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私の夫は鼻先零ミリ  作者: 鴉野 兄貴
第三章 銀の瞳の赤子と少女

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そうだ。結婚すればよくね? 「ふざけんな」

 本当にここは暖かくて良い国ですね。

マキちゃんはそういうと小屋から出てきて目を細める。

「太陽がまぶしくてちょっと暑いですけど」


 ほっそりとしたマキちゃんの体つきはよくこの身体で子供が産めたなと思うほど細く儚げだ。

銀色の不思議な瞳も相成って人離れした印象がある。

「あばば。あ~ばばばばば」……夫はマキちゃんの話を聞いてなかった。つくづく残念な男である。


 このお花、いい香りがしますよね。どんなお花なんですか。

「ああ。夢子が言うにはニンフ草っていうらしい。伝説に出てくる妖精が神の婚約者から身を守るため身を変えたとかなんとか」「博識ですね」

というか、まだ眼鏡が妻とか仰るのですかとケタケタ笑うマキちゃん。本当なんだけど。

「御屋敷では良く働く娘だって奥さまや旦那さまにも褒められて幸せでした」「そっか。マキちゃんはその細腕で頑張ってたんだね」

私だって頑張ってたわよ?! チビとか言うなッ こっちのデカブツが子供の世話ほとんどしなかったからなッ?!

「……その節はとてもとてもお世話になりました」夫の背がガクンと落ちて小声で呟く。だが。 ゆ る さ ん 。

子供ほっぽって勝手にギクいきやがって。一回や二回じゃないでしょう?!


「ええ。孤児院のみんなの評価につながりますし。ほら」


 マキちゃんはニンフ草を編んで冠を作っている。

「やっぱり、お給金が欲しいですから」「あはは。俺も稼ぎが少ないと夢子に叱られる」

また変な事言っているし。マキちゃんは大笑い。「ハルカナルさんはそういう下手な冗談が無ければ面白い魔導士様なんですけどね」「はぁ」


 彼女は「できました」といって夫に冠を渡す。

夫は戸惑いつつも頭にそれを乗っけるが。「似合う」「……いまいちですね」

オレンジの眼鏡。つまり私に物凄く似合わない。


 夫がやってきた村は以前私たちが立ち寄った村で皆と面識がある。

夫は村の力仕事で大活躍。マキちゃんも慣れない手で畑仕事のお手伝い。

とはいえ、この子はどちらかと言うと街中の仕事のほうがいいわね。

赤ちゃんはと言うと相変わらずカンの良い子で助かる。最近夫に近づかれても泣かなくなってきた。

「おーい。ハルカナルさんや。奥さんにこれを」「いや、妻じゃない。妹みたいなもんだ」「まったまたぁ。知らない間にあんな可愛い子と子供作っちゃって」

村人さんがくれたのは村はずれで取れる薬草。ちょっと煎じると産後にいいそうだ。


「無実だ」肩を落とす夫。アンタはロリコンだからそう思われるのよ。

「誰がロリコンだよ」その上背で私と付き合っていたから昔からそういわれたよね。


「あとで集会あるからハルカナルさんも来いや」


 普通、よそ者は呼ばれない筈なんだけど夫は誰とでも仲良くなるからな。

あっという間に村の住民Bさんになりつつある。さしずめマキちゃんはその奥さんか。

一応、夫は妹と主張しているがそれは通らないだろう。似ていないし。

「街から商人さんがきてね。色々持ってきたからね」

こういう村ではちょっとしたお祭りよね。色々な物資や情報が届くし。

「いくいく」「奥さんはまだ動かせんのか」「軟弱ですまん」「いいってことよ。後で用水路見ておいてくれ」「おっけ」夫は村人さんと連れだって歩いていく。


 うーん。思いのほかマキちゃんに関わる羽目になってしまった。

「このままでは旅が続けられない。どうしようかな」アンタの所為っ?!

「というか、結婚していると誤解されている」ばかでしょう。

マキちゃんの体力が安定したらいつぞやの街で頭を下げるしか。

「あの町、勇者ってバレているんだが」仕方ないでしょ。


 春風がそよぐ空の下、私たちは土を踏みしめ歩む。

私の名前は遥夢子。勇者である夫、大空の妻にして『真実の眼鏡』と呼ばれる存在である。

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