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街中でもやっぱり視線は集中します

「ベルティーナ、疲れていないか? 大丈夫か?」


「あ、はい。大丈夫ですわ……」


 疲れていないか? と問われれば、もちろん疲れている。

 しかしそれを「はい、あなたのせいで」とは絶対に言えない。

 何故こんなにも疲れているのか。それはずっと注目され続けているからだ。ベルティーナの隣を歩くレイモンドが……


 ベルティーナはため息をついた。

 街に来てからずっと、若い女性だけではなく、おば様たちからも熱い視線を受けている。

 これも全てベルティーナの隣を歩く、この美し過ぎる騎士公爵様のせいである。




 あの日、やはりトリシャを止めることはできなかった。

 フリードが家に着くとすぐにトリシャはフリード捕まえた。

 そして早口にレイモンドのことを話すと、まるで断ることはあり得ないでしょうという圧でフリードに詰め寄った。


 

 フリードはトリシャに圧倒されながらも、意思を確認するようにベルティーナに視線を向けた。

(さすがお父様!!)と心の中で大きな拍手を送る。


 そしてベルティーナはフリードに涙目で必死に訴えた。


(どうか、了承しないで!! お母様に負けないで!!)と……


 だがしかし何を勘違いしたのか、フリードは少し切なそうに目を細めると、しばらく空中を遠い目をして見つめる。

 そして「それほどまでに行きたいのだな……」と小さくこぼした。まるで可愛い娘を嫁にでも出す父親のごとく涙を堪えたような笑みを見せる。

 とても嫌な予感がする……


 ベルティーナが「お父様?」と恐る恐る呼びかける。

 するとフリードはベルティーナに微笑みかけ、小さく頷いた。


「……わかった。楽しんでくるといい」


 その瞬間、ベルティーナは心の中で崩れ落ちた。


(お父様〜!!! わかってません! 違います!! それ絶対勘違いです!!)


 違うと大きな声で叫びたいのは山々だが、トリシャが目を光らせている手前、結局何も口を挟めなかった。


 そして数日も経たないうちに、何故か当事者ではないトリシャとレイモンドが日程を組み、今日のデートにいたった。


 今朝のトリシャのそれはもう嬉しそうな顔を思い出すと、さらに疲れが増してくる。

 ベルティーナはもう一度ため息をつくと、ふとお店のガラスに反射して映る、自分たちの姿を何気なく見つめた。



 流石にいつものドレス姿で外出することはできないので、二人は商家の令息、令嬢のような衣装を身に纏っている。

 だがしかし、レイモンドの美し過ぎる容貌と高貴な雰囲気は完全に貴族だと一目見てわかってしまう。


(最初から無理があると思っていたわよ……レイモンド様が貴族以外に見えるはずがないもの。これって私が商家の娘の格好をしてる意味もないんじゃないの?)


 ベルティーナはレイモンドのせいで変装が意味のないものになっていると思っているが、ベルティーナの珍しい髪色と瞳の色、そして容貌ももちろん一般人には決して見えない。

 二人揃って浮きまくっているが、当の本人たちは気づいていなかった。




「ベルティーナ、人が増えてきた」


「ええ、そうですわね」


 レイモンドはそう言うと少し頬を染めながら、すっと手を差し出す。


「はぐれてはいけないから手を繋がないか?」


「い、いえ。これくらいなら大丈夫でしょう?」


 その言葉にベルティーナは焦ってそう返した。

 するとレイモンドが目に見えて落ち込んだように肩を落とす。


(だって……今でも隣を歩いてるせいで視線が突き刺さっているのに、手を繋いで歩くなんて……そんなことすれば今以上に視線に晒されるじゃない!! それに……)


 ベルティーナはチラッとレイモンドを見つめる。

 レイモンドはその視線に気付いたのか、色気のある悩ましいという表情でベルティーナを見つめ返す。

 その色気溢れる表情にベルティーナは薄く頬を染めながら、レイモンドとは反対の方向に急いで視線を動かした。


(それにやっぱり、たとえ前世が魔王といえども、こんな美し過ぎる人と手を繋ぎながら一日デートなんて絶対無理よ!! 少しは耐性がついてきたけど、こんな至近距離で手を繋ぎながら、この美しい顔を見続けるなんて絶対無理!!! 私の心臓が持たないわ……)

 

 ベルティーナは早くなる鼓動を落ち着かせるために、少しでもレイモンドと距離を取る。

 そして何か別のものに意識を向けようと街を見渡した。


「レイモンド様、あれは何かしら? 行ってみましょう!」


 ベルティーナは無理やり意識を切り替えると、人混みができている店の方へを速足で歩き出した。


「待て、ベルティーナ。一人で行っては……」


 レイモンドが制止するよう声を上げる。

 しかしベルティーナはなかなか落ち着かない鼓動を抑えるのに必死で、レイモンドの声は届いていなかった。


「見てください! レイモンド様! あちらに珍しいものが……あれ……?」


 しばらく歩き、ベルティーナが後ろを振り返ると、そこにレイモンドの姿はなかった。

 どうやら人混みの中を意識を切り替えるため、夢中で歩いていたためはぐれてしまったらしい。


(えっ? どうしよう? はぐれないって言ったのに、まさか本当にはぐれちゃうなんて……)


 あまりに迂闊な自分の行動にベルティーナは大きなため息をついた。


(私って本当に馬鹿だわ……多分帰り道はわかるけど……レイモンド様が探されているだろうし……)


 どうしたものかと悩んでいるとそっと肩に手が置かれた。

 ベルティーナははっとして振り返る。


 やはりレイモンドが探してくれていたのだろう。

 申し訳ないことをした。謝らなければと勢いよく振り向く。



「よぉ、ねーちゃん。身なりのいいおねーちゃんが一人でこんなところをうろついてたら危ない狼に攫われちゃうぜ」


「そーそー。俺たちが送っていってやるよ。」


 しかしそこにいたのはレイモンドではなかった。

 いかにもやばそうな二人組の男が下卑た笑みを浮かべ、ベルティーナを見下ろしていた。


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