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転生したらヴァイキングの農民でした。文化勝利を目指します  作者: ダイスケ
第1章:トールステイン大王伝記黎明編

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第8話 サウナの日 5歳 冬

 翌日、村長の家から使いが来て、西風炉の実演はサウナの日の2日後になった。

 サウナの日。正確には浴びる日とかいうらしいけど、家では単にサウナの日、と呼んでる。

 この村では週に1回、サウナをするのが習慣になっているから、予定はサウナの日の何日前、何日後で十分に伝わるわけだ。

 まさにサウナを中心に村人の生活は回っている。

 それぐらいサウナは生活に密着しているし大事なんだ。


 我が家にも敷地には小さなサウナ小屋がある。

 別に自慢することでもない。

 大抵の自由農民の家にはサウナ小屋が昔からあるからね。


 うちの小屋も建てたのは父ちゃんじゃなくて、爺ちゃんの父ちゃんだから曾祖父ちゃんかな。それを補修しながら使ってる。

 うちも入植して長いからね。自宅なんて誰が建てたのかも判ってない。


 サウナの日は、父ちゃんは暗いうちから張り切って起き出して、半地下になっている小さなサウナ小屋の中で何時間も焚き火をして、熱い煙だらけにしてる。

 スモークサウナ、と呼ばれる形式で、日本で想像される湿式とは結構違う。

 小屋と石が焚き火で十分に熱くなったら火を消し屋根の小窓を開けて煙を追い出してから、人間が入る。

 煙が抜けたサウナ小屋の中には焚き火で熱くなったサウナ石が置かれているから、柄杓で石に水をかけて蒸気でサウナにする方式なのである。


 けれど冬のサウナでは、人間が入る前にやることがあるんだ。


「ほら起きて!エリン、トール!毛皮と服は持った?」

「うー寒い…」

「はーい…」


 エリン姉と僕は来ていた服も脱いで、布団代わりにしている毛皮と一緒に小脇に抱える。父ちゃんと母ちゃんは流石に裸じゃないけれど、夏の服だけの薄い格好になって、冬の服と大きな敷物の毛皮を抱える。


「よし貸せ!熱が逃げないうちにさっと済ませるぞ」


 父ちゃんがサウナ小屋の扉を軽く開くと、母ちゃんが僕達の抱えた毛皮や衣類を素早く小屋の中に放り込み、続けて自分たちの服と大きな敷物を狭い小屋の中に張られた綱にうまく吊るした。


