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女装させようとしたら墓穴掘ったミューちゃん。
総合評価が1000ポイントを超えました。皆さんありがとうございます。
これからも地道に頑張ります。
「ミュー様、この作戦、どう考えても墓穴掘ってませんか?」
「墓穴は掘ってません。フェルディナントさん的には最適です」
「いえ、ミュー様の立場で考えると、盛大な墓穴を作り上げてるなぁ、と思っただけなんですが」
「……大丈夫です、ライナーさん。そこら辺はもう、諦めることにしました」
ふふふ、と疲れたように笑うワタシに対して、ライナーさんは労るような表情をしてくれました。ありがとうございます。ワタシもこの作戦を考えついたときに、盛大に墓穴掘ってるなぁとは思ってました。自分の首を自分で絞めてるし、話をしたときにアーダルベルトにも真顔で「お前、それ本当にやるのか?」とめっちゃ心配されましたし。
だ、大丈夫!主役はフェルディナントだし、ワタシは添え物だし!誰かに見せるわけじゃないし、身内だけだし!ワタシはオマケ。ワタシはオマケ。誰もオマケの事なんて気にしない。だから大丈夫。大丈夫。……大丈夫ってことに、ならないかなぁ?
「多分ですけど、明日には凄い勢いで城内に話が回ると思います」
「ユーリちゃん!そこはオブラートに包んで!」
「いえでも、……お姉様方の張り切り具合を見るに、無理かと……」
「……デスヨネー」
現実逃避をしたかったけど、優秀な侍女ちゃんに否定されました。まぁ、ワタシもそう思いますわー。だって、眼前の侍女や女官のお姉様、マジでリアル脳内花畑モードなんですものー。ワタシの話聞いてないですよ。めっちゃキャッキャウフフ状態で、すっげー嬉しそうにアレコレ準備してますぜ。
ワタシはあくまでオマケであり、添え物であると申し上げているのですが、誰の耳にも届いていませんでした!ちくせう!
まぁ良い。ワタシのことは良いのだ。今回のメインはフェルディナントなので、そっちの準備頑張ろう。つーわけで、デザイナーさーん、頼んでおいたドレス、出来ましたかー?
「ミュー様、先日は実に斬新なデザインを二つもありがとうございます」
「斬新かどうかはともかく、出来ました?」
「はい。全力を挙げて制作させて頂きました。ミュー様の分はあちらに……。それと、件の方の分は、手直しをさせて頂いております」
「ありがとうございます」
ワタシの分は前にサイズ計ってるから、そこまで調整いらないしね。フェルディナントの分は、何となくの体格を伝えただけなので、微調整が必要だろう。今、お針子さん達が、仕切りの向こう側で、フェルディナントと一緒に頑張ってくれている。ふぁいとー。
ワタシが何をしているかと言えば、フェルディナントにドレスを着せてます。ただ着せるだけではつまらないので、ドレスアップして、夕飯に連れて行こうと思ってます。マル。
ただ、この話、めっちゃ抵抗されましたけどね。
フェルディナントは凜々しい美貌の持ち主なので、既存のドレスは全然似合わないのです。そりゃそうだよ。花嫁さんのお色直しに使われるような、裾がふわふわ広がった、ドーム型のドレスなんて、リアル男装の麗人キャラに似合うわけ無いじゃん。ドレス=ふわふわな印象が強いので、そりゃ拒否するよね?とは思う。
なので、ワタシはあらかじめ、デザイナーさんに頼んで、一つのドレスを作って貰っていた。それは、いわゆるマーメイドドレスと呼ばれるタイプのドレスだ。細身の形は、すらりとしたスタイルのヒトでなければ着こなせない。あと、腕や肩に筋肉があるだろうことも考慮して、ドレスは胸元で止めるタイプの袖無し。その代わり、肘の上まで覆うような手袋を付ける予定。あと、肩の筋肉を誤魔化すために、薄手のケープも羽織って貰う予定です。
男装の麗人キャラから、華麗な佳人キャラに変身してもらう用意はばっちしだ。髪型はウィッグでいくらでもいじれるし、化粧をするだけで印象はがらりと変わる。その辺も、やる気満々の侍女女官軍団にお任せする予定である。
「絶対似合うと思うんだよねぇ。フェルディナントさん腰細いし、スタイル良いし……。マーメイドドレス絶対似合う……」
「ちなみに、ミュー様のドレスは?」
「あぁ、ワタシの?ワタシのは、丈をくるぶしまでの細身のAラインでお願いしました。こういう感じ」
手でドレスの下部のフォルムを示せば、なるほどとライナーさんは頷いてくれた。ただし、Aラインの意味は解らなかった模様。……そうね。この国の文字、フラクトゥール文字だもんね。とりあえず、ワタシの故郷で使う文字の形に似てるからだ、ということだけ伝えておいた。
え?何で丈をくるぶしまでにしたかって?そりゃ、靴のヒールを少しでも低くするためだよ!夜会用の豪奢なドレスの類は、どれも裾踏みそうな長さでしてね!凶器かと思うようなヒールの靴で底上げしてるんですよ!だからワタシは、少しでもローヒールですむように、ドレスの丈を短くしましたが、何か?
