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話を聞いてください

「そうだ。彼女は天使様だ」


(レ、レイモンド様!?)


 レイモンドの言葉にベルティーナは何を言っているんだという目で見つめる。


「やっぱり! ほら! アベル、天使様だって!」


「え……? いや、あのさ……」


 アベルも戸惑っているのか、レイモンドの冗談を言っているようにも見えない真面目な顔を見て、言葉につまる。

 アベルもきっと、内心何言ってんだと思っているのだろう。

 しかし喜んでいるフランの手前何も言えない。


「あの……レイモンド様」


 ベルティーナが小声で話しかけると、レイモンドは唇に人差し指を当て、妖艶ににっこり笑う。

 そして子どもたちのほうに視線を戻した。


「君たちにお願いがあるんだ」


「お願い? 何? 僕たちにできることならなんでも言って!」


 フランは天使様のためならと真剣な表情でレイモンドを見つめる。


「天使様はみんなのことをこっそり見守っているんだ。そうして君のような人を見つけると助けている。しかし教会に知られてしまうと、天使様はこっそり動けなくなるだろう?」


「そうだったんだね……でも教会がそれを知れば、協力してくれるかもよ?」


「いや、教会は教会に来た人たちを助けるのであって、こんな場所で倒れている人には気づけないだろう?」


「うん……そうかもしれない……教会にはたくさん怪我をした人が来るもんね」


 フランはレイモンドの言葉に頷く。

 教会は聖属性魔法を頼る人たちを取り込むために、わざわざ一般の人のところへ赴いたりはしないのだ。

 今、教会では基本的に信者になることで初めて聖属性魔法を受けられるようにしている。

 そうしてなんとか人々を繋ぎ止めているのだ。


「そうだろ? だから今日ここで見たことは私たちだけの秘密にして欲しいんだ」


「そっか! うん! わかった!」


 フランは疑うこともなくレイモンドの言葉に元気に頷く。


 確かに教会に内緒にしておくには、二人にも秘密にしてもらうしかないのだが、まさか天使をかたることになるとは……

 ベルティーナは心の中で頭をかかえる。


(どう考えたって天使様は盛りすぎでしょ……)


 重すぎる配役にベルティーナはこっそりため息をついた。

 フランは完全にレイモンドの言葉信じきっているようで、ベルティーナ向けてキラキラした目を向けてくる。

 ベルティーナは居心地の悪さを感じながら、チラッとアベルに視線向ける。


 アベルはなんとなく聖属性魔法を使える者の立場を理解しているのか、胡乱(うろん)げな目でレイモンドを見つめる。

 レイモンドはその視線の意味を理解しているようだが、それには触れず、アベルに尋ねた。


「君は?」


「……はー……わかったよ。ねーちゃんには助けてもらったからな」


 アベルはため息をつくやれやれといったふうに頷いた。

 レイモンドはその言葉に小さく頷く。

 そしてベルティーナに体を寄せると、耳元で小さく呟いた。


「これで君の秘密は守られる。安心するといい。」


 そのレイモンドの言葉ベルティーナはふっと安堵の息を吐く。

 大きな嘘をつくことにはなったが、ベルティーナの意図を汲んでレイモンドが協力してくれたことはとてもありがたかった。

 お礼を言わなければとベルティーナがレイモンドのほうを向こうとした時、耳元にふっと吐息がかかる。

 そして先ほどとはトーンの違う甘い声が囁く。


「私としても、君を教会などに取られてはたまらないからな」


 熱をはらんだような声で耳に直接吐息を感じたベルティーナは真っ赤になって手で耳を押さえる。

 非難を込めてレイモンドを睨むが、レイモンドは全く気にしていない様子で、むしろベルティーナのその様子に満足したように微笑んだ。




「ところでそっちのにーちゃんはねーちゃんの恋人なのか?」


「ち、違います!!」


 思いがけないアベルの言葉に、ベルティーナは間髪入れずに言葉を返す。

 しかしベルティーナの言葉に補足するようにレイモンドが言葉を続ける。


「婚約者候補なんだ。近いうちに婚約者になる予定だ」


(な…………)



「じゃあお兄ちゃんも天使様なの?」


「私は違う」


「へー……人間と天使様でも結婚できるんだね!」


「ああ」


 ベルティーナがその自信に溢れたレイモンドの宣言に言葉を失っている間に会話が進んでいく。


(婚約者になることもまだ了承してないのに!!)


 誰がそんなことを決めたのだと思いつつも、レイモンドの言葉に勝手に鼓動が速まる。

 フランとレイモンドの間で話が進んでいく中、アベルが二人の話に入る。


「でもねーちゃんはさっき速攻で恋人を否定してたぞ? 本当の婚約者候補なのかよ? どうなんだ?」


 アベルがベルティーナに視線を向ける。

 チラリとベルティーナがレイモンドを窺うと優しげな笑みにさらに体温が上がる。


 ベルティーナは真っ赤になりながらもなんとか顔を横に振った。

 しかしそんな反応のベルティーナの様子をどう取ったのか……

 アベルが「あー……」と声を漏らす。


 そして、そういうことかというように頷いた。


「照れ隠しってやつだな?」


「こういうところも可愛いだろう?」


 レイモンドの惚気のような言葉にやれやれと頭を掻きながら、アベルはもういいというように手を振った。


(ちょっと待って! なんかすっごく勘違いされてる気がする!! 誤解をとかなくちゃ!)


 そう思い口を開いたところで、レイモンドがさっと立ち上がった。


「先ほどの光、もしかしたら他にも誰か路地が明るくなるのを見ていたかしれないし、そろそろ移動したほうがいいだろう」


「そうだな」


「わかった!」


 ベルティーナだけを置いてけぼりにして、皆はこの話は終わったというように立ち上がった。


「ち、ちょっと……あの……」


「さぁ行こう」


 レイモンドはベルティーナ手を取ると大通り方へと歩き出す。


「あの、だからさっきの話だけど……」


「ほら、もういーよ! ねーちゃんだってさっきの魔法バレたらやばいんだろ?」


「いや、それはそうなんだけど、だからね……」


「大丈夫! 僕たち他の人には内緒にするからね!」


 ベルティーナがどれだけ口を開いても皆に遮られる。

 ベルティーナは全く話を聞いてもらえない状況に心の中で叫んだ。


(もう!! なんで説明させてくれないのよー!!)



 

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