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待ち焦がれた助け

「な……今度は何なのよ!?」


 マーラは叫びながら扉のほうを振り返る。

 扉が吹っ飛ばされ、破壊された衝撃で、モクモクと煙が立ち上がる。



「なんで……? あの扉には私が闇魔法で作った結界をはってたのよ……それをこんな……あ、ありえないわ!!」


(マーラの話が本当なら、マーラよりも力のあるものが扉を壊したってことよね……)


 マーラが驚き見つめる中、ベルティーナも緊張から体を固くする。



 煙の中からこちらに向かって歩いてくる人影が現れる。


(!?……あれは……)




「レイモンド様!?」


「ベルティーナ!!」


 レイモンドはベルティーナの姿を捉えると、ベルティーナへと駆け出す。

 しかし、それよりも先にレイモンドとベルティーナの間にマーラが立ちはだかる。

 そして今までの不機嫌な表情が嘘のように、艶めかしい美しい笑顔を見せる。




「ああ! ラモン様!! こちらまで迎えに来てくださったのですね!! ずっとお会いしたかったわ!!」


 そしてマーラはレイモンドへ向かって、両手を広げその胸に抱きつこうと走り出した。

 しかし、レイモンドはそれを寸前のところでヒラリとかわす。

 勢いを止められなかったマーラはそのまま床に向かってキュッと大きな音を立てて、盛大に突っ込んだ。



 そのあまりに盛大な転び様にベルティーナは痛ましげに目を逸らす。


(うわぁ…………あれは絶対痛い……)


 思いっきり顔から突っ込んだのだ。

 あんな目に合わされたとはいえ、あの美しい顔に傷がついたと思うと、ご愁傷様ですと手を合わせずにはいられない。



 レイモンドはそんなマーラを見て何も思わないのか、すぐにまたベルティーナに視線を戻す。

 そしてベルティーナの前でしゃがみ込みと、申し訳なさそうに顔を歪めた。


「ベルティーナ、遅くなってすまない。怖かっただろう?」


(えっ!? マーラはいいの? 無視なの?)


 顔から突っ込んだマーラはピクリとも動かない。

 レイモンドはそんなマーラには目もくれず、ベルティーナをそっと抱き寄せた。

 心の中ではそんな突っ込みを入れたものの、その温もりにホッと緊張がほぐれる。

 そして思っていた以上に緊張していたのか、それと同時に涙が溢れ出した。




「ベルティーナもう大丈夫だ」


 レイモンドはベルティーナを慰めるように背中と頭を優しくさする。


 止めたくても涙が止まらないベルティーナはレイモンドの服をぎゅっと握る。

 一度は死んでしまうかもと覚悟したのだ。

 前世で死を体験したとはいえ、その状況になると怖くてたまらなかった。

 今世でもこんな早くに死んでしまうのかと……



 レイモンドが現れた時、もう大丈夫なのだと心の底から安心できた。助かったのだと。

 そしてベルティーナを心配してくれる優しげな表情を見て、胸が暖かくなった。


(ああ……やっぱり私はレイモンド様のことが好きなんだわ。例え元魔王であったとしても……)




「レイモンド様、助けに来てくれてありがとうございました」


「そんなのは当たり前だ。それより君を危険な目に合わせてすまなかった」


「それはレイモンド様のせいではありません! それにあの魔石。レイモンド様がくださったあの魔石のおかげで私は助かったのですから!」



 レイモンドはベルティーナの言葉にふっと笑みを浮かべる。


「この魔石を君がつけていてくれて本当によかった。だがこれほど魔力を消費しているということは……痛い思いをさせてしまったのだろう? 私がもっと早く君を見つけられていれば……」


「大丈夫ですわ! 魔石のおかげで今は全く痛みもなければ傷もありませんから!」


「それならばよかった。本当に君が無事でよかった」


 レイモンドは色気溢れる表情で微笑むとそっとベルティーナの顔に手を当てる。

 じっと目を見つめられ、そしてレイモンドの手がベルティーナの顎の方へとおり、そっと持ち上げる。

 真剣な瞳でベルティーナを見つめるレイモンドの顔がゆっくりと近づいてくる。

 ベルティーナは心臓を跳ねさせながら、潤んだ瞳をゆっくりと閉じた。




「ちょ、ちょっと待って!!!! 私を無視して二人だけの世界に入らないでよ!!!」



 その言葉にビクッとベルティーナは肩を跳ねさせると、咄嗟にレイモンドから距離をとる。

 レイモンドは止められたことに相当苛ついたのか、不機嫌な表情でマーラを睨みつける。




「見てわからないのか? 今取り込み中だ!」


(何流されちゃってるのよ私! こんなことをしている場合じゃなかったわ……みんなに見られてたなんて……恥ずかしすぎるわ……)


 心の中で悶絶するベルティーナの隣で、レイモンドは平然とマーラを睨んでいる。

 レイモンドの威圧にビクッと体を震わせながらも、額と鼻の頭を赤く擦りむいたマーラがレイモンドに訴えかける。



「いえ、あの……ちょっと待ってください、ラモン様。よく見てください! その女はラモン様を倒したあの聖女生まれ変わりなのですよ!?」


「マーラ、そんなことはわかっている。しかし、それがどうした?」



 レイモンドのその言葉にポカンとした表情でマーラが見つめる。

 ベルティーナもまた、マーラと同じようにレイモンドを見つめ、固まる。



(え…………? ちょっと待って……彼女のことをマーラと理解していて、私のことも聖女の生まれ変わりって知ってるってことは……やっぱりレイモンド様は前世の記憶があるの!?)




 ベルティーナが混乱して見つめる中、何とか意識を取り戻したマーラが焦ったように尋ねる。



「ラモン様は聖女を、その女を消すために近づいたのでしょう?」


「誰がそんなことを言った? 私はベルティーナを愛しているし、彼女の前世である聖女を恨んでなどいない。むしろ感謝している。私は彼女に会うためにワザと魔王城まで招いたのだぞ? なぜそれで恨むことがある?」


「「え!?」」


 ベルティーナとマーラが揃って、衝撃の事実に驚きの声をあげる。

 もはや何がどうなっているのか全くわからない。




「あー…………レイモンド様、それはちゃんと説明しないとわからないと思いますよ? 見てください。ベルティーナ様もびっくりしておられるではないですか」


 その冷静な声に目を向けると、扉の方から苦笑い浮かべたカイが中へと入って来た。

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