大きな痛手
シン達を乗せた船の前方で洗礼を受け、激しい砲撃の応酬を繰り広げている先頭組と大船団。これから彼らにも降り掛かるであろう光景に、言葉の出てこないシン達と何か考えがある様子のツバキ。
「そろそろいいか・・・。シン、アンタにお願いしたい事がある」
この状況で一体何をしようというのか、ツバキの考えの分からないシンは辛うじて彼の方を向くが、心が動揺している様子が誰の目にも明かだった。少年に発する大きな声で喝を入れられたシンが冷静さを取り戻すと、ツバキのいうお願い事の手順をその頭に叩き込んでいく。
前方にいる大型船の大船団が粗方攻撃禁止領域を脱したのを確認すると、シン達を乗せた船がエンジンを吹かし一気に加速し始める。洗礼の砲弾が飛び交う激戦区へみるみる近づき、避けながら応戦する船と撃沈せんと攻撃を仕掛ける船の間を駆け抜けていく。
木を隠すなら森の中。迂回して激戦区を避ければかえって目立ち、多方面からの攻撃を一斉に浴びることになる。それならな意を決し、自ら戦禍の中へと飛び込んだ方が目を眩ませられる。
目の前の獲物に夢中になる大型船は、駆け抜けるシン達の船を襲おうにも今の獲物を放置できない為、集中砲火を浴びることはない。それでも一部、既に先頭グループを撃沈し終えた船団からの攻撃が飛んでくる。
そこでシンの出番だ。一行を乗せた船から一台のボードが後方の海へと送り出される。船とボードはロープで繋がれ引っ張られる形となり、水上スキーのようにシンの乗るボードを後ろに付けて船の森と砲弾の雨の中を進んでいく。
彼らを狙った砲弾を見事なハンドル捌きで避けながら、それでも避けきれないものを後方に繋がれているシンがスキルをボードに蓄積させて放つことで、飛んでくる砲弾を水上を走る影で飲み込んでいく。
徐々にバランスが取れるようになってきたシンはボードを乗りこなし、左右へ大きく振られながら水飛沫で更なる目眩しをかけていく。勢い良く打ち上げられる水のカーテンで後方の射線を妨害し、更に波を立てることで周りの船を揺らすことが出来る。これにより少しは攻撃の頻度は減ってきただろうか。
しかし、それでも全てを捌き切れている訳ではない。前方や側面からも絶えず砲撃や流れ弾が一行の船へと飛んでくる。
「銃弾はまだいい・・・。だが、砲弾だけはもらう訳にはいかない。俺らの船はスピードと機動力はあるが、装甲は薄い・・・。まともに食らっていればすぐにうごけなくなっちまう。ミア!ツクヨ!アンタらは甲板に出て砲撃や流れ弾を落としてくれッ!」
ツバキの指示で甲板に出た二人は、飛んでくる砲弾を出来る限り落としていくが、それでも全ては捌き切れず攻撃を受けながら船は戦場の合間を縫うように走り抜けていく。激しく左右に揺られる船体の上ではまともにバランスを取ることさえままならない。
「ツバキ!船の上ではまともに剣が振れないッ・・・!私もシンのようにボードで援護に回った方がいいんじゃないか?」
ツクヨがもう一台のボードを使おうと提案し始めたその時、彼らの防壁を掻い潜って来た砲弾が操縦席の方へと直撃してしまう。ハンドルが切られ船が大きく旋回し、引っ張られるようにシンのボードが遠心力で振り回される。
「ツバキッ!大丈夫かッ!?」
急ぎ線内の操縦席へと駆け込んだミアの目に映ったのは、片手でハンドルを握りながら、もたれ掛かるようにして倒れる少年の姿だった。左腕からは出血が激しく、力が入らないのか小さく震えながら、ただ身体に付いている部品かのように垂れ下がっている。
「腕が上がらないのかッ・・・。おいッ!しっかりしろ!」
肩を叩き必死に呼びかけると、朦朧としながらも意識を取り戻すツバキ。すると彼はすぐに身体を起こそうとし、操縦を続けようとする。
「無理だ・・・この身体では暫くは操縦できない」
身体を支え操縦席へと戻すミアだったが、彼のその負傷からはとても先ほどまでの運転が出来る状態ではないことを悟る。それでもツバキは操縦を続けようとミアを押し除ける。
「持ち場に・・・戻れよ。俺なら大丈夫だから・・・。これまでずっと船を弄ってきてたんだ・・・、この程度じゃ問題ねぇよ・・・。それより頼みたい事がある・・・」
怪我の心配をするミアを尻目に、少年はある作戦の手順を彼女に伝える。この状態でまだ折れることなく、突破への活路を見出そうとするツバキの用意周到な作戦に素直に感服するミア。
船の動きが著しく遅くなった彼らの船を挟み撃ちにするように、左右から何台かの船が近づいてくる。周囲を動き回り牽制するシンだが、最早たった一人のもがきでは近づいてくる船を止めることは出来ない。このままでは乗り込まれる、そう思った時、船の中からツバキの策を聞き受けたミアが出てくると、大声でシンに指示を出す。
「シンッ!煙幕はあるか!?周囲を回りながら撒いてくれ!」
どんな考えが彼女にあるのかは分からない。だが考えるよりも先に、彼の身体はミアに言われた通り、すぐにミア達を乗せた船の周りをボードで急旋回し、煙幕を焚いた。
「あん?馬鹿がッ・・・!海の真ん中でそんなことしようと、お前らはもう囲まれてんだ!」
煙幕の外で止まり、彼らを囲むように動き出す船団。しかし、囲みきるよりも先に煙幕の中から全力のエンジン音が重なるように響き渡ると、二台の何かに引っ張られるようにして一台の船が飛び出してきた。
「なッ・・・何ッ!?に・・・逃すなッ!撃てぇぇぇッ!!」
船団の男達が見たのは、ボードのような乗り物に乗ったシンとツクヨの姿だった。二台のボードの全速力で船の遅い初動をカバーする様に引っ張って加速させた。それをただ見逃す筈もなく、船団の砲撃が彼らを目掛けて一斉掃射される。




