第98話 人間と魔族は手を取り合う
魔族との戦いも終わり、人間、魔族の両代表との会合が昼間のレイナーク城で行われた。
ユーリを中心に、魔族と手を取り合うのを拒否する者も多い中、フレオ様はクリフレッドと共存していく道を選んだ。
「アルがいなければ魔族に負け、今頃我らに人権は無かっただろう。全部アルのおかげなんだ。そんなアルの提案を無下にできるわけがないだろう?」
「まぁ、そう言っていただけるのはありがたいのですが……ご自身の意志で決めてもらっても構わないのですよ」
フレオ様は温かい瞳で笑う。
「これは俺の意思でもある。潰し合う必要が無いのであれば、それに越したことは無い。問題は山積みではあるけれど……一緒に生きて行く道を選ぶのは大変ではあるけれど……大変だからこそ、よい方向に変化もしていけるというものだ」
「変わる時というのは、いつだって大変ですからね。俺もできる限りのことは力になりますよ」
「俺も力を尽くすことを約束しよう」
クリフレッドは俺とフレオ様を力強く見つめる。
意志のこもった紅い瞳。
俺とフレオ様はクリフレッドに頷く。
「アルベルト……お前が何故、【神剣使い】としてこの世に誕生したのかがよく分かったよ」
「どういうことだ?」
「……運命の流れを運ぶためだ。人間と魔族を繋ぐために、俺たちよりも強大な力を与えられたんだ」
俺は苦笑いしながら、クリフレッドに答える。
「俺は全部、面白そうと思ってやってるだけなんだけどね……魔族と殺し合わずに仲良くしたほうが楽しそう。そう考えただけだ。そんな運命だとか、難しいことは考えたこともないよ」
「だが……結果としてそうなった。それが運命なんだ」
クリフレッドは恐ろしいぐらいに達観している部分があるからな……
そう言われたらそんなような気もしてくるから怖い。
本当に自分が楽しく生きているだけなんだけどな。
◇◇◇◇◇◇◇
「また大変だったみたいね、ボラン」
「ああっ!? べべべ、別にお前が心配するようなことじゃねえよ!」
フレオ様たちとの会合が終わり、ローランドに帰るとすでに夜になっていた。
塔にある自分の部屋に帰ろうとすると、塔の前ではボランとキャメロンが二人きりで会話をしているようだった。
陰から二人の様子を窺おうと物陰に潜もうとすると……そこにはティアたちがいた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ティア……それにみんなもいるのか」
「よお、アルさん。今いいところだから、一緒に見学しようや」
エイドルフがニカッと笑いながらそう言う。
俺もだけど……みんなボランたちのことがとても気になるらしく、ドキドキと胸を高らせながら二人の様子を隠れながら見ていた。
「ボランは私たちだけじゃなくて、みんなを守ろうとするから、一番先頭を走るらしいわね……私、それを心配しているの」
「ななな、なんでお前ががそんな心配すんだよ! 俺は俺のやるべきことをやってるだけだ。それだけなんだよ!」
「ボランのやるべきこと……私のやるべきことは、子供たちの面倒を見てあげること。それから……ボランの心配をすること」
「だ、だだだ、だから俺の心配なんてすることねえんだよ!」
頭から湯気が出る勢いで赤くなっているボラン。
キャメロンは少し寂しそうに視線を落とす。
「町に居る時は見周りをしているだけだから気にしないのだけれど……外に出たら、やっぱりあなたの心配ばかりしてしまうの」
「どどど、どういう意味なんだよ、ああっ!?」
真剣な目でボランを見つめるキャメロン。
ボランは目を合わせることができずに、視線がキョロキョロあっち向いたりこっち向いたりしている。
おい! そこはちゃんと目を合わせないとっ。
「なぜか……分からない?」
「うっ……」
ずいっとボランに近づくキャメロン。
ボランは真っ赤な顔を引きつらせ、キャメロンと目を合わせ始める。
「…………」
「…………」
無言で見つめ合う二人。
シーンとただ静かな時間が流れる。
「行け、ボラン! そこで告白すんだよ!」
「そうよそうよ! ガツンといっちゃいなさいよ!」
エイドルフとカトレアが鼻息を荒くしながら二人を見守る。
するとボランは意を決したのだろうか、ゴクリとこちらまで聞こえるほど大きな音で固唾を飲み込む。
そしてキャメロンの両肩を掴んだ。
「おおっ!?」
「とうとう告白するの!」
「こ、これでお二人はめでたく恋人同士になるというわけですね!」
ペトラまで興奮をしだした。
いや、ペトラだけではない。
ここにいる全員が興奮を隠しきれなくなっていた。
かく言う俺も、興奮しきってドキンドキンしていたりするのだが。
「キキキ、キャメロン!」
「は、はい……」
全員が唾を飲み込む。
緊張しているキャメロンに緊張しすぎているボラン。
そしてボランは震える手で口を開く。
「俺と……結婚しろや!」
「「「はっ?」」」
全員が呆気に取られていた。
いや、告白通り越して求婚とか……
そんないきなりな話、誰が受けると言うのだ。
「あ、あの……ごめんなさい……私、みんなのママなわけだし……」
「そ、そうか……」
分かりやすく肩を落とすボラン。
そりゃそうだろ。
もっと段階というものを踏まないと。
ボランの玉砕に皆は解散をする雰囲気になっていた。
しかし、
「そういうことは自分の意志だけで決められない……だから、子供たちがいいって言うなら……喜んでお話は受けさせてもらいます」
「「「えええっ!?」」」
皆は唖然とする。
いいのかよ! 全員がそんな顔をしていた。
「ボラン! ボランがパパなら、僕たち言うことないよ!」
「うわー! ボランがパパとか最高じゃん!」
「おおお、お前ら! 何でこんな時間に起きてんだよ! ああっ!?」
子供たちが二人を取り囲む。
動揺するボランに、キャメロンは照れるように笑っている。
「じゃあ……私、ボランと結婚してもいいかしら?」
「当然だよ!」
その一言をきっかけに、俺たちは物陰から飛び出し、ボランの周りに集まる。
「おおお、お前ら! ななな、なんでいるんだよ!」
「んなこまけえことはいいんだよ!」
「そうだそうだ! めでてえなぁ! ボランが交際を飛ばして結婚かよ!」
「おい! みんなでボランを胴上げするぞ!」
エイドルフの言葉に従い、みんながボランとキャメロンの胴上げを開始する。
とても幸せそうなキャメロンに怒り狂っているようにしか見えないボラン。
まぁ、内心は喜んでいるのだろう。
俺はティアたちと共に、そんなみんなの様子を微笑ましく見ていた。
暑苦しいぐらいの夜はまだまだ続くようで、ボランは酒場へと連行されていく。
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