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お兄ちゃんのライバル?

なろうオリジナル回です。

 五月病。


 心身の疲れが原因と言われるこの病は環境が変わったばかりの私たち新入生にはおあつらえ向きな病と言えるのではないだろか。


 かくいう私、西静も多分に漏れずに少々疲れ気味です。


 中学生から高校生になったこと、気の使うことの多いサッカー部のマネージャーになったことなどなど。


 部活は新人戦が近づき、練習にも熱が入っている。


 そりゃもうGW(ゴールデンウィーク)が練習で埋め尽くされるくらいですから? 結局、部活ばかりでどこにも行けなかったし。

 まあ、真剣に練習してる帯人先輩のかっこいい姿を見れたのはよかったけどね? それに一心不乱にサッカーに打ち込むお兄ちゃんの姿にも感動したけどね?

 唯一、一日だけあった休みも有松先輩と備品の買い出しに行く羽目になったし。

 少し前に有松先輩とお兄ちゃんとで買い出しに行ったはずなのに、もう買い足しに行かなきゃいけないなんてね。もう少し多めに買ってきてくれれば良かったのに。


 そのお兄ちゃんといえば、幼馴染の姫ちゃんと別れてから有松先輩が急接近している。

 部活中はなるべく贔屓しないようにしているみたいだけど、お兄ちゃんにドリンクを持って行くのを最後にして話す時間を作ろうとしてたり、みんなにバレないように声をかけたり。

 気持ちを知っている人間がちょっと気をつけてみていると好意がダダ漏れだと丸わかり。


 有松先輩とはサッカー部に入部してからの仲なので、まだひと月ほどの短い時間の付き合いだが、悪い印象はない。むしろ好印象と言ってもいい。


 なぜ? それはお兄ちゃんのことを評価してくれているからだ。

 

 うん。


 妹目線から言わせてもらえばお兄ちゃんの理解者であり、支えてもくれる有松先輩は彼女候補の筆頭となる。


 でも、私は有松先輩を応援することはできない。もし、お兄ちゃんが本気で有松先輩と付き合いたいと思ってしまったならばそれはちゃんと応援する。


 そうなる前に私はするべきことがある。


 それは……


♢♢♢♢♢


「おはよ〜」


 朝練を終えて教室に入ると、席の半分以上はすでに埋まっていた。

 高校に入学して1ヶ月半。さすがにダラけるのはまだ早いか? 

 

 窓際の自分の席に向かう途中で一際注目を集めている子がいる。

 教室のほぼ真ん中、机にベターっと寝そべりながら両手を伸ばしてスマホを眺めながら満面の笑顔。

 その表情……と、机の上で派手につぶれた豊満な胸に主に男子は釘付け。


「おはよう、つむつむ。蕩けそうな顔して、なんかいいことでもあった?」


 ふふふふっと微笑んでいる親友(つむつむ)は、自分の世界に入り込んで私の声は聞こえてないみたいだ。


「ていっ!」


 あまりの蕩け振りに若干イラっとしたので、つむつむの頭に手刀を落とした。


「ひゃう!」


 痛みでようやく現実世界に戻ってきたつむつむは涙目で顔を上げた。


「お・は・よ・う」


「あっ、静ちゃん。おはよう。ちょっと今のは痛かったよ?」


「つむつむが無視するのがいけないんでしょ?」


「えっ? 私、挨拶された?」


「おいっ! スマホに夢中になりすぎ! ってか何見ていたの? ゲームなんてやらないでしょ?」


 失礼とは思いながらもスマホをチラリとのぞきみると、サッカースタジアムのアイコンの人とのメッセージのやり取りの画面だった。


「み、見ないでよぉ」


「脳内お花畑か! 全く、もぅ。そんなことで夢中になれるなんて安上がりな子ね」


「わ、わたしにとってはすごい進歩だもん」


「はいはい、そうね。まあ、片想い拗らせるとこうも単純になれるのね」


「静ちゃん、言い方。悪意があるよ!」


 顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに反論してくる、つむつむ。周りの男子が胸を押さえてうずくまる。


