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大変長らくお待たせして……、あの、その、生きてます←
とりあえず、わちゃわちゃするだけの章、開幕です。
三度目の正直として、ワタシはついに新年会から解放された。
何を言っているのかと言わないでほしい。お貴族さんとか偉い人とかがいっぱい集まって、ドレスコードがばっちばちに決まった正装で参加するような国主催の新年会である。あんなもんにワタシは出たいわけではなかったのだ。何か出なきゃいけない状況になっていたから、二回も参加させられてしまったけども。
それも、どう考えても、どちらも見せ物パンダである。それがついに三度目にして、その面倒くさいイベントから解放されたのだ!
まあ、確かに今年は諸々起こる事象が少なかったこともあって、ワタシも目立つことはしていない。何せ、あれこれ色々と頑張った結果、テオドールの最後のクーデターが存在しないからだ。あのめちゃくちゃ大きいイベントが存在しなかったということで、ワタシも派手に立ち回る必要もなかった。いやーよかったよかった。
その後はまあ、サブイベントを二つほどこなしたけれど、サブイベントはサブイベント。関わった身内が知っているだけの話であって、お偉いさんとかお貴族様とか他国とか、まあ、諸々面倒くさいしがらみが関わるようなところとは縁がなかった。
何と素晴らしきかな! 平和って素晴らしい!
……そう、平和で平穏で素晴らしいのだけれ、ど。
「お泊まり会?」
隣で満面の笑みを浮かべるエレオノーラ嬢に、ワタシは「はて……?」と首をかしげた。彼女の口から飛び出したお泊まり会なる単語に、何で今そんなことを? という気持ちになったのだ。
お泊まり会そのものは今までもしている。学園都市ケリティスに通っているこのエレオノーラ嬢、時間に余裕があるとワタシに会いにひょいひょいとお城にやってくるようになったのだ。今までは離宮の方に戻っていたらしいが、このところはやたらとお城に滞在中である。
まあ、気持ちはわからなくもない。何せ、彼女にとってワタシは初めて出会った同志である。そう腐女子仲間という。
とはいえ、常に護衛とか侍女さんとかがくっついている立場のお互いなので、あんまり大っぴらな話はできないのだけれど。でも、何となく雰囲気で伝わることもあるので、お互いが日々見つけた萌えなお話について楽しく語らう時間は、ワタシにとっても良い憩いだ。
あと、真綾さんも含めて三人で同じ部屋で泊まって、パジャマパーティーみたいなこともする。真綾さんはニコニコおっとりしたタイプなので、エレオノーラ嬢としても世間一般的なお姉さまというものに対する憧れを満たせるらしい。
それも致し方ない。彼女の愛する姉君は、実の兄にブラコン通り越した忠義極振りの、色々とすっ飛んだ男装の麗人なのだ。あれは戦うお姫様というカテゴリーであって、優しいお姉様という一般的なカテゴリーからは外れる。
いや、別にクラウディアさんが悪いわけじゃないんだけど。圧がすごいなぁ、と思うだけで。
まあ、とにかくそれは横に置いておこう。
エレオノーラ嬢が口にしたお泊まり会にワタシが困惑したのは、その参加メンバーが予想外だったからだ。
「どういうこと? クラウさんとハンナちゃんも呼ぶってこと?」
「ミュー様さえよろしければ、ですけれど」
そう言って、エレオノーラ嬢ははにかんだように笑った。麗しのプリンセスの微笑み、プライスレス。眼福である。
彼女の話はこうだ。新年会に出ないのならば、年末年始のワタシは暇である。そして、エレオノーラ嬢も学校はお休みなので、もし可能ならば三姉妹揃ってお城にお泊まりをして、ワタシと一緒に年末年始をのんびり過ごしたい、とのことであった。
何でそんなことをとワタシは思う。いや、エレオノーラ嬢とは特に仲良くしてるけど、他の二人とはそこまで仲がいいわけではないので。仲が悪いわけでもないけど、プライベートで仲良くしてる枠ではないと思うんだよなぁ……?
