第82話 決戦は始まる
謁見の間へ向かうと、そこにはフレオ様とユーリに騎士たち、それにティアもいて皆神妙な面持ちで会議をしているようであった。
「ご主人様」
俺を見るなり、恭しく頭を下げるティア。
現在ティアには、レイナークの兵士及び冒険者たちの指導を任せていた。
ローランドで【錬金術】の指導をし、自身を高めるために冒険者をしながら、指導までやってくれて……ティアは本当によく働いてくれている。
彼女が言うには、俺が喜び、美味しい物を作ってくれるならそれでいいとのことだ。
当然、こちらも腕によりをかけて食事は用意させてもらっている。
それでお互いの利害は一致しているのだが、最近はティアの働きの方が勝っているような気がするので、また彼女が喜びそうなものを何か考えてやらないとな……
「ティア、どんな様子だ?」
「はい。ソルバーン荒地にとんでもない数のモンスターが集結しているという情報が入り、そしてそれより規模は小さいもののモンスターがローランドの東とマーフィンの南側に現れたとのことです」
「……四害王が動いているか」
「そう考えるのが妥当かと……モンスターを集められるのは四害王だけですし、それにこれほどの規模は未だかつてありませんでしたから……」
「全ての四害王が動いていると考えて間違いないだろうね」
フレオ様がそう言うと、ユーリは激しい炎を宿した瞳で口を開く。
「こうなってはもうこちらから攻めるしかありません! 待っているだけでは、レイナークまで攻め込まれます! レイナークの全勢力を持って、ソルバーン荒地に向かいましょう!」
「……しかし、マーフィンとローランドはどうする?」
「ローランドもマーフィンも、それぞれ強力な冒険者たちがいます。自分たちの町を守ることはできるはずです」
俺は落ち着いた声でフレオ様にそう言った。
フレオ様は短く首を振り、ティアの方を見る。
「だが四害王が動くとなれば……あれに対抗できるのは【神剣】ぐらいのものじゃないのか?」
「陛下! 私も四害王と対等に戦えると自負しております!」
ユーリは自身ありげに、高々とそう宣言する。
たしかにユーリは強い。
ベテラン級の冒険者よりも遥か高みにある強さを持つ。
しかし、四害王相手となるとどうだろう?
こればかりは戦ってみないと分からないが……ブラットニーの実力を考えると、さすがにそれは言い過ぎではないかと俺は思う。
「アル。君の意見を聞かせてくれ。三方向から同時に四害王が襲って来るとしよう。君ならどうやって対処する?」
「そうですね……やはり、それぞれ実力者を配備して、事に当たるしかないでしょう」
「ならば、北は俺に任せてもらおう!」
「いや……北へは俺も行くよ」
「……俺一人で十分だと思うのだがな」
よほど自分の力を過信しているのか、ユーリは強気な声でそう言う。
だが彼がどれだけ強かったとしても、彼だけに任せるわけにはいかない。
これは、俺の予感ではあるのだが……
「なんとなくなんだけど、北は一番危険な気がするんだ」
「なんとなく?」
「ああ。北に一番戦力が集結しているし、そちらに大将がいると考えるのがごく自然だと思う。そして、感じるんだ。あそこにはとてつもない強敵がいる、とね」
「……ならば、北はアルとユーリの二人に任せる。一番戦力が集結しているのだから、アルに任せるのが適任だろう」
ユーリは冷静に分析したのか、妙に納得した顔でフレオ様の言葉に素直にうなずいた。
「エミリア、マーフィンはお前に任せてもいいか? あそこにはベテラン冒険者も大勢いるが、飛び抜けて強い人はデイジーぐらいしかいないから」
「分かった。任された」
「ローランドはどうするつもりだい?」
フレオ様は心配そうに俺に聞く。
「あそこは大丈夫でしょう。心強い仲間たちが沢山いますから」
「そうか……では、準備ができしだい、向かってくれ」
「はっ!」
ユーリはゆっくりとした動きで、だが大きな声で騎士たちに指示をしだした。
エミリアはティアの顔を見て、彼女の目の前まで足を進める。
「おい、死ぬんじゃねえぞ。お前とは決着がついてないんだからな」
「死ぬつもりなど毛頭ございませんが……決着はもうついているようなものでしょう」
「はぁ!?」
「だって……さすがに子供体型のエミリアには負ける要素はありませんので」
ティアは大きな胸を張って、エミリアを勝気に見下ろす。
エミリアは顔を真っ赤にして、ない胸を張って言い返した。
「胸だけで勝負がつくか! それを決めるのは、アルなんだ!」
「……俺が何を決めるんだよ?」
「「……はぁ」」
ティアとエミリアは大きなため息をつく。
だから、何の話なんだよ。
「まあいい。とにかく、死ぬなよ」
「ええ。エミリアも死なないように……」
「アル! お前もだぞ!」
「分かってるよ。じゃあ、気をつけてな」
「ああ!」
俺がマーフィンへの空間を広げると、エミリアは戦士そのものの顔となり、穴の向こうへと歩いていく。
こうして、人間と魔族との決戦は開始された。
不安がないわけではないが……それでも俺は仲間たちを信じるだけだ。
みんななら必ずこの戦いを制してくれるであろうと、強く、ただそう信じる。
【皆様へのお願い】
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
大感謝です!
これからもこの作品を他の沢山の方にも読んでいただいて、楽しんでもらいたいと考えております。
ランキングが上がれば自然に読んでくれる方も増えるので、ぜひお力添えのほど、よろしくお願いいたします。
そのため、もし少しでも、面白かった、続きが気になる。
そう思っていただけたなら、ブックマーク、高評価をお願いします。
評価はこの小説の下にある【☆☆☆☆☆】を押してもらえたらできます。
ブックマーク、高評価は、作品作りの励みになり、モチベーションに繋がります。
是非とも、よろしくお願いいたします!




