山の生態系の仕組み
今の話で問題なかったかと、シンに確認の視線を送るツクヨ。彼の説明はシンには考えられないくらいにまとまった内容だった。だがやはり、ミネの身を第一に心配していたカガリは、それならミネは一体今何処で何をしているのかと口にする。
「待ってくれよ、それならミネさんは今何処にいるんだ?」
「えっ・・・?えっと」
完璧だと思っていたところに、思わぬ指摘を受けて頭が真っ白になってしまうツクヨ。シンに助けを求めるような視線を送ると、今度は彼がカガリを納得させる返しをする。
「ミネは今、アクセル達の依頼の人物の救出に向かってる。湖の近くで彼女の気配を見つけたらしい。知っていながら見殺しには出来ないと駆けて行ったよ」
「そうか・・・。確かにミネさんらしいと言えばらしいな・・・」
一瞬、曇った表情を浮かべたカガリに言葉選びを間違えたかと不安になるも、上手くミネの性格を捉えていたようでカガリを納得させることに成功した。
しかし、危険であるのを知りながら自分の命よりも人助けを優先するミネの決断に感化されたのか、カガリも足を止めて彼の手伝いに向かうと言い出したのだ。
「そうだよ、調査隊は人を助ける為の組織でもあるんだ。それはミネさんから学んだ事。なら俺もそれに従わないとっ・・・!」
「馬鹿を言うんじゃねぇよ、カガリ!」
戻ろうとする彼を止めたのは、ハインドの街で同じく暮らしていたアクセルだった。彼もまた、ギルドの依頼をこなしながらそこに暮らす人々の為に尽くしてきた身。
同じ志しを持つ同志として、余りにも無茶なことをしようとしているカガリを止めてくれたのだ。
「お前が死んだとなりゃぁ、それこそミネは支えを失う。それにお前の事を任せたシン達に、その怒りの矛先が向かわねぇとも限らない。今お前がすべき事は、無事に街まで戻り、ミネの帰りを待つ事だろ」
「それはッ・・・」
後を押すようにカガリの肩に手を添えたのは、アクセルの相棒ケネトだった。ミネなら大丈夫、きっと戻って来ると彼を励ましその歩みを街の方へと向き直させた。
山を下る途中、様々なモンスターや動物達を目にした一行。その動物達の目は虚な目をしており、一心不乱に森の中を駆け抜けて、山のヌシであるミネの元へと向かっている。
「しっかしすげぇな、本当に山の生き物という生き物が、山のヌシの元へと向かってるんだな」
「あぁ、だがこれだけ多くの命が一度に失われて、ここら一帯の生態系は大丈夫なのか?」
アクセルとケネトの会話を、一行は黙って聞いていた。その殆どがケネトの疑問と同じ考えを持っていた。山の神が神饌を行わなければ、回帰の山とその周辺のみならず、この大陸にまで影響を及ぼしかねない精気が溢れ出す。
しかし、このまま神饌が行われれば沢山の命が山の神に喰われ天へと昇る。そうなればそもそも、回帰の山に住まう生き物の殆どは失われ、生態系そのものが崩壊してしまう。
そんな彼らの疑問に、ミネから話を聞いたシンとツクヨも答える事は出来なかった。ミネもあの場で話さなくてはならない事が多過ぎた故に、必要な情報だけを掻い摘んで二人に真実を話した。彼が神饌の後のことを語らなかったという事は、恐らく大きな問題にはならないという事だろう。
だが意外なことに、ケネトの疑問に答える者がいた。それはミネと同じ調査隊のカガリだった。長い間彼と過ごしていたカガリは、それらしい話を酔っ払ったミネから聞いた事があるのだという。
「それは多分大丈夫だ。みんなも知ってる通り、光脈の精気には命の源とも言える生命を育む力がある。以前にミネさんが酔っ払った時にその話をしていたのをよく覚えてる」
「しかし、その生命を育む力とやらも生き残りの生物がいなければそもそも数は増えない。この状況から見て、回帰の山の動物達は殆ど精気を纏ってしまっている。根本が失われた状態で、どうやって嘗ての山の姿を取り戻すと?」
「光脈に精気は、今ある命を育むだけじゃないってミネさんは言ってた。俺もどういう意味か分からなかったけど、二人の話を聞いてミネさんの言っていた事が分かった気がするんだ」
「つまりどういう事だ?」
「その神饌で多くの精気と命を喰らった山の神は、食事により身に宿した力で新たな生命をいくつか生み出すんだ。その生物達を中心に、様々な種族の動物や魔物へと変化させる精気で、再び山を潤していくって言ってた」
「なるほど、光脈の精気には姿形さえ変わってしまう程の力がある。それは種族の壁を越えるほどの変化をもたらす。神饌の後の、何もなくなった回帰の山に、新たな生命体を産み落とし、再び光脈の精気でその数を増やしていく。謂わばその生命体は、回帰の山の“アダムとイブ“って訳だ」
カガリの聞いたというミネの話を理解した一行は、余りにも現実離れした神話の世界のような話に、信じられないといった表情を浮かべる。しかし回帰の山の生命体が殆ど居なくなったとなれば、ミネの言っていた明日には安全に山を越えられるという話も現実味を帯びてくる。




