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第94話 ロイは化ける


 痛い痛い痛い痛い!

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


 足を失ったロイは涙を流しながらブラットニーに視線を向ける。

 だがそこに怯えなどは一切含まれず、まだ闘志は寸分も失われていなかった。


「カトレア! ロイの傷は治せないのか!?」

「さ、さすがに失ったものまでは無理だって!」


 ローズとカトレアはモンスターと戦いながらロイの戦いを見届けていた。

 しかし、ツヴァイクとの戦いで体力を消費したことにより、敵を倒すことにも手間取ってしまし、近づくこともできない。

 さらにはブラットニーがロイを圧倒しているのに呼応するかのように、その勢いを増していた。


「ま、まだだ……まだ僕は負けていない」

「…………」


 ロイは片足で起き上がり、地面を蹴りあげ上空からブラットニーに接近する。


「止めろ……止めろやコラッ!!」


 ボランは必死にモンスターを倒しながらなんとかロイの方へと向かおうとしていた。

 だがローズらと同じく体力を消耗仕切っており、まともにモンスターを倒すことができない。


「もう止めろ! てめえがこれ以上戦う必要はねえだろうが!」

「必要ならありますよ……こいつを倒さないと、みんなが死んでしまう」

「でも、てめえはもう傷だらけなんだ! さっさと下がれ! 俺が……俺がてめえを守ってやっから、下がれ!」

「下がりませんよ。ボランさんだって限界じゃないですか……」

「俺は! 許せねえんだよ……見てられねえんだよ! 大事なもんが傷つくのは、我慢できねえんだよ!」


 盾で敵の攻撃を防ぎながら、涙を流すボラン。

 全てを守ると覚悟を決めた彼には、ロイが傷だらけになっていく姿に我慢できなかった。

 守りたい。全部守りたい。

 それが例え、強い仲間だったとしても。

 ロイがまだ少年であるとか、そんなことはどうでもいい。

 ただ仲間を守ることができない自分に、涙を流すボラン。


「僕だって……もうボランさんたちが傷を負うのを見たくありません……だから傷つくのは僕でいい」


 ブラットニーに最接近し、全体重を乗せた左拳を振るうロイ。

 無情にも、その左腕もブラットニーの影に噛み千切られた。


「があああああああ!!」

「ロイ!!」


 左腕と右足を失ったロイは、それでも瞳に燃える炎を宿す。

 覚悟を決めたからだ。

 ボランの覚悟が炎のようにロイの心に燃え移り、ロイはその炎を際限なく熱く燃やしていた。

 左腕を失ったからどうだというんだ?

 右足を失ったからどうだというんだ?

 まだ僕には右腕が、左足が、頭が、命がある。

 まだ燃える心が残っている。

 命尽きる瞬間までは、絶対に諦めたりはしない!


 右腕を振り上げるロイ。

 ブラットニーはそのロイの姿に背筋から頭の先までゾクリと震わせる。

 この異様なまでに諦めの悪いロイに、四害王が恐怖心を抱いていた。


 ブラットニーは何とも言えない、焦りのような物も感じている。

 こいつには……何かがある。

 危険な何かがこいつの胸の中には宿っている。


 そう考えたブラットニーは、腕を槍に変化させ――


 迷うことなくロイの胸を貫いた。


「あ――」

「ロ――ロイぃいいいいいい!!」


 ボランは大量の涙を流しながら、敵を盾で打ち倒して行く。

 しかしそれ以上にモンスターが彼に襲い来る。


「どけ! どけ! どきやがれ! ロイを……ロイを助けに行くんだよ!!」


 ロイはその場に倒れ、腕から、足から……そして胸から致死量ともいえるほどの量の出血をしていた。

 火を見るよりも明らかだ。

 もうロイは死ぬであろう。 

 ローズも、カトレアも、そしてローランドの仲間たちは、悲壮な表情で彼に視線を向けた。


「あんな子供に任せるのではなかった……死ぬべきは私だった! くそ! 自分の判断ミスを恨むぞ!」

「せめてあのクソ野郎に一矢報いてやろうじゃん……」


 激しい怒りに身を焦がすローズとカトレアは全力でモンスターを引き裂き、射抜いていく。

 だがどうやってもブラットニーに近づくことができない。


「…………」


 ロイは薄れゆく意識の中で、急速に体温が失われていくのを感じていた。

 もう、僕はここで死ぬのか……悔いは……ある。

 最後まで戦いたかった。みんなを守りたかった。もっと力が欲しかった。


 届かなかったんだ……こいつには。


 氷のように冷えていく身体。

 しかしそれと同時に、灼熱のように熱くなるものを胸に感じていた。


「?」


 それは止めどなく熱く燃え上がり、火傷を負ったかのように体全身の体温が上昇していく。


「!?」


 ボッと燃え上がるロイの体。

 ブラットニーはゴクリと固唾を飲み込んだ。

 化けた……こいつの中で――何かが目覚めた。


 そう悟るブラットニーはロイに止めをさすため、彼の影から巨大な牙を現出させる。

 しかし、激しい炎によって牙は消し炭となりサラサラと消滅した。


「ロ、ロイ……?」


 凄まじい炎の中――両足(・・)で起き上がるロイの姿を見て、ボランたちは唖然としていた。


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ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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