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前世のその後と今世の繋がり

 アルドとウィルフリードが無事エルドラード帝国に着いたとき、国を挙げてたくさんの人が歓声とともに迎えた。

 皆、魔族の脅威が無くなったことに涙し、喜んだ。

 しかしそこに聖女の姿や騎士たちの姿がなかったことに悲しむ者も多くいたという。




「アルドよく無事で戻りましたね……」


「!! お婆様……」


 アルドはその祖母の姿にとても驚いた。

 何故ならアルドの祖母はもうずっとベットから起き上がれない状態であったからだ。



 アルドは男爵家に生まれた。

 アルドの両親は権力欲が強く、常に少しでも上にいくことばかりを考えている人たちだった。

 そんな中生まれた、魔力が高い息子。どうにか自分たちがのし上がれる材料にできないかと考えた。

 魔導士団のそれも団長ともなれば、多くの功績を得ることになる。

 そうなれば実家である男爵家ももっと高い爵位が賜われるかもしれないと考えたのだ。



 当然そんな両親からは愛情を注がれるようなことはなく、とても冷め切った親子関係だった。

 両親は自分たちのことだけしか考えないような人たちで、アルドは常に愛情に飢えていた。

 どれほど良い成績を取ろうと褒められることはなく、少しでも両親の意に沿わない結果であれば(しつけ)と称してひどい扱いを受けた。

 そんな中なんとかやってこれたのは祖母の存在が大きかった。


 祖母はとても優しく、穏やかな人で、いつもアルドのことを庇い、愛情を注いでくれた。

 だからこそアルドは決意したのだ。

 祖母のためにも自分が立派になることで祖母に良い暮らしをさせたいと。


 それからアルドは必死になって勉強も魔力操作にも励んだ。

 そのおかげで男爵家としては初となる魔道士団団長までのぼりつめた。

 しかし、その頃から祖母の調子がだんだん悪くなった。

 足が動かなくなったのだ。

 原因不明の病で、どれだけ腕の良い医師に見せても誰にも原因はわからなかった。


 魔道士団団長という地位を利用して、聖属性魔法を扱う者を片っ端から集め、全ての者に癒しの魔法を使わせたが誰も祖母の足を治すことはできなかった。

 足が悪くなれば当然体力が落ちる。そしてどんどん弱っていく祖母を見守るしかできなかった。


 あれだけ多くの聖属性魔法を扱う者や医師に見せても治らなかったのだ。アルド自身も次第にもう無理なのだと諦めていた。



 それがまさか魔王討伐から戻るとこんな元気な姿の祖母に迎えられるとは思ってもみなかった。

 しかも祖母は自らの足で立ち、アルドを迎えたのだ。

 もはや夢をを見ているのではと何度も目を瞬かせた。


「お婆様……何があったのですか? その足はいったい……?」


 アルドが尋ねると祖母は嬉しそうに微笑み、そしてとても悲しそうな顔に変わる。


「聖女様がね、治してくださったの。だから聖女様が戻られたら恩返しがしたかった……それがまさか魔王討伐で亡くなられてしまうなんて……」


 アルドはそこで初めて知った。

 自分の最も大切に思っていた人を十和が助けてくれていたことに。

 そして思い知らされた。

 自分がどれだけ血も涙もないことをしたのか。



 確かに王太子を無事に帝国に戻すことは一番の重要な任務だった。

 しかしそれは自分の中の免罪符にしているだけにすぎなかった。

 確かにあの魔力回復ポーションが無ければ自分が無事に戻れたかはわからない。しかし、王太子だけであればポーションがなくとも自分が囮になればなんとかなったのも事実だ。


 結局は自分が可愛かったのだ。

 そしてそれはアルドが一番嫌っていた自分のことしか考えない両親と何が違うのだろうか?

 そう考えると後悔に押しつぶされそうになった。

 だがもう祖母を救ってくれた聖女はこの世にはいない。


(私はなんてことをしたのだろう……もしまだ彼女が生きていたなら、この恩を返すことができたのに……)


 その時抱いた大きな後悔がその先もずっとアルドにつき纏い続けた。





「あなたが私を信頼できないと思うのは仕方ありません。しかし、どうか私に何かできることがあればお力になりたいのです」


 アロイスは何度もベルティーナに頭を下げ、頼み込んだ。

 そのあまりにも真剣な表情と強い意志のこもった瞳に結局ベルティーナのほうが根負けして頷いたのだった。




 それからというものアロイスとは情報提供してもらう間柄になった。

 その中でベルティーナは前世で王太子であったウィルフリードが今世でも王太子ウィリアム・エルドラードとして前世の記憶はないまま転生していること、そして目下最大の脅威であるレイモンド・シュバルツ騎士公爵が魔王が転生した人物だということを知ったのだった。




「ねぇ、アロイスあなたはどう思う? やっぱりこちらを油断させて私共々前世の魔王討伐に参加したものを全員倒そうとしているのだと思う?」


「さぁ……今の状況ではなんとも……それで会話の中で前世の記憶があるかはわかったのですか?」


「いいえ……でも騎士公爵邸には魔王四天王の生まれ変わりの執事がいたわ」


「魔王四天王の生まれ変わり!? ……やっぱり怪しいですね……ベルティーナ、今後もよく注意してください。決してあなたが前世の記憶を持っているなど悟らせてはなりませんよ」


「そんなことわかってるわよ!」


 そう返事をしたものの、相手の真意がわからない状況でずっと警戒して過ごすのは精神的に負担が大きい。



「そういえば明日でしたか? 王妃殿下主催の令嬢たちを招いたお茶会は?」


「ええ。そうよ。こんな時にこんな精神的にしんどいイベントがあるなんて……頭が痛いわ……」


「まぁ、その会場に騎士公爵閣下はいないのですから、幾分かましでしょう? 頑張ってください」


 その騎士公爵に求婚されたベルティーナが会場でどれだけの嫉妬に溢れた視線を令嬢たちから受けるか……

 気楽に笑っているアロイスの頭を殴りたい気持ちになる。

 しかしそれをなんとか堪え、ベルティーナは恨みががましい目でアロイスを睨みつけるだけにとどめた。


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