「あとは煙が抜けるまで待とう。家に戻るぞ」

「うーさむさむ!」


 家の中に駆け込むと、エリン姉と僕は敷物がなくなって土が剥き出しの土間の中央で燃えている石炉の焚き火にあたる。

 そうして体が温まったら、大麦の藁束で寝床や土間を軽く掃除するんだ。


 サウナの日は、人間だけでなく家や敷物や衣服の掃除も兼ねてる。

 サウナ室で衣類と毛皮を煙で燻して虱やダニを殺すわけだね。

 冬は家で家畜と同居していることもあって、だいぶあちこち痒いんだ。

 だから欠かせない儀式。


 日本でも昔は風呂を沸かす湯で洗濯もしたのと同じことだね。

 煙で燻してサウナで蒸す、という方式の違いがあるだけ。

 野蛮人は風呂に入らない、という偏見については、毎週サウナをする習慣がある北方の村は、かなりマシな清潔度合いだと思う。


「そろそろいいぞ」

「はーい」


 サウナ小屋に残った煙の具合を見ていた父ちゃんの合図で、毛皮や衣類が取りのけられた小屋へと急いで駆け込む。


 もちろん、各々の手には自分用の白樺の葉がついた枝を持っている。

 白樺の枝葉はサウナに欠かせないのだ。


 白樺は落葉樹であり冬には葉を落としてしまうのだけれど、夏にたくさんとって乾燥させたものが保存してある。


 明り取り兼煙抜きの小窓だけのサウナ小屋の中は暗くて狭い。サウナ小屋の中央には長時間の焚き火で熱された石が積んであり、脇に木桶に汲まれた水と柄杓が置いてある。


「あたし、サウナ小屋の匂い好きだなあ」


 と、エリン姉が言う。

 言われてみれば、小屋の中は嗅ぎ慣れた薪の匂いだけでなく、服や毛皮に香りをつけるためか別の植物の匂いもする。


「ハンノキと白樺も一緒に燃やしてみたの」


 母ちゃんが、工夫が認められて嬉しそうに言う。


「ほら、狭いんだからお前達も座れ。水をかけるぞ」


 父ちゃんが桶から柄杓で水を汲み上げて、熱くなり積み上げられた石に水を少しだけかけると、じゅわああっ、と音を立てて熱い蒸気が小屋に満ちる。


「ふううううっ。節がほぐれる…」

「ほんとねえ…疲れが抜けるわ…」


 うーん。父ちゃんと母ちゃんがおじさんおばさん臭いこと言ってる。

 まあでも温かいのはいい。手足の指先がジンジンする。


 大人しく座っていると、汗がじんわりと額に浮かんでくる

 そこで、持ち込んだ白樺の枝で体を軽く叩く。


 白樺の葉にはサポニンが含まれているので、サウナ中に枝で体を軽く叩いて血行を良くしつつ汗とサポニンで汚れを浮かばせることができる。


「熱い!」

「トール、もうちょっと我慢しなさい」

「無理!お先に!」


 体が小さいからか、すぐに体も頭も熱くなるのだ。

 バタン、と扉を開けて外の雪に飛び込むんだ。


「うーん冷たい!気持ちいい…」


 雪の中で転げ回り、髪の毛をこすり、体中に雪をこすりつけて浮き出た汗と垢を落とすのは最高に良い気分だ。

 昔飼っていた犬が、泥の中で転げ回っていた気持ちが少しわかる。

 そうしていると体が冷えてくるので、サウナ小屋の中へ駆け込むんだ。


「寒いっ!熱いっ!」

「忙しいやつだな」

「ほんとねえ」


 暗くて熱いサウナ小屋の中で、父ちゃんと母ちゃんが笑う。


「ううっ…あっつーい!」


 と、今度はエリン姉が扉を開けて雪の中へ駆け出して行った。

 家族でサウナ小屋で過ごす時間があるというのは、いい習慣だと思う。

 サウナ小屋と雪の往復。コレを何度も繰り返すんだ。

 ちなみに父ちゃんと母ちゃんは2、3回。姉ちゃんは5回。僕は7回繰り返した。


 何時間かサウナで過ごしてから家に戻り、水を飲んだら父ちゃんと母ちゃんは髭や髪の手入れ。

 貴族ヤールほどではないけれど、自由民カルルであることを示すためには、ある程度は髭も髪も長くしていても手入れできる富貴を示さないといけない。


「じゃあトール、よろしく」


 僕の前に座り込んだエリン姉が、背を向けた。

 なぜかエリン姉の髪を編む役割が僕に回ってくるのは解せないが。


「だってトールの方が上手だし」


 と言われては仕方がない。

 丁寧に櫛けずり、艶を出した髪を編み込んでいく。

 しばらくしたら交代だ。

 目を閉じて髪を小さな手でたどたどしく弄られるのに任せる。


 薄目を開けると、父ちゃんが髭を苦戦しながら整えている間に、父ちゃんの髪は母ちゃんが編んでいるのが見えた。

 両親の仲が良いのはいい。

 自然環境が厳しいんだから、家族は仲良くしないとね。


 家族でお互いの髪を結っているうちに外はすっかり暗くなっているので、大麦粥に刻んだ干し鱈と玉ねぎとセージが入った軽い食事を済ませて、煙で燻されて少し香りがよくなった寝具で寝る。


 これがサウナの日の過ごし方なんだ。

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― 新着の感想 ―
主人公にチート?らしき編み物や繕い物などの手先の器用さは今後何か伏線になったりするのかな
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