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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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生きることを諦めない

「凄いっ!身体がちゃんと下へ落ちていく!」


「だがこの中では“それ”こそが異常な事。人三人分も連れて落ちてるんだ、何かデメリットがあるに違いないッ・・・!」


「・・・・・」


 ツクヨとライノの会話を聞きながらも、ミネはそれに答える事はしなかった。正確にはミネ自身にも、魂が成している今の身体の性質を変化させる事に、一体どんなデメリットがあるのか分からなかった。


 しかしツクヨ一人を運ぶだけであの疲労状態だったのだ。大まかに考えてもその三倍のデメリットがミネの身に降り掛かるであろう事が想像できる。


 今まで何も身体の異変を感じなかったミネだが、その時は不意に訪れた。それにいち早く気が付いたのはツクヨだった。本人でも気が付かない内にツクヨがその変化を発見出来たのは、彼の持つ宝刀“草薙剣”が起因していたからだった。


 生命エネルギーを喰らう性質上、身の回りにある生命力の変化に敏感になっていたようだ。しかしそれもツクヨには、何故感じる事が出来たのか今のところ理解は出来ていない。


「ミネさんッ・・・身体がッ!?」


 僅かに落下する速度が落ちる。同時にミネの身体から煙のようなものが出ていた。体温に異常はない。他にも誰かがスキルやアイテムを使っている様子もない事からも、これが一行を出口へ向かわせる為のデメリットであると理解した。


 ミネの身体から出ている煙に触れるツクヨ。するとそこからミネの気配が強く感じられた。これは山のヌシとして選ばれた、特殊な能力と力を得たミネの生命エネルギー。つまり、今のミネの身体を形成している力そのものだったのだ。


「やめろミネッ!このままでは消えてしまうぞ!?他に方法がある筈だ!」


 二人に止められながらも、ミネは無駄口を叩く暇さえ削りながらその力を、文字通り命を削って遂行し続ける。だが次第に落下にも限界が見え始めた。このままでは落下の勢いを殺され、上へと吸い込まれてしまう。


 そうなる前に何処かへ着地しなければと周囲を探すミネに、彼の意図を察したツクヨがちょうど良さそうな平で大きな瓦礫を見つける。それをミネに知らせると、彼は残る力を振り絞りその瓦礫のところまで一行を連れていく。


 新たな足場となる瓦礫もまた、山の神の吸引力で上空へと引き上げられていたが、その大きさ故か速度は他に比べて遅かった。


「折角降りて来たのに・・・これではまたさっきのところまで戻って・・・!?」


 皆を無事に足場へと運んだミネが漸く喋り出したと思ったその時、彼の身体の煙は勢いを失うどころか落下していた時よりも、更にその勢いを増しながら彼の生命力を削っていた。


「何で!?もう力は使っていないんだろ?」


「ミネ!今使っている全ての能力と力を解除しろ!少しでも生き残れる可能性にっッ・・・」


 必死にミネの身を案じて、思いつく限りに案を絞り出す二人にミネは誰よりも落ち着いた様子で、自身の身に起きている変化と現状を察して、余計な事に力を割くなと呼び掛ける。


「これは・・・自ら望んでした事。その代償だ、今更どうする事も出来ないし、恐らく山の神とやらも俺をここから出す気はないらしい・・・」


「ミネさん!絶対に生きることを諦めないと、約束したでしょ」


「分かってる。だが見ての通り、俺の身体と魂はボロボロだ・・・。だから俺は俺の“意志”を残す事にした。カガリの中に、足枷にならないように・・・な」


「ミネの・・・意志?」


 山の神に喰われた事で、山のヌシとしての役割を果たしたミネという存在は、その主人である山の神に溶け込んでいくように同調し始めていた。それ故に、自身がもはやこの大穴から逃れる事など出来ぬことが分かってしまった。


 大きな瓦礫や大地でさえ引き込まれていく中を落下出来たり、姿形を自在に変えられたのも、山の神の体内であるが故、山の神と同質化し始めた故の能力に過ぎなかったのだ。


 彼の身体から漏れ出す生命エネルギーもまた、元のあるべき場所へと帰ろうとしているだけだった。それでも自分という存在が、確かにそこに居たことを証明する為に、己の意志を愛弟子であり我が子のように育ててきたカガリへと託そうと考えたのだ。


「俺はまだ“生きること”を諦めちゃいない。その為にこうして身を削ったんだ。思ったより下へは行けなかったが、まだこの辺りなら外壁が薄い筈だ。ツクヨ、その刀の力で山の神の喉元を切り裂いてくれッ!」


「刀の力・・・」


 ツクヨの手に握られた草薙剣。これまでの戦闘で溜め込んでいた生命エネルギーが溢れんばかりに刀身から漏れ出している。だがツクヨにもその刀の力を解放する術が分からないのだ。


 そもそもその刀が草薙剣である事を知らないツクヨには、切れ味の凄まじい刀の一本でしかない。能力の解放の仕方も分からぬまま、ミネに促され全力のスキルを壁に向かって放つツクヨ。


 目にも止まらぬ速度で放たれた飛ぶ斬撃は、禍々しい黒いオーラを纏って外壁へと衝突する。しかし、ミネの言うような外壁を切り裂ける程の威力ではなかった。


 斬撃が命中した部位から煙が上がる。その中から見えてきたのは黒い炎が僅かに燻っているところだけだった。切れ込みのような痕こそ残っていても、ミネの記憶で見た黒衣の男がその斬撃で切り開き、光が差し込むような光景は訪れなかった。


「だ・・・駄目だ。いくら切れ味が鋭くても、外壁に切れ込みを入れる程じゃないッ・・・!」


「だが刀の生命エネルギーも衰えてはいない。何かそれを撃ち放つ解放条件があるんじゃないのか?」


 記憶で見た黒衣の男とツクヨに何の違いがあるのか。何故記憶の時よりも力を纏っている草薙剣が、その真価を発揮出来ないのかを考える一方で、再び足場にぶつかって来たモンスターが彼らの元へと迫る。


「おいッ!悠長にしてる暇はないぞ!ここにもモンスターがッ・・・!」


 即座にライノが足場に到着したモンスターを蹴り飛ばす。宙に浮いたモンスター達は次々に上空へと飛んで行く。だがこの状況は彼らにとっても同じ事。足場を一度離れれば、今のモンスター達のように飛んで行くのは自分達も同じ状況。


 ミネは疲労だけでなく今度はその身体も薄くなり始めている。どんなに力を抑えても、彼の身体を成している生命エネルギーは山の神によって吸われ続けてしまうようだ。


 気を失うカガリを守りながら戦うライノも、限られた足場と条件下でいつまで保つか分からない。


 託される思いに応えようとする反面、草薙剣は食い散らかした生命エネルギーを周囲へ漏らすばかりで、使用者であるツクヨの思いに応える様子はない。

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