第三章 プロローグ 銀の瞳の輝く娘
助けてください。
その声を聴いて私は夫に伝えるかどうか一瞬迷った。
こういうのは絶対厄介事に決まっているのだ。
『花咲く都』を出て勇者様勇者様と追いかけてくる人々をやっと撒いた私たちは遠くの遠国まで逃げ切り、吹雪吹き荒れる道なき道を歩いていた。
「遠くまで来すぎた」ちょっと調子に乗りすぎたわね。もう少し快適な国に来ればよかったわ。
「西方国家共同体とか」あそこは気候が穏やかで過ごしやすいわよね。冬は寒いけど。
夫の唇から白い息が漏れ、すぐに凍り付いていく。
「夢子。前方に明かりが見えないか」見えるわよ。カンが鋭いわね。
「『鳥の眼』」空からの画像を転送。
「『注目』『音声実況』」夫の指示に従い私は自らの力を解放。
「いやっ?! 助けてッ 」
吹雪吹き荒れる道なき道を歩む馬車に族が襲い掛かり、
御者を殺して中にいた女性を引きずり出している最中。明らかに修羅場よね。
「じゃ、助ける」余計なフラグ立てないでよねぇ。
夫は私の忠告を完全に無視し、霜柱を蹴飛ばして族に迫ると激しい蹴りを放った。
「大丈夫ですかッ 」思わぬ援軍に戸惑う娘はコートを手に震えている。
「お願いです。私はどうなっても構いませんから」
彼女の声は細く、凍えるように小さい。
「おなかの……赤ちゃんを」
そういって銀色の瞳の娘さんは意識を失った。これは絶対厄介事に違いない。




