとなっていた。




