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第90話 エミリアは突撃する

 ユーリは燃え盛る瞳と剣で、クリフレッドに向かって駆け出した。

 熱く燃えるユーリに対して、クリフレッドは凪の如く、静かにたたずんでいるだけだ。


「舐めるな……四害王!」


 凄まじい火力の剣を振り下ろすユーリ。

 剣はクリフレッドの首を、刈り取ろうとしていた。


 しかし突如大地が割れ、地面から蔦が伸び、クリフレッドの首を守るかのように剣を防ぐ。


「な……どんな手を使っているんだ!」


 ユーリはクルッと回転し、今度は逆の方向からクリフレッドの首を狙う。

 だがまた今度も、蔦が伸びてそれを阻止する。


「俺は何もしていない。世界が俺を守ってくれるんだ」

「な、何を言っている!」


 ユーリはクリフレッドの言葉に激怒する。

 なぜ魔族であるお前を、世界が守るというのだ。

 人間の敵である魔族を世界が守るものか。

 そう考えているのであろう。


 ユーリは怒りに顔を真っ赤にして、左手から炎を放つ。


「【ファイヤーランス】!」


 クリフレッドの目の前で放出されたその炎は、予告もなく起きた暴風にかき消されてしまう。


「な……なぜだ……」

「世界というのは、与えた物を返してくれるものなんだよ。俺は世界を愛している。だから世界も俺を愛してくれているんだ」


 トンとクリフレッドの指先が、ユーリの胸に触れる。

 ただそれだけのことだった。

 だが、ユーリの鎧が爆発を起こしたかのように破裂する。


「バ……バカな……」


 驚愕するユーリは、剣を上段に構え、全力でクリフレッドの頭部を狙う。


「この……化け物が!」


 剣は伸びていた蔦にからめとられ、唖然とするユーリ。

 クリフレッドは穏やかな表情のまま、また、トンとユーリの胸に指先で触れる。


「がはっ――」


 風だ。

 さっき奴の体を守ったように、風がクリフレッドの力になっているんだ。

 指先が触れた瞬間、風がユーリの目の前で爆ぜた。


 風はユーリの体をズタボロにし、激しく吹き飛ばす。

 離れた場所で戦っていた騎士は、飛んで来たユーリの体をギョッとしながらも抱きとめる。


「ユーリを連れて下がってくれ。そしてみんな、あいつに近づくんじゃない」

「は、はい!」


 まぁ、俺が言うまでもなく、誰もクリフレッドに近づこうとする者はいないのだが……

 

「ふー……」

『ご主人様、いかがなされましたか?」

「いや……あれほどの強敵、初めてだからな」

『確かにそうでございますね……ブラットニーよりも強大な敵……ですが、ご主人様に勝てない相手など存在しません』

「だといいけどな」


 俺はブルーティアを構え、クリフレッドに向かって駆け出した。

 不安がないと言えば嘘になるが――


 多分、ユーリはボランたちとさほど変わらない強さの持ち主だったはずだ。

 そんなユーリをあっさりと倒してしまうほどの実力。

 責任がなければこんなの相手にしないんだけどなぁ……


 だけど。

 これほどの強敵と戦うのは不本意ではあるが……

 同時に何か、高揚感を覚える自分もいる。

 戦闘狂でもなんでもないというのに、不思議なものだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「バケモン! バケモン女!」

「…………」


 私は子供の頃から力が強かった。

 同世代の男子によくおちょくられていたし、恐れられていた。

 

 イタズラしてくる男子に、お返しで肩を殴っただけで相手の骨が骨折したり、年上のいけすかない奴に殴り掛かったら余裕で勝ててしまったり……

 いつからか、自分の持つ力が嫌になっていた。


 もっと普通の女の子として生まれたかった。

 おしとやかで上品で……か弱い女の子。

 でも私はそんな理想的な女性とは正反対の女。


 とにかく強くて怖くて。

 年頃の男子から見たら、恐怖の対象であり、おちょくるのには格好の的だ。


 そしていつしかついたあだ名が――バケモンだった。


「ねえエミリア。やりかえさなくていいの?」

「いいの。やりかえしたらまた、バケモンって言われるから……」


 一緒によく遊んでいた女の子が、心配そうに私の顔を覗き込む。

 

「なんか……エミリアらしくないね」

「……力が強いとか、そんな自分、嫌いだから」


 私はとにかく大人しくした。

 手を出すからバケモン扱いされる。

 逆に言えば、手を出さなけれバケモン扱いされないで済むはずだ。


 だけど……そうはいかなかった。

 今まで力で解決してきたから、もう手遅れだった。

 いつまで経っても、私のあだ名はバケモン。


 なんでそんな酷いあだ名を付けるの?

 私は一人、夜に泣いていた。

 泣いても泣いても、何も解決はしない。


 本当……普通の女子になりたい。

 そう考えていたんだけど……

 一人だけ、私をバケモノなんて呼ばない男子がいた。


 その上そいつは、こう言ったんだ。


「カッコいいじゃないか。普通の人より強いなんて。僕なんて弱いから、エミリアのその力が羨ましいよ」


 元々優しい奴で、ずっと仲は良かったけど……

 この時初めてこいつに心を動かされたんだと思う。

 蒼い剣を背負った男の子。


 それ以来、私は少しずつだけど、自分の力を受け入れられるようになった。

 今となっては――


 この力は、私の誇りだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 エミリアはライオレッタの鞭のような斬撃を避けながら昔のことを思い出し、ほおを緩めていた。


「なんだよ……もう勝ち目がないから、おかしくなっちまったか?」


 ライオレッタの攻撃は一切の接近を許さず、一直線に突っ込むしか能の無いエミリアは傷だらけになっていた。

 状況は外側から見れば絶望的。

 デイジーはエミリアのそんな姿を見て、援護に入ろうとする。


「デイジー! こいつは私に任せて、お前はみんなの指揮をしろ!」

「でも……エミリアお姉ちゃん」


 不安な表情でエミリアを見つめるデイジー。

 エミリアは視線はライオレッタに向けたまま、不敵に笑う。


「大丈夫だ。私はこいつに絶対勝つ」

「はっ! えらい余裕だな!」

「余裕なんてないよ」


 レイピアを構え、堂々とした態度でライオレッタと対峙するエミリア。


「私はただ……これからも惚れた男と一緒に生きていくんだ。だから私は、必ずお前に勝つ」

「……お前、オレと似てるのかもな」


 ライオレッタは、斬撃の勢いをさらに増していく。


「オレも惚れた男のために戦ってんだ! 誰にも負けるわけにはいかねえんだよ!」

「そうかよ。でもこの勝負、勝つのは私だ!」


 確かな決意を秘めた瞳でライオレッタを睨み付けるエミリア。

 そして一拍あり――決着をつけるため、エミリアは駆け出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] バケモンと呼ばれるの嫌がったのはそういう理由か。 ……まあ、オレも大概そう『呼んじまった』がな。 >「オレも惚れた男のために戦ってんだ! 誰にも負けるわけにはいかねえんだよ!」 そう! …
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