第85話 ブルーティアはエアーシップへと変化する
大地に寝そべっていたツヴァイクは、ゾンビのように緩慢な動きで起き上がってくる。
そして感情の読めないどんよりとした視線をボランに向けていた。
ボランの背筋にゾクッと寒気が走る。
盾を構えて、ツヴァイクと一定の距離を保ちながらゴクリと息を飲む。
「おいボラン! さっさと倒そうぜ!」
「ああっ!? ちょっと待て!」
「なんでだよ!」
「……マズい気がすんだよ!」
「膠着してるのもマズいだろうが!」
ジオはツヴァイクの背後から短剣で斬りかかろうとする。
が、ツヴァイクの背中の傷から流れ出る血が、突如意思を持ったかのように、剣の形となり、ジオの短剣を受け止めてしまう。
「んなっ!?」
「我は鮮血のツヴァイクである。これから貴様らに地獄を味わせるのである」
ツヴァイクから距離を取り、真っ青な顔で口元をヒクヒクさせるジオ。
「鮮血って……四害王の一人かよ! これはちょっとマズすぎんじゃ……」
「マズいのは分かってんだよ、ああっ!? でもよ、引くわけにもいかねえだろ!」
「クソッ!」
ジオは瞬間移動でもしたかのように、一瞬でツヴァイクに攻め寄り、短剣を首元に突き刺そうとする。
だが今回も、相手の血の剣がそれを防いでしまう。
「貴様ら程度では、我には勝てないのである」
◇◇◇◇◇◇◇
レイナークの戦士たちを引き連れて、俺はソルバーン荒地へ足を踏み入れていた。
眼前には途方もない敵の数があり、こちらを威圧するかのように遠吠えを上げたり手に持つ武器で大地を叩いたりしている。
空にもモンスターが飛んでおり、その数と圧迫感に過呼吸を起こす戦士たちが多数いた。
汗が吹き出し、顔色を悪くし、体を震わせている。
まぁ、これだけの数だ。
怯えるのはいたしかたあるまい。
俺の隣に位置するティアは、冷静に敵を視認しながら眼鏡をくいっと上げる。
「……敵の数はおおよそ十万、と言ったところでしょうか」
【索敵】スキルを最大レベルで習得しているティアは、淡々とした声でそう言った。
背後にいる戦士たちはその数字を聞き、ザワザワしだす。
「じゅ、十万……?」
「……冗談だろ?」
「こんなのどうすることもできないじゃいか……」
怯えて震える戦士たちは、ガチガチと歯を鳴らしていた。
それを見たユーリは、彼らに檄を飛ばす。
「数が圧倒的だから何だというのだ! 俺たちには為さねばならないことがある! この大地を取り戻す……未来へと平和を繋げるために勇気を奮い立たせよ!」
ユーリと同じ志を持つ者はその声に呼応するが、ほとんどの戦士は怯えるばかりで、恐怖の滲んだ瞳で視線を向けるだけであった。
ユーリはそれが気に入らないのか、何度も彼らを鼓舞するように怒声を発する。
俺は嘆息し、ティアと共に敵へと視線を戻す。
「十万の敵か……これは特別報酬を奮発してもらわないと割に会わないな」
「そうでございますね。まさかここまでの数がいるとは夢にも思いませんでした」
「ははは。本当だ。これが数か月前だったら、逃げているところだよ」
ティアは柔らかい瞳で俺の横顔を見る。
「ご主人様はお逃げにはならないでしょう」
「どうだろ。本当に無理だと思ったら逃げるかも知れないぞ?」
「ということは……あの敵を見て無理だとは判断していない、ということでよろしいですね?」
「それは……ティアだって一緒だろ」
微笑を浮かべるティア。
俺もニヤリと笑い、勝利だけを信じ、高揚していた。
「じゃあユーリ。あいつらは俺に任せておいてくれ」
「なっ……何を言っているんだ! あんな数、どうやって一人で!」
「一人じゃない。二人で行くんだよ」
「ま、待て! 俺たちも――」
「大丈夫さ」
仰天するユーリに俺は笑みを向け、敵に向かって歩み寄って行く。
ティアも俺に続き、ゆっくりと歩き出す。
「さてと。ひと暴れするとするか」
「はい」
俺は一度目を閉じ、大きく息を吐く。
そしてティアにモードの変更を指示する。
「ティア。エアーシップモードだ」
「かしこまりました」
「エ、エアーシップ……?」
俺の言葉を聞いたユーリは、言葉の意味を理解できずに眉をひそめた。
ティアの体は輝きを放ちはじめ――際限なく光量を増し肥大していく。
「な、何が起ころうとしているんだ……」
光は大きくなり、そして横にいるはずのティアの存在感さえも増していくのを肌で感じ、俺は飛翔するために大きく膝を曲げる。
そして上空に向かって力の限りジャンプした。
光は収まり、そしてユーリたちの頭上――
俺の足元には、果てしなく大きくなったブルーティアの姿があった。
「な……なんだこれは……?」
ただ愕然と俺たちを見上げるユーリたち。
俺はそんな彼らの顔を見下ろし、イタズラが成功したような……なんとも妙に愉快な気分になっていた。
「……船だ……これは、空に浮かぶ船だ!」
そう。
今ブルーティアは、空に浮かぶ船――巨大な飛空艇となっていた。
蒼い船体に大きい白い羽が2つ、小さい羽根が4つ付いている。
大砲が胴体の左右にいくつも備え付けられていて、帆が風を受けてバタバタと音を鳴らす。
床は木の材質にしか見えないが、金属のような感触が足元にあり、俺はのんびりとした足取りで歩いていく。
こんな時ではあるが、心を躍らせながらブルーティアの船体を歩いていき、船尾付近に備えられている操舵輪を握りめる。
「よし。では、奴らを蹴散らすとするか」
『かしこまりました』
どこから聞こえてきているの定かではないティアの声を聞き、俺たちは殲滅行動を開始する。
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