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報告会

「ねぇ、どう思う?」


「どうと聞かれましても……それは子どもたちが他に漏らさないよう願うしかないんじゃないですか?」


「いや! そうじゃなくて! そっちも大事なんだけど!」


 アロイスは盛大にため息をつくと、やれやれといったふうに首を振る。


「私に色恋沙汰がわかるわけないでしょう? だいたい惚気を話にくるのはやめてください」


 ピシャリとそう言い放つアロイスにベルティーナは顔を真っ赤にする。


「ち、違うわよ! 惚気じゃないわ!! レイモンド様に前世の記憶があるのかということよ!」


「それこそ直接話したこともない私がわかるわけないでしょう?」


 すげなく返され、ベルティーナは恨めしそうにアロイスを見つめるが、アロイスは全くそんな目を気にもしていない様子で紅茶を(すす)る。


「まぁ、それはそうと。流石はシュヴァルツ騎士公爵ですね……直々に陛下から聖属性魔法の使い手誘拐の捜査を依頼されるとは。私もその話を少し耳に挟んではいたのですが、年齢や性別は知りませんでした」


「あら? 誘拐の話は知っていたのね」


「ええ。ですがあまり情報を漏らさないようにしているのか、あまり情報を得られなかったのですよ。しかもまさか闇属性魔法が使われた可能性があるなんて……もう少し詳しい情報がわかればベルティーナにも伝えようと思っていたのですがね」


 基本的に扱いは雑だが、このようなベルティーナにとって重要な話などはいつもしっかり調べて教えてくれる。

 こういうところはとても助かっているのだ。

 だが感謝を伝えても彼なりの照れ隠しなのか、皮肉や憎まれ口で返される。

 だからいつもベルティーナは心の中でお礼を言うのだ。


「なんですか? 大事な話をしているのにニヤニヤと……気持ち悪いですよ」


「あなたって本当に失礼よね」


 ベルティーナはジト目で返すとため息ついた。




「まぁとにかく注意してくださいね。まだ何もわかっていませんし……闇属性魔法が使われていたとすれば相当危険ですから……私もまた何か情報が得られればお伝えします」


「わかったわ。お願いね」



 アロイスはベルティーナの言葉に頷くと、ふと思い出したように尋ねた。


「そういえばもう少しでパーティーですね? 当然ベルティーナも出るのでしょう?」


「ええ……あまり出たくはないのだけどね……でも王族主催で平和を記念するものとなれば出ないわけには行かないでしょう?」


「まぁあなたが主役のようなものですからね」


「私じゃないわよ。十和よ、十和」


「生まれ変わりなのですし、同じようなものでしょう?」


「いやいや。違うでしょう」


 それは聖女であった十和が魔王を倒した日を記念し、毎年王族主催で行われるようになったパーティーだ。

 自分の命を賭けてまで戦った聖女を敬い、偲び、そして平和へと導いてくれた感謝を示すものだ。


 まぁ実際には命を賭けて戦うつもりは全くなかったわけだが……


 毎年恒例で行われるこのパーティーは貴族は基本的に全員参加というのが通例となっている。

 たとえ公爵家であろうと男爵家であろうと貴族であれば出席しなければならない。

 アロイスは伯爵家三男ということもあり、他にもパーティーであれば出なくてもよいことも多い。しかし流石にこのパーティーだけは毎年出席している。


 このパーティーに出ないということは何か身体的に理由があるか、または何か後ろ暗いところでもあるのかと疑われても仕方がないのだ。

 なので行きたくないという理由で欠席というのはあり得ない。


 ベルティーナはため息を吐くと、アロイスに尋ねた。


「そう言うあなたも今回のパーティーは出るのでしょう?」


「はい。基本的に出ないわけにはいきませんし、それに調べたいこともありますからね」


「調べたいこと?」


「まだ確証はないので、またそれもはっきりしたら教えますよ」


 アロイスの含みのある微笑みにベルティーナは引き気味で「そう」と返事をした。



(うわぁ……標的になった人は御愁傷様ね……)


 あの笑みを浮かべている時のアロイスは関わらないに限るのだ。

 標的にされたら最後、どうやって調べたのだというところまで調べ上げる。

 そのおかげで今まで何度も助けられたことがあるので、ベルティーナはあえて見ないふりをしている。

 心の中で今回の哀れな標的に向かって、ベルティーナ御愁傷様ですと手を合わせた。



「ベルティーナは今回は騎士公爵閣下のパートナーとして出席するのですか?」


「は!? 何言ってるのよ! そんなわけないでしょう!」


「それだけ熱烈に迫られているのなら、パートナーとして誘いを受けたのかと思っていたのですが?」


「熱烈って……違うわよ! しかもまだ婚約者にだってなってないんだから!!」


「へ〜『まだ』ですか?」


「ち、違う! だ、だから……!!」


 ベルティーナは誤解を解こうと焦りながらアロイスを見る。

 しかしその表情でこちらを揶揄っているのだと察したベルティーナはジト目でアロイスを見つめると、そっぽをむいた。


 このパーティーは婚約者と出る者も多い。

 平和の記念というパーティーでもあるので、ダンスのメインホールは美しく飾り付けられ、若い女性にとってはこのパーティーでパートナーと踊ることは憧れでもあるのだ。

 そして何と言ってもメインホールは魔王を倒した聖女と王太子であり勇者でもあるウィルフリードがダンスを踊り、魔王を倒した暁は結婚を約束した場所だ。


 いつから言われ始めたのか、この場所でパートナーとダンスし、結婚の約束をすれば一生幸せに仲睦まじく暮らせるという噂がある。

 なので婚約者がいる者などは家族よりもその相手と出席が多いのだ。


 しかし実際のところ十和は魔王討伐後に亡くなり、ウィルフリードと結婚したわけではない。

 この噂を聞くたびベルティーナは「いや、結婚したわけではないですけどね」とツッコミたくなる。

 そんなことを言うと間違いなく白い目で見られるので、決してそんなことはしないが……


 ベルティーナはため息を吐くと、意味のないことを考えるのはやめようと頭を振り、立ち上がった。


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