別に、正式な晩餐会に出るわけじゃ無いもん。そもそもワタシは、巻き添えのとばっちりだもん。本当は、フェルディナントだけを女装させて、ワタシはいつもの格好でご飯もしゃる予定だったんだからな!それが、何か普通に、「ではミュー様のドレスはどのようなデザインでお作りしましょうか?」って流れになったし、それを止めようとしたのに、侍女や女官の皆さんが乗り気すぎて止めるタイミング逃して、こんなことになってるんだからな!
せめて、せめて、転ばない類のデザインにしたいとワタシが思って、何が悪い……!
勿論、靴にも注文つけましたよ。脚が痛くないように中敷き代わりの布をいっぱい入れて欲しいってお願いしたし、ヒールは低くしてって頼んだし、細いのじゃ無くて太くしてくれとも頼んだよ!イメージとしては、小さい女の子がおめかしした時に履く余所行きの靴って感じですよ。見栄えなんて二の次だ!ワタシに大事なのは、転ばないという保証だ!
「フェルディナント様のドレスもですが、ミュー様のドレスも随分とシンプルですね」
「キラキラもふわふわもワタシ欲しくないし。シンプルイズベストです」
「……はい?」
「まぁ、華美に飾り立てても美しくないよって感じで。シンプルな中にも上品な美しさがあればそれでおkだよ。そういう風に仕上げてくれてるし」
首を捻るユリアーネちゃんにそう説明する。しばらく考えて理解したのか、そうですねと彼女は笑顔だった。……脳内お花畑組は、いかにワタシをゴテゴテに着飾るかに燃えていらっしゃるようですけどね。過剰なアクセサリーは断固拒否させて貰うからな、お姉さん達!あと、髪型も、ワタシはポニーテールオンリーで突き進みますからね!オマケなんだから!
それからしばらく、ワタシは脳内お花畑軍団と戦うことに専念した。だって、気を抜いたら彼女達の好みに飾り立てられてしまうじゃ無いですか!オマケのワタシが飾り立てられるとか意味不明だし。そもそも、平凡顔のワタシを弄っても楽しくないでしょう!お化粧も嫌いなんですよ、ワタシ!必要最低限の下地だけで結構です!ファンデーションもいらないんで!
