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お久しぶりの更新すみません。
とりあえず、新章開幕です。
のんびり更新ですが、よろしくお願いします。
遼くんが無事に日本へと帰還し、ワタシの日常は元通りになった。以前とちょっと違うのは、合間にちょこちょこ真綾さんとお喋りする時間が出来たことだろう。女子会って感じではないけれど、日本人同士、何も気にせずお話しできる相手がお互いだということなのだ。気楽で楽しい。
勿論、そんなのんびりとしたことをやりつつも、文献探しは続いている。様々な人の手を借りていながらも、蔵書が膨大すぎてまだ全然終わりが見えません。というか、ちっとも見付からないでやんの。イゾラ熱ってやっぱりレア情報か。ちくしょうめ。毎日活字と睨めっこし続けてるの、好きで読むのじゃ無い場合は結構苦行だなと思い知りました。ぐぬぬ。
「大変そうだな」
「そこでめっちゃ他人事発言すんじゃねぇよ。お前は当事者だよ」
「実感が沸かん」
「だろうね。知ってたよ」
ぐでーっと行儀悪くソファの前のテーブルに伸びているワタシに対して、執務机でマッハで書類を捌いているアーダルベルトはいつも通りだった。お前何やってんだと言いたげなエーレンフリートの視線は無視で。ライナーさんとユリアーネちゃんは、ワタシと一緒に書庫に籠りっぱなしなので、目をマッサージしたりしております。付き合わせてごめんね、二人とも。適度に休憩は取ろう。でないとマジで目が死ぬ。
しっかし、マジで手詰まりっぽいのが嫌だなぁ。確かに真綾さんというある意味特効薬レベルの人材を確保はしたけれど、出来るなら感染源特定して、予防したい。病気になってから治すのではなく、病気にならない方向でどうにかしたいものである。未病の考え方大事。
とはいえ、ここの書庫に無いんだったら、他に該当する文献がありそうな場所なんて、そうそうないんだよなぁ……。ここの書庫、マジで蔵書数凄いもん。そこに存在しないとしたら、もう、可能性があるのは1カ所しかない。
でもワタシはそこに行きたくない。行きたくないのである。
「何だ?手がかりでもあるのか?」
「っていうか、ここを上回る蔵書数を誇る場所なんて、1カ所しかないでしょうが」
「……学園都市か?」
「そ。浮遊島として独立地帯になってる、世界最高峰の学び舎。永遠の中立地帯。学園都市ケリティスです。でも行きたくないの」
「何だそれは……」
呆れたようなアーダルベルトには悪いが、これはワタシの本音だ。確かにあそこならば、文献が揃ってそうな気がする。世界最高峰の学び舎の名前は伊達じゃ無い。あそこの知識階級は頭おかしいのがゴロゴロしてるらしいし。それぞれ専門分野に特化した天才という名の変態がいっぱいいるのだ。……え?風評被害?違うの。ワタシは知ってるの。あそこにはそういう変人がいっぱいいるの!
いや、勿論、普通に学んでいる学生さんが大多数だよ?その学生を支える、学園都市の生活を回している人たちもマトモだよ?
でも、ワタシの目的である「イゾラ熱についての情報を探す」についていえば、関わる可能性がある先生とか教授とか研究者とかの面々は、頭良すぎて一周回ってダメになってるタイプばっかりです。ゲームやってるとき、モブの台詞に頭抱えたぐらいだからね!モブとして見てるならともかく、実際に関わるのとかゴメンです。
だって、どう考えても会話が成り立たない気がする。通訳急募!ってレベルになるのが目に見えてる。そんな奇人変人の巣窟に飛び込むのは、個人的にちょっと嫌だなぁ。案内人もいない状態で行きたくないでござる。
ゲームでも、アーダルベルトが学園都市ケリティスに赴くことは無かったんだよなぁ……。あそこが出てくるのは、2と5の後半だからなぁ……。3でも4でも5の前半でも関わらないので、それを思うと、とっかかりになる便利な人材なんていないだろうし……。
「お前がケリティスに行きたいなら、ツテはあるぞ」
「へ?……いや、別に行きたくないんだけど。探すの大変そうだし」
「だから、マトモな知識階級に情報を聞きたいんだろう?それに繋ぎを取れるツテなら、あると言っているんだ」
「何ですと?」
しれっと爆弾放り込んできた覇王様に、思わず驚いてそちらを凝視した。書類から顔を上げていたアーダルベルトは、いたって普通の顔をしていた。日常の延長ぐらいの雰囲気だった。つまり、それぐらい普通に差し出せる気軽なツテがある、と?
いやでも、お前と学園都市の間にどんな関係が?しかも、学者とか教授とかの面々に繋ぎが取れる相手って、誰だよ。そんなのいたっけ?