「ないない。私はいつだって、つむつむの味方よ? ね、お義姉ちゃん」


「〜〜〜〜〜!!」


 恥ずかしさが頂点に達したのか、つむつむは両手で顔を覆い机に突っ伏してしまった。


 これ以上の煽りは、つむつむが耐えられそうにないので、私は自分の席に戻り授業の準備に取り掛かった。


「おはよう、静」


「あら、おはよう貴大(たかひろ)


 隣の席から爽やかな笑顔で挨拶をされる。


 高校に入学してからの友達、真田貴大(さなだたかひろ)


 所謂、イケメン、陽キャで男女問わずに人気がある彼は、持ち前のコミュ力で初めから名前呼びをしてきた。

 まあ、()に対しては下心がなさそうなので、特に気にも止めずに友達付き合いをしている。


「やっぱり、かわいいよな」


 視線は私ではなく、教室の真ん中あたりを見ているみたいだ。

 小さな呟きだったが、その一言はしっかりと私の耳に届いていた。


「へぇ〜、貴大はつむつむ狙いか」


 机に頬杖を突きながら眺めていると、ビクッと肩を震わせて振り向いた。


「……聞こえてた?」


「ばっちり。計算じゃ……なさそうね」


 気まずそうな表情で視線を逸らした貴大。


 あらやだ。意外とかわいいとこあるじゃない。


 私のタイプじゃないけど。


「なあ静。お前、大島さんと仲良かったよな?」


「まあ、そうね」


「だよな。じゃあさ、俺に協力してくれないか? なんとなくだけど避けられてる気がするんだよ」


「ああ、あの子、男子が苦手だから」


「そうなのか? じゃあ特別俺が避けられてる訳じゃないんだな? なあ静、頼むよ。協力してくれ」


 真っ直ぐな目で私を見定める貴大。


 それだけで、どれだけ真剣な思いなのかが伝わってくる。


「それは———」

「お〜い、静ちゃん。お客さんよん」


 口を開きかけたその時に、入り口付近にいたクラスメイトから呼ばれて視線を向けた。


「お兄ちゃん?」


 入り口で声をかけてきたクラスメイトにお礼を言っているお兄ちゃんに近づくと、スッと目の前に私の箸箱を出してきた。


「母さんが間違えたらしいわ。俺のがお前の弁当と一緒にあるらしいから取り替えてくれ」


「お母さんから連絡があったの?」


「いや、小腹が空いたから早弁しようと思って」


「呆れた。さすがに早すぎ」


 まだ1時間目も終わってないのに、これからはお弁当以外におにぎりくらい持たせるようにお母さんに言っておかないとね。


 私のお弁当袋からお兄ちゃんの箸箱を手渡しに行くと、背後から忍び寄る気配がした。


「せ、先輩。その、2時間振りです。えへへへ」


「おう、つむつむ。朝早かったから授業中に寝ないようにな」


「だ、大丈夫です、よ? それよりも、その、今度のデートのことですけど……」


 つむつむの発したデートと言う言葉に教室内がざわつく。

 女子からは『きゃ〜!』と色めき立った歓声が、男子からは『チッ!』という舌打ちが聞こえてきた。


『キーンコーン、カーンコーン』


 つむつむの声を遮るようにチャイムが鳴り、お兄ちゃんは慌てて戻っていった。


 席に着くと隣の席から非難めいた声をかけられた。


「なあ、静。さっきのはお前のお兄さんなのか?」


「そうね」


「大島さん、男子が苦手なんじゃなかったのか?」


「苦手よ? お兄ちゃん以外の男子は、ね」


「……」


 顎に手をやり考えこむ貴大は、意を決したように顔を上げる。


「なあ静。やっぱり俺に協力してくれないか?」


「友達だからしてあげたいんだけどね。つむつむは()()だから無理かな?」


「そうか」


「でも、答えはひとつじゃないから。邪魔はしないよ?」


 お兄ちゃんが、つむつむを選ぶ確率はいまのところ低いだろう。有松先輩は強敵だ。だから、つむつむが幸せになれる道を無闇に潰したりはしない。


 まあ、協力はしないけどね?

 

 

「ところで、つむつむ。今朝お兄ちゃんね会った?」


「うん。最近ね? 早朝、先輩と2人っきりで走ってるんだ」 


「……隠してたね?」


「ち、ちょっとだけ、独り占めしたかっただけだもん」

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