追う理由
ただそれは、鍛治師の腕や高度な技術力を持つ、国や都市に行けばそれなりの値段で手に入ることもある。一概に黒衣の者達が所持している武具が、何かしら有名な代物であるとも限らない。
ましてツクヨの持つ、WoF のユーザーにしか扱えない布都御魂剣や草薙剣のような物など、そう容易く手に入る物ではないし、あちこちで見かける黒衣の者達がその力を見せびらかせば噂になっている事だろう。
何処の国や街でも、黒衣の者達に関する情報は全くと言っていいほど手に入らない。海上レースの開会式の映像に現れた時も、周囲の人々はその出立や格好に特に疑問を抱いているような様子もなかった。
そしてここに来て、WoFの世界の住人であるアクセルとケネトという、謂わばNPCキャラの過去に黒衣の男の記憶があるというケースが、シン達にとっても初めてだった。
彼らの記憶に残る黒衣の男の素性について調べれば、シン達の追う黒衣の者達についても何か分かるのだろうか。するとモニターを齧り付くように眺めるアクセルに、ミアがその目的を問う。
「そもそもアンタは、その黒衣の男って奴の事を調べて如何するつもりなんだ?恩人だって、わざわざ追われて感謝されるのも迷惑なんじゃないか?」
ミアの問いにアクセルは僅かに顔を下に傾ける。そしてそれ程間を置かずして、アクセルがケネトにも明かしていない心の内を話し始める。
「勿論感謝はしてるし、もし会えたなら直接お礼もしたい。けどそれ以前に、俺ぁあの人の”強さ“に魅せられた。どうせ止めろって言われるだろうし、ケネトには話してねぇけど、俺が近接戦闘を始めたのもあの人の強さに憧れてたからだ」
アクセル曰く、彼が見た黒衣の男の戦闘方法は、とても人の動きだけでは説明がつかない動きをしていたのだと言う。素早い動きで目で追えなかった、などと言うものではなく、明らかに再現が不可能な動き。
それこそ宙に浮いたり空中で方向転換をしたかのような動き。何度もそれらしき動きの練習をしてきたアクセルだったが、何を如何しようとやはり再現は出来なかったそうだ。
そこで少しでも近づく為に身に付けたのが、ソウルハッカーというクラスのスキルだった。回帰の山でも見せた通り、周囲の植物や生物の中にある魂を使っての移動が可能となり、ある程度黒衣の男の動きの再現に近づけたのではないかと思っていたアクセル。
しかし、今回回帰の山で出会した別人だと言う黒衣の男との戦闘の中で、過去に見た黒衣の男と重なるような場面が何度もあったらしい。
全くの他人で、自分の行動の邪魔をしようとするアクセルを殺そうとしなかったのも、彼の中では気になっていたようだ。如何やらアクセルは、死にかけるような経験を経て、自身の中の魔力量の変化に気が付いたらしい。
本来、この世界の者達の魔力は、生まれつきのものであったり、クラスに就いた後に修行や経験値を得る事によって増減するようだ。だが今のアクセルは、回帰の山で黒衣の男に何度も死の淵に追いやられる事で、急激な魔力の成長を得たのだと語る。
「魔力の成長?」
「あぁ。まだハッキリと試した訳じゃないから何とも言えないが、あの男に回復薬を浴びせられて立ち上がる度に、それまで俺になかった魔力が込み上げてくるみたいに身体が動いたんだ」
死を経験するという意味では、WoFのユーザーもダンジョンやボスとの戦闘で力尽きる事で、次は対策をして挑んだりレベルを上げて挑戦する事が出来る。それがこの世界の住人で言うところの、死の間際からの生還に当たるというのだろうか。
初めて聞く事例に、シンとミアは顔を見合わせる。お互いにWoFというゲームの仕様からも、そんな事は聞いたこともないといった話を小声で耳打ちする。
「っていうか、お前達もこういう格好をした奴らを探してるんだろ?そっちはなんで探してんだよ?」
「えっ・・・」
同じく黒衣の人物に興味を示し、先に質問していれば当然出てくる質問だろう。返答を用意していなかったシンは、咄嗟にミアに何か誤魔化す術を用意していたかという視線を向けると、彼女は全く動揺を見せることなくさらっとアクセルに嘘のエピソードを語った。
「そうだったのか・・・。俺達の探してる人とは随分と違うな。まぁでも、その話によると俺が山で会った黒衣の男に近い感じがするな!」
「そうそう、そういう訳でちゃんとアタシらにも見せてくれよ」
流石と言ったところか。こういう場面でのミアの対応力には頭が上がらないシン。彼女の嘘に感謝しつつ、病室での時間を過ごした。




