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最悪な知らせ

「レイモンド様?」


「父上」


 パーティー会場の入り口でベルティーナを待っていたレイモンドはフリードの不思議そうな顔に首を傾げる。


「レイモンド様、娘とはまだ会っていないのでしょうか?」


「ええ……昨日ベルティーナから家族と一緒に来ると聞いていたのだが」


「あら、やだ……あの子ったらまさか使用人に言伝もさせていなかったのね……」


 トリシャの笑顔を貼り付けながらも内心怒っている様子にフリードが「まぁまぁ」と落ち着かせる。



「もしかしたら行き違いになっていたのかもしれません。娘は私たちより先に出たのです。ですのでてっきりもうレイモンド様とお会いしているものと思っておりました」


 レイモンドは嫌な予感に厳しい表情になる。


「ベルティーナはだいぶ前に外出したのか?」


「ええ。もう会場に着いているはずです」





「レイモンド様!!!」


 その時、焦った表情のカイがレイモンドを大声で呼び、慌てて走って来る。そしてそのままの勢いでレイモンドに頭を下げた。


「申し訳ございません!! ベルティーナ様が….…誘拐されました……」


「なんだと……それは一体どういうことだ!? お前は何をしていた!!!」


 レイモンドの怒声に周囲の人たちが驚き視線が集中する。

 そのあまりの怒気に自分が睨まれたわけでもないのに顔を真っ青にしている人もいる。

 それほどにすごい殺気を振り撒くレイモンドの後ろで、カイの言葉に顔色を悪くしたフリードが尋ねる。


「そ、それはどういうことですか……? ベルティーナが誘拐!? 本当なんですか?」


 トリシャも顔を真っ青にして嘘であってほしい言わんばかりの表情でカイを見つめる。

 ルドヴィックは状況についていけないというように目を見開き固まっている。


「ええ。残念ながら本当です。私は近くにいながら守れませんでした……本当に申し訳ありません……」


 カイは悔しそうに眉を寄せ、深く頭を下げる。

 その言葉にトリシャはフラつきフリードが何とかそれを支えた。


「ベルティーナは……ベルティーナは一体どこに……何でもいいです! 何かわかることはありませんか!?」


 フリードは声を震わせながらも何とか娘を助けたいという一心でカイに尋ねる。



「父上。ベルティーナのことは私に任せてくれないだろうか?」


「レイモンド様……?」


 レイモンドは悔し気に拳を握り締める。

 本来であればベルティーナを迎えに行く予定だったのだ。

 ベルティーナが断ろうと無理にでも一緒に来るべきだった。

 まだ聖属性魔法使いの誘拐の犯人が捕まっていない状態で、いつベルティーナ狙われてもおかしくはなかった。

 しかし、自分が気をつけていれば、カイを護衛につけていれば大丈夫だろうと相手をみくびった。

 その結果が一番最悪な状況を招いたのだ。


 レイモンドは自らを落ち着かせるように深く息をすう。

 そしてフリードをまっすぐ見つめる。


「まだベルティーナの居場所は分からない。しかし犯人と繋がりがあるだろう人物は見当がつく」



 その言葉にフリードは希望に縋るように深く頭を下げる。


「分かりました。どうか……どうか娘を助けてください……」


「任せてくれ」




 レイモンドが頷くとすっとカイがレイモンドの隣に立つ。

 そしてレイモンドにだけ聞こえるよう、耳元で小さな声で話す。


「レイモンド様、申し訳ありません。今の私では太刀打ちできませんでした」


「……やはり魔族か?」


「ええ。魔族が関わっていることは間違いありません。ベルティーナ様が乗った馬車が黒ずくめの格好をした者たちに襲われました。私はすぐに助け出そうとしたのですが…………近寄れなかったのです」


 カイの言葉にレイモンドは眉を寄せる。


「近寄れなかった? ということは結界か何かで阻まれたのか?」


「はい……それも闇属性魔法の結界です。今の私には闇属性魔法の結界をすぐに壊すほどの力はありません。私が何とか結界から抜け出した時にはベルティーナ様は拐われたあとで……しかも追跡を妨害するような闇属性魔法までかけられていたのです……」


「お前が苦労するほどの結界に追跡妨害か……これはただの魔族ではないな……」



 カイの魔力はレイモンドほど強いとは言えないが、その辺の魔法士や魔族には負けないほどの力を持っている。

 それに加えて身体能力も高く、カイに勝てるものなどレイモンド以外にほぼいないと言っていいほどだ。

 そう考えると相手は相当に能力の高い魔族ということになる。


 レイモンドはクッと歯を噛み締めると、会場の外へ向かって歩き出す。



「とりあえずあの侯爵と関係のあるところをしらみ潰しにあたるぞ」


「はい」


 レイモンドの後ろにカイが付き従う。



 その時、レイモンドを呼び止める声が響いた。




「シュバルツ騎士公爵閣下!! お待ちください!!」



 こちらに向かって走って駆け寄る男に、すっと目を細めるとレイモンドは威圧感丸出しで厳しい視線を向ける。



「今は緊急事態だ。私は忙しい」


 一気に数度気温が下がったような錯覚をさせるほどの威圧感に周囲の人たちが息をのむ。


 今は一刻も早くベルティーナの居場所を見つけ出し、助け出さなければいけない。

 そんな時に呼び止められるとはと怒りの感情を隠しもせず見つめる。


 しかし、不機嫌を全面に出したレイモンドの表情にも屈せず、呼び止めた本人であるアロイスが目の前まで進み出た。



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