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私の夫は鼻先零ミリ  作者: 鴉野 兄貴
第三章 銀の瞳の赤子と少女

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俺には妻がいる『でも眼鏡じゃないですか』

「まぁ訳ありなのはわかるけど。力になってあげたいって言ったら変かな? 」夫は赤子を手に言葉を放とうとしない少女の機嫌を取ろうとしている。放っておきなさいよ。

「ああ。首が座っていないからそんな姿勢で抱いちゃ危ない。なるべく寝かせてやってほしい」

産まれたばかりは柔らかい布で厳重に包んで抱かせてあげたけどね。


 夫は雪をまた小屋に持ち込み、魔法で雪をお湯にして部屋を暖かくしていく。

「魔導士」やっと言葉を発する娘。その細くて弱弱しい腕は折れそうな勢いで自分の子供を抱いている。

「うん? ああ? 魔導士じゃないぞ。俺は勇」黙れッ?!


「ゆー、ゆー。ゆーあーふれんど? 」なにそれ。超おかしい。

「魔導士なのに、親切な方なんですね」「あ~。そっか。この国は魔導士って良い目で見られないのかな? 」ほとんどの国がそうよ。今は。

夫はばつの悪そうにしている。「だってさ。そうしないと赤ちゃんに悪そうだったしやれることをやろうと」警戒させてごめんね。そういって落ち込む姿は子供みたいだ。一八〇センチ超えているんだけどなぁ。


「そうですね。ハルカナルさんのお蔭で私たちは生きているのですし」「そうそう。でも恩に着せる気はないから子供が元気になったら旅を続けて良い」

「何か恩に着せる気があったらもうとっくに襲っている? 」

そういって意地悪く笑う少女に夫は白湯を噴いた。一瞬やましい事考えなかったか。貴様。


「だいぶ落ち着いてきたな」「怖かったです。何度も何度も暗殺者が来て」普通じゃないわよ。まだ年端もいかない子供じゃない。何故身重の身体を抱えて吹雪の中を旅していたのよ。私はそう思うのだが夫は口に出さない。

「おお。目が覚めた。あばば」「まだ目が見えませんよ? 」なんかむかつくし。

くすくす笑う少女と必死で赤ちゃんと少女の機嫌を取ろうとする夫。

夫には悪いが赤ちゃんを泣かせるだけなのでやめてほしい。


「まぁ会って一か月以上たって今更だけど、俺はハルカナル。旅の者さ。で」

彼の指先がすっと伸び、私のフレームをつまむ。こら。

ふらふらと私の身体が揺らされる。「こっちが夢子。俺の妻」「……」

「だから、俺は君にはちょっかいはださな……」「……」


 少女はうつむき、苦悶の声をあげだす。

「ちょ?! なんか悪い物食べさせたっけ?! 」耳が赤い。

震える彼女は一気に噴き出した。

「ぷはああああああ ははっはぁ?! あ~~~~~はっはっはっ?! 」

驚いて赤ちゃんが泣きだしても彼女は笑い続ける。

「なにそれっ?! 凄い冗談ですよッ?! なんの見返りもなく私のようななんの力もない娘の助力になって、暗殺者と戦って、出産まで手伝ってくれてッ その上なんだと思ったら奥さんがいて、眼鏡ッ?! 」

ふざけないでください。彼女は落ち着くとなお泣き続ける赤子を抱いて呟いた。

ふざけてなんていないんだけどねぇ。まいったなぁ。


 私の名前は遥夢子。旧姓白川夢子。

誰も好きで眼鏡の姿をしているわけではない。

勇者の瞳を守り、力を与える『真実の眼鏡』。

それがかつて四〇前のオバサンで、一般的な主婦だった私の今の姿なのだ。

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