ギルドと調査隊
ミネがライノを案内したのは、回帰の山の何処かにあると言われている湖に辺りだった。そこには森の中とは思えぬほど美しい景色と、透き通るように透明な水と鏡のようにくっきりと映し出す水面。
ライノもそれなりに様々な山を巡って来たが、これほど美しい湖のある山は初めてだった。
「凄いっ・・・!回帰の山にこんなところがあったなんて」
「ははは、そりゃぁそうさ。ここはそう簡単に来れるところじゃねぇ。山に認められねぇと決して辿り着けない秘密の場所だからな」
「辿り着けない・・・?」
「それよりも、お前に見てもらてぇのはその湖の水面だ」
彼曰く、湖に水面にはその人間の欲するものや会いたい人などが映るのだそうだ。だがミネはライノに何故そんなものを見せようというのか。ライノはミネに言われるがまま、湖の水面を覗き込む。
すると、彼もまたシン達と同じように謎の空間で光る黄金な川を見ることになる。視界と意識が奪われていき、身体の自由が効かなくなると、自然とライノの身体は黄金の川の方へと引き寄せられていく。
争う事は出来ず、何も考えることも出来ない。なるがままに操られるライノが黄金の川に触れようかという瞬間、そこで彼は目を覚ました。しかしそこは回帰の山の森の中ではなく、何処か見覚えのある建物の中だった。
「ここは・・・俺は確か、湖で・・・」
「おう、やっと目を覚ましたか?ライノ」
「貴方は・・・!?ここはギルド?」
ライノがめをさましたのは、ギルド本部の医務室のベッドの上だったのだ。そこにいた隊員に話を聞くと、ライノは森の中で倒れていたのだという。その時、彼の側には誰もおらず、偶然調査で訪れていた調査隊が発見し、ギルドに引き渡したのだそうだ。
「そんなッ・・・!ミネは?誰かそこにミネが居たとは言っていなかったか?」
「おいおい、落ち着けって。まだ安静にしてないと、“精神”に異常が無いとは言い切れないんだぞ?」
「精神・・・?そうか、そうだった・・・」
ライノは自分の身に何があったのかを思い出した。そして回帰の山で意識を失うという事がどういう事を意味するのか。今ライノは、ギルド内部にある医療室で精密検査を受けている。
主に精神に異常はないかを確かめる検査に重点を置き、暫くの間は大人しく経過を見守らなければならないのだと、医務室の隊員は本人に説明する。
「だからお前は、暫くギルドの仕事はお休みだ。大人しくしてな」
「暫く・・・暫くってどれくらいだ?」
「それはお前次第だな。検査に異常がなく、お前の体調や気分に問題が無ければ今まで通りの生活に戻れるさ。早く戻りたいんなら諦めて大人しく・・・!?」
男がライノに無理をさせない為に言葉を尽くすと、彼は素直にそれを聞き入れ毛布を被ると、既にいびきをかいて眠りについていた。
「うおッ!?もう寝てやがる!・・・ふふ、脅しが聞いたようだな?それでいいさ」
それからライノは少しずつ独自に山の調査を行うようになった。それはギルドの決まり事を守りながら、調査隊との規約を破る事のない範囲で行い、少しずつミネだけが知る回帰の山の謎に近づいたという。
その謎の中にはその昔、山のヌシを鎮める為に行われていた悲劇の儀式の事もあった。しかしそれは過去の記録にあったものとは違い、儀式の際に生贄として捧げられてきた者達にの行方についても、ライノは薄っすらと推測がついていた。
ミネとの交流は、森の湖以来パッタリと無くなってしまったが、それから暫くしてライノがギルドの隊長へと昇格した後に、ひっそりとミネはハインドの街で大人しく暮らすようになっていたそうだ。
暫く消息を絶っていたミネは、調査隊を引き継ぐ事になったが、彼のやり方についていけない者達が続出し、調査隊は実質的に衰退し機能を停止していく。
静かな睨み合いが続いていたギルドと調査隊に確執も、それを機にギルド側に実権が握られるようになり、回帰の山の調査はギルドが主導する事が多くなっていった。
ミネの指導で大人しくなり、徐々に縮小していく調査隊は遂にミネのみとなってしまい、その頃に丁度赤子だったカガリを拾ったのだそうだ。調査隊は実質的に消滅し、ミネもカガリの世話で忙しいと人の親らしい行動を取るようになっていった。
カガリがある程度大きくなると、ミネは彼を調査隊に加え、それからは二人だけで調査隊を続ける事になった。彼らの調査に関しては、隊長となったライノの権限により自由にさせてやるという方針へと変わり、ギルドと調査隊は互いに干渉しなくなった。




