第95話 卵は羽化する
【可能性の卵】。
命を賭した戦いに、限界を超えた戦いに、死と隣り合わせの戦いに、ロイの中に眠る力が開花しようとしていた。
戦士が一番成長をするのは、限界を超えた戦いの中である。
失敗のできない緊張感、命を削る攻防、死闘の中でのひらめき。
それら全ては、何年もの訓練に匹敵するほど人を成長させるものなのだ。
そしてロイはその限界を超えた戦いの中で得た経験により、【可能性の卵】を急速に羽化させようとしていた。
「何が起き、た」
ロイの失われた左腕、そして胸に開いた穴が炎の中で再生されていく。
「僕にも分からない……でも、一つだけ確かなことがある」
全身の炎は収まるが、元々碧眼であったロイの瞳が炎のような朱色に変貌していた。
ロイはブラットニーに対して右拳を突き出し、宣言する。
「あなたを倒す力が今ここにある! 僕はあなたを倒して全部守ってみせる!」
「ロイ……何があったんだ……」
ロイの体が元通りになったのを、ボランたちは愕然とした様子で眺めていた。
だが、すぐに襲い来るモンスターたちに意識を引きずり戻される。
【可能性の卵】には、これまでの経験、思い、人生の全てが影響を及ぼす。
ロイの心を糧に成長し、羽化したその能力は、燃え盛る炎の能力となった。
絶対に諦めない心と、何度でも立ち上がる不屈の精神。
それらが【可能性の卵】を成長させ――【不死鳥】となりロイの能力へと昇華した。
極限を超えた再生能力と、ロイの炎の意思と連動する力。
ロイが燃えれば燃えるほど力は増し、人間の限界を超えた力を発揮することができる。
その力は今――
「うおおおおおおおおおお!!」
「がっ――」
四害王と渡り合えるまでに燃え上がっている。
炎を纏ったロイの拳がブラットニーの影を粉砕し、奴の顔面を捉えた。
「【鳳凰覇光拳】!!」
ゴウッ! と燃えるロイの拳が、ブラットニーを天高く突き飛ばす。
「きけ、ん……こいつは、きけ、ん!」
激しい焦燥感がブラットニーの全身を駆け巡る。
両手を槍に変化させ、ロイの命を奪うために全速全力で突き伸ばす。
ロイはマグマのように全身を燃え滾らせ、ブラットニーに向かって飛翔する。
◇◇◇◇◇◇◇
「っ!?」
クリフレッドが腕を振るうと、背後にいる巨大な【穏やかなる死を】もそれに同調するように腕を振るう。
【穏やかなる死を】の突き出した拳より波動のような衝撃波が発生し、大地は抉れ、遠くの山にポカリと風穴を開けてしまった。
「おいおい……これは流石に非常識すぎるな」
『非常識具合では負けていないつもりでしたが……これは驚愕の一言でございます』
クリフレッドの攻撃を垣間見たレイナークの戦士たちは、恐れ顔を真っ青にしていた。
その間にモンスターたちの攻撃を受け、絶命する者たちが多数。
死んだ仲間たちを見て、ようやく正気に戻り、戦いに意識を集中する。
「俺の自然の力と、君の不自然極まりないその力……勝つのはどちらだろうな」
「お前の力も、もう不自然としか言いようが無いけどな……だけど」
俺はブルーティアをクリフレッドに向けて、不敵に笑う。
「勝つのは俺だ。たかが自然の力、神の名を冠するブルーティアが負けるわけがない」
どれだけの権威を持とうとも。
どれだけ強大な力を持とうとも。
どれだけ世界に愛されていようとも。
俺は――俺たちは負けない。
心が大声で叫んでいる。
何があろうとも、どんな奴が相手だろうと負けるわけがない。
相手の力に怯えている部分は確かに無きにしも非ずと言ったところだが、それ以上に勝利を確信している心の方が強く輝いている。
負けない。
俺たちは、絶対に負けない。
「行くぞ、ティア。こいつに勝ってこれからも、みんなと楽しく愉快な日々を生きていくんだ」
『はい。私もご主人様が作って下さる美味しい物……これからずっと食べて行きたいと考えていますので、絶対に勝ちましょう』
「ああ!」
俺は闇の力を展開し、全力で駆け出す。
「【インフェルノ・オーバーブレイク】!」
闇の炎がブルーティアを包み込み、爆発音を鳴らしながらクリフレッドに向かってさらに駆ける。
「君は俺には――勝てない!」
クリフレッドが腕を俺に向かって突き出す。
【穏やかなる死を】が尋常ではない凄まじい威力の拳を放つ。
俺はそれに合わせるように、ブルーティアを振るう。
「『はあああああああ!!』」
爆風と黒炎がぶつかり合い、大地が揺れ、破壊的な衝撃が周囲に広がっていく。
吹き飛んで行く仲間たちとモンスター。
一瞬拮抗するが――相手の爆発的な力に、俺も宙高く飛ばされてしまう。
「やはり、俺の勝ちのようだな」
「ははは! まだ俺たちは負けていないぞ」
俺は空中で【神剣】のみんなに声をかける。
すると目の前に3つの光が現れ――【神剣】が俺の下に集まってきた。
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