第86話 ツヴァイクは血を流す
ドンドンドンという激しい音と共に揺れるブルーティア。
各砲門から放出されていく弾丸は、地上を這うモンスターたちを焼き尽くしていく。
空を舞う鳥タイプのモンスターやドラゴンらはこちらに向かって飛翔してくるが、船の船首に取り付けられた像――船首像が持つ蒼い宝石から発する追尾する魔術に、黒煙を上げながら地上へと撃ち落とされていく。
ちなみに船首像の造形はティアそのものである。
「あ……あれが【神剣使い】……メチャクチャじゃないか!」
「俺もあれは初めて見たが……相変わらず強すぎる」
「あんな物を扱えるとは……【人類最強】の二つ名は伊達じゃないな」
レイナークの戦士たちが大騒ぎする声が聞こえてくる。
俺はほんの少しの高揚感を覚えながらも、敵を穿つ手を休めない。
とは言ったものの、攻撃をしているのはティアなのだが。
こちらの攻撃に手も足も出ないモンスターたちは、徐々に後退を始めていく。
しかし前進しようが後退しようが、こちらの攻撃から逃れるわけもなく、その数はみるみるうちに減少していた。
「手を抜いたら仲間たちが死んでしまう。悪いけど、全力で行くぞ」
◇◇◇◇◇◇◇
「オラァ!!」
ジオの俊足から放たれる斬撃は、悉くツヴァイクの体に傷を作っていく。
全身から血を拭き出すツヴァイクは、ニヤリと笑うだけで傷そのものを気にしている様子はない。
いや、逆に待っていたと言わんばかりに喜びを露わにしている。
「んだよこいつ。あれか、変態か?」
「ただの変態が四害王なんかに選ばれるかよ! 油断すんじゃねえぞ! ああっ!?」
ツヴァイクの正面で盾を構えて注意を自身に向けさせるボラン。
相手もジオに視線を向けることなく、ボランに注目している。
ポタポタ滴り落ちる血……ボランはそれを見て、なんとも言えない悪い予感を覚えていた。
こいつは……マズいんじゃねえのか?
よく分かんねえが……そんな気がするぜ。
そう思案した瞬間であった。
「ほれほれ! もっと痛い目に逢わせて、この変態――」
ジオが短剣を構え、背後から斬りかかろうとするが、ツヴァイクの全身から紅い刃が生まれ出て、無造作に周囲を切り刻む。
「ぬおっ!」
ジオはなんとか斬撃を短剣で受け止めるも、近くにいた数人の仲間が攻撃を喰らい、絶命してしまう。
「ちっ! てめえら、こいつとは距離を取って戦え! 危ねえから近づくんじゃねえぞコラ!」
ボランは相手の動きを止めるために、その距離を詰めていき、【シールドバッシュ】でツヴァイクの頭部を殴りつける。
ドロッと頭から血が流れ出るが、やはりツヴァイクはニヤリと笑うだけであった。
その傷口から幾重もの紅い針が発生し、ボランを突き刺そうと飛び出す。
「んだよこれは! ああっ!?」
咄嗟に盾で防ぐボラン。
何百と言う数の針を受け、後方に押し戻されていく。
こいつ……血を武器にしてやがる。
血を刃に、針にして、それで攻撃をしてくるのか。
「…………」
ボランはゾッとし、剣を力強く握り締める。
もしかしてこいつ……血を流せば流すほど、その威力を増していくんじゃ……
ジオの攻撃をあからさまに喰らい過ぎている。
そして俺の攻撃も避けることなく直撃を喰らった。
「まだ動けんのかよ!」
「おい待て!」
ツヴァイクに止めをさそうと躍起になるジオ。
ボランはそれを止めようとするが、ジオの速度は速い。
言葉が彼に届くよりも迅く、ツヴァイクの後ろから短剣を突き刺すジオ。
血がまた溢れ出て――さらに勢いよく紅い刃を周囲に巻き散らす。
「がっ……」
全身を切り刻まれるジオ。
「我は斬られて喜ぶような変態ではないのである……しかし、斬って喜ぶ変態かも知れないのである」
糸が切れた操り人形のようにその場に倒れるジオ。
ボランは思考よりも速く、ジオを助けるために動き出した。
人を助けるのが彼を突き動かす行動原理。
助けようなどと考えもしていない。
ただ助けるために行動する。
ボランは誰かを助けるために動き、その力を振るう。
「【シールドスロー】!」
魔力で創られた鎖で繋がれた盾を投げ飛ばすボラン。
それはツヴァイクのこめかみに炸裂する。
さらにボランはその盾を蹴り、相手をジオから突き放す。
「おい、大丈夫か、コラッ!?」
「あ……ああ」
血まみれのジオは、膝を震わせながらなんとか起き上がる。
二人はツヴァイクを睨み付け、ゴクリと息を飲む。
「四害王……そう簡単には倒せねえか」
「だけど逃げるわけにはいかねえぞ、ああっ!?」
「分かってるよ……」
ローズは指揮をとりながら、ツヴァイクと戦うボランたちの様子も常に気にしていた。
そして瞬時に判断する。
ボランとジオだけではあいつ相手は厳しすぎる、と。
「エイドルフ! 指揮は貴様に任せる!」
「おいおい……さすがにこの人数を仕切るのは、俺には無理だぜ……」
ボランの右腕である槍使いのエイドルフは、ローズの言葉に嘆息する。
自分ができるのは自警団の連中をボランの代わりにまとめるぐらいだ。
俺なんかがこれだけの人数を指揮できるわけがない。
だが。
「でも……やるしかねえんだろうな……てめえら! 悪いが、俺の指示に従ってくれ!」
「おお! 頭がいてくれた方が、こちらとしても動きやすい!」
「遠慮なく俺らに指示してくれ! 町を守りたい。その気持ちは一つなんだ! 守るために一丸となろうぜ!」
「……ありがとよ、みんな!」
みんなはローズがエイドルフに指揮を託したことを信じ、彼を信じることにした。
元々評価の高い人間であるし、ローズが任せたということはそれだけの力があるということなのだろう。
そしてエイドルフは自分を信じてくれる仲間たちに喜びを感じ、そして彼らを死なせないためにどう動くべきか。
必死に頭を動かし、リーダーとして力を発揮しはじめていた。
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