化粧の魔の手から逃げ出し、過剰なアクセサリーの山を撃退し、彼女達にとっては弄りたいらしい黒髪をポニーテールのみで死守し、何とか逃げ延びました。……とはいえ、念入りに梳られることだけは避けられずに、椅子に座ったままで艶出しをされました。苦行か。どんな苦行だ。
それに耐え抜いたワタシは、困惑しきりという風情の麗しの佳人を前にして、疲れが全部吹っ飛ぶのを理解しました。
「フェルディナントさん、超綺麗ですね!」
「……ミュー殿、あの、これは……」
「大丈夫です。めっちゃお似合いです。というか、物凄く美人です。ワタシの見立てに間違いは無かった!やっぱりマーメイドライン系の細身のドレスがお似合いです」
どういう反応をして良いのか解らずに困っているらしいフェルディナントだけど、ワタシは気にしない。いやだって、自画自賛したくなるぐらい、完璧な仕上がりですよ。美人は何着ても美人とは言うけれど、違和感無く素敵なお姉様ですよ。……まぁ、胸は無いので、詰め物で誤魔化してますけど。そこはご愛敬だ。
フェルディナントは、この世界では別に珍しくもない、金髪碧眼の持ち主。金髪は白に近い色合いで、男性として生きてたので短い。そこはウィッグでカバーして、まるで綺麗に結い上げているかのようにアレンジしてあった。結い上げたように見せているお団子部分には、銀色の鎖みたいなのを幾重にも巻いていて、シンプルだけど綺麗。
切れ長の瞳が印象的な顔立ちも、化粧をすると雰囲気がぐっと変わる。目元に化粧をするだけで顔が変わるっていうけど、アイラインでぱっちりさせて、ちょっと紅を引いた感じにすることで、色っぽさぱねぇ。それなのに、凜とした雰囲気も消えてないんだから、凄すぎてヤバイ。お化粧担当の皆さんの本気やべぇ。極上の素材にハッスルしたんじゃないだろうか。
マーメイドドレスは、淡い水色をチョイスしておいた。今まで男として生きてきたフェルディナントに、いきなり赤とかピンクとかのドレスはキツイだろうなぁと思ったので。白と見間違えそうな色合いの水色のドレスは、銀糸で模様が縫い込まれていた。流れる川をイメージしたような刺繍が美しいし、それがキラキラ光るのでめっちゃ豪華に見える。あんまり派手にしないでくださいとお願いしたら、こんなお洒落に仕上げてくれました。ありがとうございます。
慣れないだろうハイヒールに困っているのか、何度も足下を見ているのだけは、ごめんなさいと思うけど。でもでも、ドレスの丈はそこまで無理な長さにしてない筈だし、フェルディナントは背が高いから、ヒールは低めで大丈夫だと思う。デザインを重視しても、なるべくこちらも太くて低めのヒールでお願いしますと言ってあったけど。
「鏡は見ましたか?」
「……は、はい。本当に、これが私なのでしょうか?」
「そうですよ。そもそもフェルディナントさんには最初から、二つの未来があったんですから。これは、その片方なだけです」
にこにこ笑いながら言ったら、大きく目を見開いて、何だか感極まったみたいに涙ぐんでいましたが。……え?泣かした?いや、泣かないでくださいね?化粧落ちちゃうんで。
ぶっちゃけ、ルーレッシュ侯爵家子だくさんだし、すぐ下に弟いるし、フェルディナントが女の道を選んでも大丈夫じゃないかなー?とか勝手に思ってるんですが。嫡子は絶対に男でないとダメとかいうのも無かった筈。少なくともワタシの記憶には無いんだけどなー。
「つーわけで、その格好で夕飯に行くんで、よろしくお願いします」
「……え?」
「リヒャルト王子にお披露目します」
「ちょ、ちょっと待ってください、ミュー殿!?」
「拒否権はありませんので、観念してください~。…………ワタシも観念してドレスアップしてますんで」
ぼそりと死んだ魚の目で呟いたら、フェルディナントが何か見ちゃダメなもの見た感じの表情で息を飲んで、視線を明後日の方向に逸らした。いや、ワタシのドレスアップがつたないわけじゃないですよ?だって、侍女や女官さんたちがそれなりに見栄えするように頑張ってくれましたから。
ただね、ほら、元々が平凡顔で小柄で童顔で以下略なワタシじゃないですか。普段から、男の子に間違えられる確率めっちゃ高いワタシじゃないですか。ドレスアップしても、そこまで美人にはならんのです。なりたいわけじゃないけど。今回のワタシは添え物!
……あと、こういう反応したら、優しいフェルディナントは罪悪感刺激されて言うこと聞いてくれそうだなぁと思ったので。案の定、それ以上反論は出ませんでした。真面目な騎士さんはチョロイです。
……なお、ワタシのドレスは、どんだけ要望を通そうとしても、赤一択でございました。何でだよ!
墓穴は掘ったけれど、最低限自分が動きやすいようには足掻いたミューちゃんです。
オマケで添え物!と主張しようが、脳内お花畑には理解されないでしょう。
捨て身の作戦です。捨て見過ぎます。
やはり、萌えにかけるオタクや腐女子の情熱は間違っているような…?
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