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第97話 アルはクリフレッドに提案する

「勝った……勝ったせてもらったぞ、アルベルト!」

「…………」


 ブルーティアの柄だけを残し、粒子状となり宙を漂う【神剣】たち。

 クリフレッドは勝利を確信したのか、拳を胸元辺りでグッと握り締めている。


 眼前まで迫る【穏やかなる死を(レクイエム)】の拳。

 圧倒的な衝撃を含むその攻撃に、体が吹き飛ばされそうになる。

 だが俺はそれに耐えるように、ブルーティアの柄を頭上に高く掲げた。


「切り札は――」

『――最後の最後まで取っておくものでございます』

「……何?」


 【神剣】の粒子がゴッ! と激しい光を生み出す。

 ブルーティアから極太の光の柱が天高く伸びていき、雲を割った。


 クリフレッドは呆然と俺たちの姿を見ている。

 俺はクリフレッドに対して首元がチリチリするような恐怖心を抱いていた。

 だがそれと同時に、細胞一つ一つが叫び出しそうなほどの興奮を感じていた。


 強者とのギリギリの戦い。

 ブラットニーの時でも得られなかったこれ以上ないほどの高揚感。

 そして互いに限界を超えたぶつかり合いによって、脳がスパークするような感覚。


「これが俺たちの切り札――フルバーストモードだ」


 【神剣】の内包する力を全て解放し、形状をも手放し光の剣へと昇華させる最大最強の奥の手。

 

 俺は先ほどのクリフレッドのように全力を振るい、ブルーティアを相手の頭上から叩き落とす。

 あまりにも長すぎるブルーティアの刀身は、遥か彼方の山々をも切り裂いていく。

 【穏やかなる死を(レクイエム)】は俺の攻撃を腕で受け止めようとするが――抵抗空しく、サラサラと砂のように散っていく。


「これが……これが【神剣使い】か……」


 眼前で激しい光が巻き起こり――大気が震え、凄まじい破裂音と共に【穏やかなる死を(レクイエム)】が消滅していく。


 目が覚めるような眩い光が収まっていくと、ローズ、カトレア、デイジーは人間の姿に戻り、俺の隣に立っていた。

 ティアも俺の手から人間形態に変化し、静かにクリフレッドの方へと視線を向ける。


 まだ輝きが収まらない中で、クリフレッドは横たわっていた。

 

「…………」


 まるで目覚めのように、ゆっくりと目を開けるクリフレッド。

 彼は俺の顔を見て、何やら思案している様子だった。


「なぜ……俺は生きている?」

「さあ? 世界が守ってくれたんじゃないか? ……と言いたいところだけれど、本当はちょっとばかり手加減をした」

「手加減……か。君にはどうやっても敵わないみたいだな」


 苦笑いをするクリフレッド。

 そして穏やかな表情のまま、彼は続ける。


「なぜ、俺を生かしておいたんだ?」

「なんとなくさ……お前は心の底から、戦いを望んでいるようには見えなかったからな。ユーリだって殺していないし、殺意と呼べるものを一切感じられなかった」

「……君がブラットニーを殺していたら、俺も本気で君を殺そうと躍起になっていたかも知れないけどね」

「ははは。あいつを殺さなくて正解だった」

「なぜブラットニーも殺さなかったんだ?」

「直感、というやつさ。俺は直感は正しいことだと信じているんだ。今までの経験の中から、正しい選択を頭脳が瞬時に導き出してくれる。人生の経験から人の頭はそうやってもっとも正しい答えを用意してくれるものなんだよ。まぁ直感にも種類はあるけれど、今回のことを言えばそんなところだと思う」

「なるほど……確かに、君の言う通りだ。でも、俺を殺さなかったことが正解だと思うか?」

「さぁ? 間違っていたら、それはそれでいいと思ってる。間違えることもあるから人間だろ」


 クリフレッドは大きな声で笑い、少し寂しそうに言う。


「でも俺は魔族だ。君たち人間とは相容れない存在。俺たちが生きているだけで、君たちの害になるだろう。四害王なんて呼ばれているぐらいだしね」

「…………」


 俺は頭の片隅にあったとある提案をクリフレッドに話すことにした。

 とてもバカらしい……でも、新しい未来を創れるかも知れない提案だ。


「なあクリフレッド。利害を一致させるつもりはないか?」

「利害……?」

「ああ」


 ゆっくりと体を起こし、地面に座り込む形を取るクリフレッド。

 俺は膝をつき、彼に話す。


「人間と魔族……お互いに手を取り合うことはできないだろうか?」

「俺たちと……人間が?」

「ああ。俺はクリフレッドを見て、それも可能だと感じた。そしてお前たち魔族にも人生というものがある。互いの尊厳を踏みにじることなく、共存できる道を模索しよう」


 クリフレッドは俯き、夜のように暗い表情をする。


「そんなこと……可能なのだろうか? 俺はいいとしても……他の魔族は」

「そこを何とかするのが、大将の務めだろ? お前たちをただ滅ぼすのは、何だかもったいない気がするんだよ」

「…………」

「他の魔族のために、お前はみんなを死に物狂いで説得するんだ。きっと魔族も一緒に生きて行ける道があるはずだから」


 それを聞いて彼は、微笑を浮かべた。


「これも自然の流れ……か。分かった。俺もやれるだけのことをやってみるとするよ。我ら魔族と――」

「俺たち人間の、輝かしい未来のために」


 俺たちは笑みを向け合いながら、手を取り合った。

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