大穴、大地に降り立つ
大穴の壁面に何かの生物らしき口の面影を感じ始めていたツクヨ。そして大穴が間近に近づくと、周囲の草木が揺れ始め、地面に落ちた木の葉が浮いては上空へと巻き上がる。
祭壇の周りに集まった生物達も、小さいものから順々に浮き始め、大穴の奥深くへと吸い込まれ始める。大穴には吸引力があったのだ。それがツクヨにとって、大穴とはやはり山の神たる何かの生物である事を決定付ける要因の一つになった。
近づいた事で分かったのはそれだけではない。上空からやって来た大穴の中には大きな岩壁や様々な植物など、あたかも以前にも同じように回帰の山を喰らった時の物であろう痕跡が幾つも見受けられる。
「これはもしかして、以前の神饌の時の・・・?」
痕跡はそれだけではなく、明らかに年代が違うであろう建造物や作り物も散乱している事から、言うなればここは一つの遺跡にもなり得るほど、そのままの形で残されている。
要するに取り込まれるのは、その殆どが生命体であり光脈の精気である事が分かる。吸い込まれていった生物を視線で追いかけるツクヨ。その動物はジタバタと暴れながら大穴の中へと吸い込まれていき、その内に岩や建造物にぶつかり、意識を失ったように動かなくなってしまった。
この後自分もミネを追って、この過去の神饌の残骸の中を進まなければならないと思うとゾッとするツクヨだった。大きな生物も地面で吸引力に抗い始めた頃、遂にその時は来た。
祭壇の前で祈りを捧げていたミネの身体が浮かび上がり、徐々に大穴の方へと吸い寄せられ始めたのだ。
彼の意識はまだ戻らない。即ちそれはまだミネが山のヌシとしての役割を終えていない事になる。
「ちょっとちょっと!あのままじゃ何処かにぶつかってッ・・・!?」
地面から浮かび上がったミネの足元からは、光脈の精気がまるでミネに吸い取られるように巻き上げられ、それをミネが大穴へと放出している図がよりハッキリと分かるようになった。
と、山のヌシの役割に気を取られている場合ではなかった。無防備なまま飛ばされたミネは、このままでは宙を舞う瓦礫やそこら中にある岩壁などに衝突し死んでしまう危険がある。
急ぎ飛び上がったツクヨは、自らも大穴の吸引に身を乗り出し、ミネに迫る瓦礫の除去にあたる。宙を舞う大きな岩や土の塊を足場に、次々に飛び移って行くと、ミネの先回りをしたツクヨは彼の軌道上にある障害物を両断していく。
しかしミネを守ることに集中していると、次から次へと大穴の奥からやって来る瓦礫に襲われる。地上からは生物達が押し寄せて来ており、流血した生き物の血がそのまま視界を妨げる厄介なものとなる。
生き物の血によっては強い毒性を持っていたり、溶解性を持っていたりもする為、液体類にも気を付けなければならない。
「このままじゃいつまで保つか分からないよッ・・・!一体いつまで続ければ・・・!?」
不幸というものは立て続けに起こるものだ。ツクヨがミネの身を守って暫くすると、突如周囲の視界が真っ暗になってしまう。何が起きたのかも分からぬまま周囲を見渡すツクヨだったが、何処からともなくやって来た生物がツクヨの身体に衝突する。
「いッ・・・!!」
見えない中での強い衝撃は、想像を超える程の恐怖があった。それは何がいつ来るのか身構える事ができないというところが大きい。視界が失われた中でこれらをどう対処すれば良いか、そして直ぐにでもミネを見つけ出さないと、こんな所で人間一人を見つけるなど不可能に近い。
そこでツクヨが思い付いた打開策が、彼の持つ宝剣の二刀流だった。片手にはそもそも肉眼を使わずに特殊な気配を見て相手を捉える布都御魂剣。そしてもう片方にはリナムルで手に入れた刀だった。
アクセルと共に相手をした黒衣の男が、ツクヨのその刀を見た途端に彼を神饌の儀式へと向かわせるような行動をとった事が、この刀に何か秘密があるとツクヨに思わせるには十分だった。
思い返せば、リナムルの研究所でもただならぬ切れ味を見せた。単純な使い勝手でも、刀は攻撃の速度と範囲に優れている武器でもあり、それに加え何かの条件で切れ味を増すとなれば、山の神に喰われたという状況を鑑みても、その刀の持つ能力に期待するしか今のツクヨにはなかった。
だが布都御魂剣を手にして彼が目を閉じた時に見た光景は、大穴のあちらこちらに散らばる生命体の反応と、ミネが吸い上げている光脈の精気で覆われた、かえって明る過ぎるというものだった。