「妹が学園都市で学んでいるからな」
「……妹?」
はて?と頭に疑問符を一瞬浮かべてしまったのは、仕方の無いことだと思って欲しい。アーダルベルトの妹と言われても、すぐに情報が出てこなかったのだ。何しろ、彼女たちはゲームにおいてはモブに等しい。ワタシが彼女たちの存在を認識したのだって、3の旅立ち前にちらっと話をしたとか、父親の葬儀のシーンに出てきたとか、アーダルベルトの葬儀のシーンに出てきたとか、そのレベルだ。
……あ、思い出したくないのまで思い出した。封印、封印。覇王様のお葬式イベントは、綺麗なムービーと美麗な音楽と切ないコーラスのおかげで涙腺直撃なのだ。思い出しちゃいけない。
アーダルベルトの弟妹は、どうしょうもないバカな弟が一人と、ほぼほぼモブ扱いだった妹が三人いる。確か、妹の内二人が、腹違いだったはずだ。皇妃の子供が三人と、側室の子供が二人だったと思う。多分。
「アンタの妹って言うと、テオドールのすぐ下に同腹の妹がいて、その下に側室さんの産んだ妹が二人だっけ?」
「その通りだが、……お前、妹たちのことは知らんのか?」
「んー、ワタシが読んだ書物はアンタがメインだったからなぁ……」
多少表現を変えてはいるものの、つまりはワタシにとって妹たちはモブだということである。すまん、覇王様。アンタの妹さんについての知識は、殆ど存在しないと思って欲しい。まぁ、歴史書とかにはよくあることじゃん?誰それの妹ですぐらいしか記述が無い人物とかさ。
とりあえず、学園都市にいる妹さんとは誰ぞ?という意味を込めて視線を向けた。以心伝心の悪友である覇王様は、それだけで意味を察してくれたらしい。素晴らしい。流石我が友。
「2番目の妹だ。丁度今、休暇で戻ってきているからな。お前が望むなら、連絡を付けるが」
「……なー、アディ。一個聞いて良い?」
「何だ」
「ワタシ、去年妹さんに会った覚えがねぇんだけど」
「当然だ。妹が戻っているのは、母や側室殿がいる離宮だからな」
「あ、そっちか」
謎がさっくりと解けた。そういや、城には全然皇族がいないのだ。アーダルベルトの母上である皇太后様は、息子の邪魔になるまいと離宮に隠遁したとのこと。きっと、側室殿もそちらへ一緒に移動したのだろう。娘達も一緒に。
だから、アーダルベルトの妹が里帰りをしたとしても、戻る先はこの王城ではなく、母親の居る離宮になるらしい。そりゃ、城から基本的に出ないワタシが接触するわけがねぇわ。
新年とかにも出会わなかったのは、徹底して政治的なアレコレから遠ざかっているかららしい。皇族の女性なんて、政略結婚とかに使われそうなポジションだけどな。覇王様はそういうの絶対にしないと解っているけれど。余計な虫がつかないようにしていたのかもしれない。
「それじゃあ、その妹さんに案内役頼んでも良いの?呼び出すのとか失礼にならない?」
「むしろ呼んだらすっ飛んでくるぞ」
「何でさ」
「俺とお前の顔を見に」
「だから何で」
意味が解らずに重ねて問い掛けたら、真剣な顔で見詰められた。……ヲイ、覇王様。ワタシは知ってるんだ。こういう話の流れでお前が真面目な顔をするときは、大概ろくでもないことを言い出すのだということを。
そして、案の定覇王様の返答は。
「……お前は見世物の自覚が無いのか?」
「誰が見世物か!!」
どうしようもないものだった。
ひどくない!?ワタシ、見世物になった覚えなんて無いんですけど!こいつ何言ってやがる!
同意を求めて視線を向けた先で、ライナーさんは笑顔のままでぺこりと頭を下げた。ちょっ、まっ!全力で見捨てた!全力で否定を拒絶した!ひどくない!?ライナーさん、マジで最近ワタシへの扱いが雑ーーーーー!!
せめて貴方は違うよね?という希望を込めて視線を向けたのに、ユリアーネちゃんは完璧なる侍女の微笑みでスルーした。ひっでぇ!こっちも全力スルーしてる!ワタシの扱い!ワタシの扱いぃいいいい!
……え?エーレンフリート?あの狼にワタシへの配慮なんぞ存在するもんか。あいつの頭は覇王様で九割が埋まってるに違いないのに。
「お前だ、お前。珍獣認定でも良いぐらいだろうが」
「珍獣言うなぁああああ!ワタシは普通の女子だ!」
「それはない」
「食い気味にツッコミ入れんな!」
当たり前だろうと言いたげな覇王様に怒鳴り返すワタシ。ちょっとライナーさんとユリアーネちゃん、いつものこと扱いしてないの!あと、エーレンフリートはワタシに殺気を向けるな!どう考えても今のはアーダルベルトが悪いの!ワタシの扱いが雑過ぎるわ!
「お前が普通の女子だなどと、世の女性に失礼だろう」
「お前が今ワタシに対して盛大に失礼だけどな!」
「親愛の情を込めて真実を教えているだけだろう?」
「どこがだぁぁああああ!」
あー言えばこー言うの典型か、貴様ぁああああ!ワタシは成人女性だと言っているだろうが!普通の女子だ、いたいけでか弱い普通の女子なの!……ちょっとゲーオタ腐女子なだけで、チートも持ってない普通の女性だっつーの。
「まぁ、そんなバカ話は横に置くとして」
「置くなよ」
「妹を呼べば良いのか?」
「聞けよ」
何故こいつはワタシの話を聞かないのだろうか。答え、唯我独尊の覇王様だから。割と真剣に腹が立つんですけど、覇王様。ワタシの話聞いて下さい。侮辱罪で訴えんぞ、くらぁ!
まぁ、ワタシが噛み付いても全然効果無くて、結局後日妹さんを呼ぶことになりました。それは良いけど、覇王様のワタシの扱いがひどすぎる件について!ちくしょうめ!
新章開幕しました。
次には新キャラが出てくるぞ☆
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