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私の夫は鼻先零ミリ  作者: 鴉野 兄貴
野に咲く花のように

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物語の世界ほど女心は綺麗じゃないし男心もまた然り

丘の上に大きな木と小さな木がありました。

小さな木はおひさまの光をひとりでとってしまう大きな木があまり好きではありません。

大きな木は小さな木が大好きでした。


風の日は小さな木をその大きな身体でまもってあげました。

雪の日は小さな木に雪がかからないようにしてあげました。

暑い日は小さな木が枯れないように身をはってあげました。

雨の日は小さな木に枝の傘をさしてあげました。


そんな大きな木を小さな木は嫌だ嫌だといっていました。


ある日のことです。

にんげんたちが丘の上にあがってきました。大きなのこぎりを持っています。

にんげんたちは大きな木を切ろうとしています。


大きな木は木ですので逃げることは出来ません。

小さな木はやめてと言いましたがにんげんたちには聞こえません。

そして大きな木は小さな切り株になってしまいました。


小さな木にお日様の光が降り注ぎます。

でもちっともうれしくありませんでした。

小さな木は大きな木にごめんごめんと泣きました。

その涙は雨になって丘を濡らしました。


やがて、小さな芽が出て、小さな木に言いました。

僕は大きな木の子どもなんだ。


小さな木は大事に大事に大きな木の子どもをまもりました。


あめがふりました。

小さな木は芽が流されないように枝を伸ばしてまもってあげました。

風がふきました。

小さな木は芽が飛ばされないように幹をはってまもってあげました。

ひでりの日は根っこを伸ばして、水が地面に残るようにがんばりました。

やがて、小さな芽は小さな木になっていきました。


ある日、またにんげんたちがやってきました。

その手には大きなのこぎりがありました。


にんげんたちは小さかった木を切っていきました。


ちいさかった木はばらばらになって、橋になって旅人たちにかんしゃされました。

家になってにんげんたちを雨からまもりました。

椅子になって子ども達のべんきょうを助けました。

小さなはぎれは薪になって、さむいさむいと震える子どもを助けました。


あなたのがっこうに大きな木で出来た机と小さな木で出来た椅子があります。

お友達のがっこうにもおなじ机と椅子があります。


あの丘の上には小さかった芽が大きな木になろうとしています。

かなしいけど、つよくなろうと芽だった木は思っています。

いたくてつらくていやだったけど、大きな木と小さな木はかんしゃされています。

大きな木と小さな木でできたつくえといすでべんきょうしたおともだちは、がんばっています。


むかしむかしから、いまとみらいにつながるおはなしです。


……。

 ……。


「がっこうって何ですか」短編を読み終えた夫にマヤは胸を夫の背に当てながら問う。

「勉強を教えてくれたり、友達と遊んだりするところだな」「街にいけばありますか」


 夫は視線を焚き火に向ける。「ああ」

旅が長くなると夫も野営が上手くなり、寝込みを獣に襲われることもなくなってきた。


「今日は疲れただろう。夜は魔物と獣と魔性の時間だ。

火の番を『俺たち』がやっておくから、お休み」「……」

この世界の人たちのほうが、夜の怖さを夫より知っている。

時々視線を感じるのは妄想でもなんでもなく、魔物として具現化し損ねた悪意や害意と悪霊の混成物のようなものの残滓のものだ。

すやすやと眠りだした少女を見て夫は肩を落とす。やっと気がまぎれたらしい。


 貴方も寝なさいよ。眼鏡は寝ないし。「お前、まだ引っ張っているのか」

夫の瞳が悲しそうに潤むが、白々しく感じてしまう。気持ちがわかっているはずなのに。

何年も眼鏡をやっていると怒っていても悲しんでいても実感が沸かなくなる。

カッとなることもないし、涙を流すこともない。

月の。まぁそれはさておき、嬉しくてもドキドキしないし、愛していると言われても。

「愛しているさ」うそつき。「ウソじゃないのはお前が良く知っているだろ」

心は通じているのに、どうして判らないのだろう。

私は便利な道具に過ぎないのだろうか。

「夢子。そんなことを考えるな」だってそうでしょ。事実よ。

「事実はひとつ。俺はお前が好きだ」

どうも、男女間での好きは差異があるようよ。心が読めるようになって余計にそう思うようになってきたから。


 早く寝てよ。

惨めになっちゃうじゃない。

彼の唇の感触をフレームに感じながら、

私は彼の寝息の規則正しい息遣いを朝まで感じていた。


 夢あふれる大空の元、

私たちは魔王の首を求めて歩く。


 私は旧姓。白川夢子。

勇者の瞳を守り、力を与える『真実の眼鏡』とは私のことである。

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