光と影
シンはアーテムと合流するため、ルーフェン・ヴォルフのアジトへと向かう。
しかし、シンは複数あるアジトへの入り口の内、最初に案内された民家にある地下への階段と、道場へ向かう際に地上へと出てきた階段だ。
それもまだ来て日の浅い新しい土地というのも相まって、アジトへの場所が分からずにいた。
「クソッ! 只でさえ街並みが頭に入っていないというのに、こうもあちこち壊されたんじゃ、何処にあの階段があるのか分からない・・・」
高い位置からアジトを探し、出来る限り、人々の救助を行なっていく。
「アジトの位置が分からないなら、まずミアと合流するか・・・? 確か中央の聖都内にいると聞いたが」
シンの視線の先に、幅広く大きな階段が見える。
目標をミアとの合流に切り替えたシンが、聖都への階段を目指していると、ある声が彼の耳に飛び込んで来た。
「シンッ! 何故お前が外に・・・。 道場はどうなった!?」
彼に声をかけたのは、道場から出て最初に探し求めていた人物であるアーテムだった。
「アーテムッ! 良かった! 無事だったんだな?」
高所から身軽な動きで降りてくると、シンはアーテムの元へと急ぐ。
「道場は無事だ。 朝孝さんが生徒さん達を安全な場所まで連れて行ってる頃だと思う。 ・・・それよりアーテム・・・、これは一体・・・」
アーテムは深妙な面持ちでシンを見つめると、しばらくの間の後、口を開いた。
「・・・アジトが・・・陥落した・・・」
「えッ・・・・・?」
周りではただ騒乱の声や、建物が崩壊する音だけが響き渡り、二人の周りだけ何かに覆われているように静かになる。
「どッ・・・どういうことだよ・・・。 アジトはこの国の地下に、無数の道によって張り巡らされているんだろ!? ・・・陥落ってことは・・・国全域でこれが起きているのか・・・?」
「騒動の火種は、ルーフェン・ヴォルフのアジトへ通ずる各所の階段付近から起きたらしい・・・。 モンスターは移動ポータルを通り現れ、そして出現の衝撃により毒が散布され・・・階段から下へと広まっていった・・・」
何故アジトの出入り口に移動ポータルがあったのか、何故毒があったのか、モンスターが何処からなだれ込んで来たのか、この時のシンにはそれらは大した問題にならなかった。
ただ、入り口から毒が流され退路を断たれたアジトの人々がどうなったのか、それ以上の疑問が思い浮かばなかった。
「アジトは・・・、中にいた人達は・・・?」
「正確な被害は分からない・・・。 俺が到着した時には既に、地上へ避難してきた者達がいたが、そいつらも毒を受けちまって、次々に倒れていった・・・」
アーテムの性格からシンは、彼が激情するものだと思っていたが、至って冷静であることに驚いた。
「移動ポータルは、幹部の連中が他国の商人から取り寄せたアイテムの効果だろう。 アイツら、組織の活動のためだとか言ってたっけな・・・。 それにイデアールが道場に来る前、奴は上位モンスター討伐の任に就いていたそうだ。シャルロットが自慢げに話していた・・・。 そして、お前とイデアールが運ばされたという荷物だが、シャルロットが何か妙だと言っていた・・・」
アーテムが突然、ある事柄について語り出した。
それはシンも携わっていることから、無関係でもない話だった。
「何を・・・言っている・・・?」
「他国からの品は必ずシュトラールのチェックが入る。そして奴はアジトの出入り口を把握し、説明の無い荷物を届けさせた・・・」
彼の口から出たシュトラールの名、そして“奴”と称し彼の思う妙な事柄を並べ連ねる。
「それは・・・つまり・・・」
「これを疑わずして何を疑うッ! シュトラールは俺らと和解なんて考えちゃいなかった・・・。 それどころか俺らに歩み寄り、懐に使者を送りやがった・・・。 だから俺は、奴に会いにいく・・・。 それでどうなるかは分からねぇが・・・このままにしちゃおけねぇよ・・・」
シュトラールは遂に、対立する“正義”の制圧にかかったのだ。
イデアールをルーフェン・ヴォルフに近づけさせ、朝孝との繋がりを作ると動乱のための準備をし始め、全ての罪を覆わせ、“裁き”の名の下、邪魔者を一掃する計画なのだとアーテムは考えている。
シンはアーテムについていくと言い、二人は聖都を目指す。
アジトが健在であれば、地下を通って向かえるのだが、今は全ての地下通路が毒により使えなくなっている。
二人が聖都へ続く階段へと到着すると、登りきった先に兜まで被り、完全武装の槍を持った聖騎士の姿が見えた。
それは二人もよく知る、理想と大志の間で揺れ動く、悩める聖騎士・イデアールの姿だった。
「イデアールッ! 何をしているんだ!? こんなところで! それに、その格好は・・・?」
彼の表情は見えない。
顔まで覆った勇ましい兜が、彼の表情を隠し、何を思ってのことなのか表に出すことを拒む。
「シン・・・アーテム・・・。 俺は・・・彼らの純粋な光を断つなど・・・出来ない。だから俺はここに立っている・・・彼らの理想郷を守るために。 ・・・邪魔はさせない」
二人の前に立ち塞がる、白銀の鎧を纏ったイデアール。
「イデアールッ! お前はシュトラールに利用されたんだ。 お前を使いモンスターの品を集めさせ、荷物と毒を届けさせた。俺らに責任を負わせるために・・・」
「知っている。 全て聞いた・・・、聞いた上で俺はここに立っている」
イデアールは全てを知り、そしてシュトラールの理想に付いていくことを決めたのだ。
「そこを通してくれッ! イデアール! 」
「俺はここの守備を任された・・・。 誰も通す訳にはいかない」
最早、聞く耳を持たないイデアールに痺れを切らしたアーテムが強行突破を計る。
「アイツも腹を括ったんだ・・・。 なら、お互いの意地をぶつけ合うしかねぇよなッ! 」
短剣を手に走り出すアーテムと、向かってくる彼を受け止めようと槍を構えるイデアール。
こんなところで争っている時間はない。
事態は刻一刻とシュトラールの思惑通りに進んでいく。
二人がぶつかり合うであろうと思ったその時、イデアールの動きが止まる。
「何ッ!? 」
「行けッ! アーテム! イデアールは俺が引き止めるッ!」
辺りの影から無数の影が伸び、イデアールの影を捉える。
シンの作り出したチャンスを活かし、アーテムはイデアールを飛び越え、城門を抜ける。
「すまないッ! 助かる!」
シンは頷いて返事をすると、スキルへと集中する。
「あの時はお互いにスキルは使わなかったからな・・・。 これがお前のスキルか。だが、この程度ッ・・・!」
影によって捉えられていたイデアールの身体は強い光を放ち、解放される。
「何だッ!? 今のはッ!」
「これが俺の聖騎士としての力、光属性のスキルだ。 ・・・シン、お前の影とは相性が良さそうだな」
シンの影を使ったスキルを一瞬にして振り払うほどの光。
シンとイデアールは、属性の相性が最悪だった。




