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第91話 エミリアは決着をつける

 猪突猛進。

 エミリアの戦闘スタイルはその一言がふさわしい。

 ただひたすらに真っ直ぐに突き進む。

 それだけだ。

 そしてこれまでも、それだけで敵を切り伏せてきた。


 今回だってそうだ。

 ただ、自分の力を信じ――

 馬鹿みたいに真っ直ぐ突っ込んで敵を倒すだけ。


 ライオレッタの隙の無い斬撃を前に、エミリアの脳から身体全体に、炎のような命令信号が伝わっていく。

 こいつの剣が迅く隙が無いと言うのなら――


 それを超える剣速を繰り出せ!


「はぁああああ!!」


 ライオレッタのしなる斬撃を、高速の剣閃で弾いていく。


「なっ!?」


 相手の懐に侵入するように、剣の隙間をくぐり抜けていくように、レイピアで剣を弾きながら突き進む。


「うおおおおおおおおっ!」


 エミリアのレイピアは光を纏い、さらに剣速が加速していく。

 限界を超えたその動きに、身体の節々は痛みに悲鳴を上げる。

 だが、そんなことどうでもいい。

 ただ前に突き進む!


「【ホーリージャッジメント】!」


 祈りを切るように――レイピアが十字を切る。

 剣から発せられた光の十字架。

 それはとてつもない輝きと強大さを誇る。

 ライオレッタはその光を防ぐために剣を元の状態に戻し、ガードした。


「この――バケモンが!」


 吹き飛ばされそうなのを何とか堪えるライオレッタ。

 光は収束していき――今の攻撃ではエミリアの動きを抑えるのは不可能だと判断し、肥大化させた剣を横薙ぎに振るう。

 迫りくる巨人の剣。


 瞬時に変化したその攻撃にエミリアは臆することなく、前に出る。


「誰がバケモンだ! コラッ!」


 その剣を下から蹴り上げるエミリア。

 ライオレッタの手から剣が離れ、元のサイズに戻って宙を舞う。


「なっ!? オレは世界一の怪力のはずなのに……」

「だったら、私が世界一の力持ちってことだろ!」


 エミリアは驚愕するライオレッタに瞬速の突きを放つ。

 が、辛うじて致命傷を避けるライオレッタ。

 レイピアは彼女の左脇辺りの肉を抉り取るだけに終わる。


「っ……この!」


 右拳を突き出すライオレッタ。

 エミリアは左手でその拳を軽々と受け止める。


「くっ……まだ終わりじゃねえ!」


 頭を大きく振り上げるライオレッタ。

 頭突きが来る。

 そう判断したエミリアは――


 それに合わせて頭を振るう。


 ゴインッ! と激しく衝突する二人の額。


「…………」

「…………」


 エミリアの頭からプシュッと激しく血が噴き出し、ふらふらと後ずさる。


 ライオレッタはその激しい衝突に微動だにせず――


 バタンとその場に倒れてしまった。


「……力比べは、私の勝ちみたいだな」


 息を大きく切らし、レイピアを杖替わりにその場に踏みとどまっているエミリア。

 その彼女の背中を見て、冒険者たちが大騒ぎをする。


「か……勝っちまった……エミリアが四害王に勝っちまったぞ!」

「バ、バケモンだ……本物のバケモンだ!」

「だから誰がバケモンだ、コラッ!」

「「「ひーっ!!」」」


 戦場で震えあがる冒険者たち。

 しかし、それ以上に動揺を隠せないモンスターたち。

 まさか四害王が負けてしまうとは……

 戦いの手を止め、本能的に逃げ出すモンスターも大勢いる。


 あの女は相手にしてはいけない。


 この戦場において、人間にしてもモンスターにしてもその考えだけは共通していたようだ……



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ま、まさかブラットニーまで出て来るなんて……もう逃げちゃう?」

「そういうわけにはいかんだろう……」


 カトレアとローズはブラットニーと対峙し、ゴクリと固唾を飲み込む。

 ツヴァイクとの戦いで大きく体力を消費してしまった。

 どう考えても、こいつと戦うほどの余力は残されていない。


 ローズはどうやってしのぐかを全力で思案し、カトレアはどうやって生き延びるかを考えていた。


「……アルが帰って来るまで俺が持ちこたえてやる!」

「ボラン……しかし、相手は四害王の一人だぞ?」

「四害王も大食い王もねえんだよ! 俺が全部守るんだよ、ああっ!?」


 血だらけの体を引きづって、ボランは盾を構えながらブラットニーを睨み付ける。

 ブラットニーは怠惰な瞳をボランに向け、ゆっくりと右手を振るった。

 するとその右腕は影となり、狼の牙を形どりボランを襲う。


「うおっ!」


 盾で何とか防ぐボラン。

 だが、脚に力が入らず、簡単に吹き飛ばされてしまう。


「クソッたれが!」

「くっ……どうする……どうやって対処する!?」

「あはは……やっぱ逃げるしかないんじゃ……」

「てめえらは逃げろ! 俺が押さえてやっからよ!」


 絶望的な状況で、命をかけてみんなを守ることを決意するボラン。


 あいつを倒す手段がないなら、やはり命がけで押さえるしかねえ。

 頼むからアルが帰ってくるまで持ってくれ、俺の体……


 ローズとカトレアの前に立ち、相手の威圧感に呼吸を荒くするボラン。


「体力を失ったお前に止められるほど甘くないぞ、奴は!」

「そんな甘くねえのは分かってんだよ! だから……俺の命ぐらいは捨ててやらあ!」

「ちょ……無茶したら、またキャメロンが泣くよ?」

「キキキ、キャメロンは関係ねえだろうが、ああっ!?」

 

 顔を紅潮させてボランはカトレアに怒鳴る。

 と、そのタイミングでブラットニーの影が襲い掛かり、持てる力を絞り出しなんとか耐えるボラン。


「に、逃げろ……思ってた以上に持ちそうにねえ……」

「ボラン!」


 ブラットニーの影は、盾を着実に壊しにかかろうとしていた。

 ビキッとヒビが入り出す巨大な盾。

 もう限界か。

 そう思った瞬間であった。


「な、なんだあれは!?」

「ああっ!?」


 声に振り返ったボランたちの目に映ったのは、派手に敵が吹き飛んでいく光景であった。

 まるでボールのように次々にモンスターが弾き飛ばされていく。


 ブラットニーはその騒ぎに影を戻し、視線を移す。

 

「アルか!?」

「い、いや……アルベルト様ではない。あれは――」


 モンスターを倒しながら遠くからボランたちに近づいて来る人物。

 それは――


 ロイだった。

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[一言] だーからバケモンって言うなって何度も……ってこっちに来たんだけどーーッ!?
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