白蛇の姿と計画に頓挫
原来、日本では白い蛇のことを『はくじゃ』『びゃくだ』などと呼び、神様の使いとして富や幸運をもたらす存在として扱われてきた。
そもそも白蛇も蛇も本質的には同じ性質を持ち、水神として祀られることも多かった。これは数多いる蛇神と共通するものであり、日本の三重県鳥羽市にある彦瀧大明神では女性の神様として祀られ、女性特有の病気の治療や安産の進行を集める。
女神の化身や神体として祀られる事の多い白蛇は、その身自身が神であったり神の使いであることから、悪さをすればその者や土地に災いをもたらす触れてはならないものとして恐れられたりもしていた。
WoFの世界でも例外なくそういったエピソードや言い伝え、伝承などが元となり、女神の神体という話からか“生命”に纏わる性質が強く現れている。それこそ今まさにアクセルらが目の当たりにしている、山を飲み込む程に巨大な口を持つ白蛇の姿だった。
「白い蛇・・・白蛇か!」
「知ってるのか?ケネト」
「知ってるも何も、僧侶を志せばその教材の中で一度は目にしたり耳にする伝承だ。いや、神話に近いかもしれないな」
大方の内容は、世界で知られる白蛇の伝承と相違ないものだった。だがそれはWoFの世界でも神話と言われるような言い伝えのような話でしかなく、実際にこれほど巨大な正しく神に姿をした白蛇が存在するなど思ってもみなかったようだった。
「ミネの言っていたという山の神が存在するのならば、正しくそれは今俺達の目の前にある“コレ”の事だろう。神饌の儀は始まっていたんだ・・・」
目の前の光景に唖然とするケネトを連れ、アクセルはツバキから預かっていたガジェットを巨大な白蛇の元へと飛ばすと、自分達の身の安全を最優先に考えその場を離れる決断をする。
ここが踏ん張りどころと言わんばかりに、動けなくなったケネトを抱え、全力を振り絞る。
そんな彼らの上空では、装置を構えた黒衣の男が狂ったように声を上げていた。
「漸く動き出したか、化け物め!人々が古の時代から空想し創造した、神格化したまさに化け物。長年その信仰を受けここまで大きく膨れ上がったか。最早創造主の手にも負えなくなったその力・・・たんと“喰い散らかせ”よッ・・・!」
黒衣の男は上空へと上がっていく巨大な赫い眼に語り掛ける。しかしその眼は黒衣の男や彼の構える装置の事など意に介する事なく、飲み込んだ大半の山を口に納めて閉じると、残された大地を揺るがしながら満足そうに濃霧の中へと消えていく。
だがあくまで消えていったのは赫い眼と、その直後に彼ら三名の視界に映り込んだ口元だけ。実際にはまだ、その巨体は回帰の山の上空にあった。そしてその巨体の中から脱出を図っていた者達また、新たな動きを見せようとしていた。
山の神の身体の外では、その正体を目の当たりにしたり大きな揺れと地に降る瓦礫と土砂から逃れつつ、体内ではより出口である口の方にいるライノとカガリの元を目指していたツクヨとミネが、漸く彼らにいる足場を見つける。
「見えてきた。もう直ぐ・・・もう直ぐだ」
そう言ってツクヨを掴み、まるでスライドするように上空へ吸い寄せる吸引力に逆らい落下する腕が、大空洞の壁面から生えていた。
「そう?それは良かった。けどもうちょっと別の方法はなかったのかなッ・・・?」
既に肉体を失っていたミネは、山の神の身体に同化し腕だけを壁から生やすと、ツクヨの手を取り下へスライドするように滑り降りていたのだ。彼の声はその腕の根元の方から聞こえてくる。
同化しているとはいえ、山の神の身体や思考、能力や体質に何か関与出来る事はなく、ただその魂が消える瞬間まで体内で自由に動き回れるというだけの猶予を与えられているに過ぎない。
どうやってツクヨや下から飛ばされて来る瓦礫を見ているのかは分からないが、ツクヨの身体が何かにぶつかりそうになるなると器用に動き回り、どうしても避け切れない細かい物はツクヨが反対の手に持つ、禍々しいオーラを溜め込む刀で弾いていく。
「飛び移るぞ!衝撃に備えろッ!」
「えッ衝撃って・・・何するつもり!?」
腕だけとなっているミネがどうやって壁から彼らのいる足場まで飛んで行くのか想像がつかなかったツクヨは、ただ彼の言う衝撃に備えろという言葉を頼りに、色々な方法を想像する。
そしてツクヨが様々な想定を考え心の準備をしていると、ミネは最もシンプルな形でそれを実行に移した。ミネはまるで壁から射出されるように飛び出すと、ツクヨの手を引っ張りながら吸引される風と神饌の儀式で口にした山の大地を、まるで切り裂くように駆け抜けていく。
下から押し寄せる風と、射出された勢いで口を開くこともままならないツクヨは、完全にその身をミネに預ける形で飛んで行く。そして道中、何にぶつかることもなく、見事にライノとカガリのいる足場に着地したミネは、引き寄せたツクヨを抱えそっと足場へと下ろした。
「つっ・・・着いたのかい?」
この時、ミネはツクヨの知る姿のままその足場に居たが、何やら尋常ではないほど疲弊していた。その場に手をついているのもやっとな程で、四つん這いの状態に倒れたミネは、大きく息を切らしていた。
「だッ大丈夫か!?ミネさん!!」
「これはッ・・・少し想定外だった・・・。すまない、これ以上下へは運べそうにない・・・」
当初、ライノとカガリに合流した後にもう一度ミネが山の神の口元まで向かう手筈だったが、現在のミネの様子と彼の言葉を聞く限り、これ以上先程のように壁を伝い落下するのは不可能だという事がツクヨにも分かった。
突如脱出計画に影を落とし込む状況の中、二人がやって来た衝撃を感じてライノがツクヨ達の前にやって来る。