クラウディアさんは何か知らんが、ワタシに対しても覇王様に向けるのと同じ忠義をぶっこんでくるので、別の意味で良くわかんないんだけどね。末姫のハンネローレちゃんに関しては、前にテオドールのことで話を聞いたぐらいしか接点がない。そもそも共通の話題になるものもないので、特に遊ぶこともないのだ。
それなのに、そのお姫様ズが何故にワタシとのお泊まり会を希望するのか。はてはて? と首をかしげるワタシに、エレオノーラ嬢を楽しげに笑ってこう告げた。
「その……、姉様もハンナも私だけがミュー様と楽しく過ごしているのが羨ましいみたいでして……。新年会に出ないのならば、あくまでもプライベートとして共に過ごす時間が取れるのではと思ったみたいなのです」
「はあ……。ワタシと一緒に過ごしたいもんですかね?」
「まぁ、ミュー様! 許されるなら私たちは、ミュー様ともっともっとお話したいですわ」
そう言ってくれるエレオノーラ嬢には悪いが、腐女子仲間という共通の話題がある彼女はともかく、他の二人の姫様がワタシとそんなに話したいもんかな、と思ってしまうのである。
ただまぁ、嫌な気持ちにはならない。クラウディアさんの忠義全振りの圧はちょっぴり疲れるけれど、悪い人ではないのはわかっているし。ハンネローレちゃんは控えめな微笑みが何とも可愛らしいみんなの妹という感じの少女なので、一緒に過ごしても癒やされるだけだし。
そもそも彼女たちは、アーダルベルトが大切に大切に思っている可愛い妹たちである。親友の妹に好かれるのは悪い気持ちではない。
あとまぁ、彼女たちに関してはゲームではほぼモブと同じぐらいの扱いでしか出ていなかったため、情報が少ない。それはつまるところ、ゲームでの情報を考える必要もなく、目の前にいる彼女たちと付き合えるということだ。
端的に言えば、お友達が増えたなぐらいのノリで付き合えるのだ。
とはいえ、さすがのワタシもお姫様×三と一人で相対するのはちょっとばっかり気が重い。もとい、何か放っておくと暴走しそうなクラウディアさんの相手を、一人でするのは辛いのだ。
なぜかというと、エレオノーラ嬢もハンネローレちゃんも何というか、姉の暴走はいつものことと思っているのか割とスルーなのである。そこはスルーしないでいただきたいというのがワタシの素直な気持ちだ。何であれをスルーできるんだ。
ただなぁ、彼女たちにしてみれば、物心ついたときには姉はアレだったというだけかもしれない。年齢が離れているので、彼女たちが色んなことが分かるようになる頃にはもう、クラウディアさんはクラウディアさんとして完成していたのだろう。それもどうかと思うけど。
それはともかく、ワタシのそばには常に護衛としてライナーさんが、お世話係として専属侍女のユリアーネちゃんがついている。お泊まり会つまりは女子会となると、ライナーさんはお部屋の外で待機という感じで引き離される。
まあ、妙齢の女性ばかりが集まる寝室に男性が入るのはどうか、というのは理解できる。理解できるので、それは置いておこう。
一応ユリアーネちゃんも、軽い護衛ぐらいならできる程度の戦闘力はあるらしいし。そう、このお城に勤める皆様はだいたい、自分の身を守ることができる程度の戦闘力は有していらっしゃるのである。
そして中には、本職が侍女だとか女官だとか侍従だとかいうもののはずなのに、有事の際には来賓の方々をお守りするために戦うくらいの戦力の保持者がたんまりといるらしい。やだ、怖い。さすがは、一般人でも低級の魔物なら余裕で倒せちゃう獣人の国である。
そう、多分、この国で一番非力なのはワタシである。知ってた。
まあ、エーレンフリートとバッチバチにやりあえちゃうぐらいお強いクラウディアさんが同じ部屋にいるので、特に心配はいらないのだろう。警護という点では多分心配ないので、それは置いておく。問題なのはワタシの精神的負担である。
侍女のユリアーネちゃんがそばにいてくれるとはいえ、彼女はあくまでも侍女。何かあったときに口を出せる立場ではない。そこにいてくれる安心感は確かにあるが、ワタシが話題を振ってそれに忌憚なきご意見を返してくれる、端的に言えば同意してくれるようなポジションではないのだ。
となれば、ワタシは己の心の安寧のために自分に同意してくれる、つまるところ、一般庶民の感覚を分かってくれる人を召喚せねばならない。
というわけで――。
「ねえ、ノーラちゃん」
「何ですか、ミュー様?」
「そのお泊まり会さ、もし本人が問題ないって言ったら真綾さんも誘っていいかな?」
「マーヤ様を?」
「うん。どうせなら一緒に女子会ってことで」
ニコッと笑ったワタシに、エレオノーラ嬢は顔を輝かせた。彼女は真綾さんと仲良くなっているし、おっとりした雰囲気が似ているのか会話も弾むし、懐いているのだ。
普段あまり真綾さんを呼ばないのは、彼女が教会で色々と勉強したりお仕事をしているのを知っているからだ。邪魔をしてはいけないと思っているのだろう。
なのでワタシの提案は、彼女にとっては渡りに船だったらしい。美しいご尊顔に、それはもう幸せそうな微笑みを浮かべてこう告げてくれた。
「そうなったらとても楽しいですわね、ミュー様。マーヤ様とご一緒できるなら、とっても嬉しいですわ」
「そう言ってくれてよかった。じゃあ、真綾さんには私の方から聞いておくね。お仕事の関係もあるだろうし」
「はい、よろしくお願いいたします。姉さまとハンナには私の方から伝えておきますわ」
「はいはい」
とりあえず、そんな感じでお泊まり会もとい、女子会を開催することは決定した。ここで勝手に決めてそれでOKというわけではないので、後ほどちゃんと覇王様には報告して許可をもらう予定である。
何しろ、普段お城にいない皇妹殿下三名が勢揃いするのだ。警備の部分とか、鬱陶しいちょっかいをかけてくるような輩を排除するとか、色々と面倒くさいことはあるかもしれない。
しれないが、あの男は何だかんだで弟妹に甘いので、エレオノーラ嬢がやりたいと希望して他の二人も乗り気になってるなんて聞いたら、諸々の調整をちゃんとやって万全に整えてくれるだろう。そうに違いない。ワタシは知っているのだ。
そんな感じで、年末年始の予定のめどは立った。立ってしまった。まあ、何も予定がないよりはいいだろう。
それにお泊まり会もとい女子会ならば、何か騒動になることもないだろうし。平和に過ごせるはずだ。こう、顔を合わせたときのクラウディアさんの暴走がちょっぴり心配になるけど。そこはまあ、真綾さんを配置することでどうにかなることを祈ろう。
何はともあれ、新年会に参加しなくていいというだけで、ワタシの年末年始はとても明るいのである! 超大事!
ついに新年会の呪縛から逃げ延びたミューちゃん。
せめてお泊まり会は平穏無事に終わると良いですね!
……クラウディアさんが大人しくしてたら良いなぁ、の気持ち。
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