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第81話 アルたちはレイナークへと急ぐ

「アルさん、観光に関していい提案はありますか?」


 俺はチェルネス商会の一室で、ペトラや町を取り仕切る者たちと仕事の話をしていた。

 周囲の忙しく慌ただしい音が響いてくる部屋ではあるが、俺たちは落ち着いた様子で会話を続ける。


「そうだなぁ……温泉にうどん、それにラーメンなんかどうかな?」

「オ、オンセン……ウドン? なんですかそれ?」


 俺は異世界の知識を出来る限り簡潔に分かりやすく説明すると、ペトラたちは感嘆の声を上げると共に、真剣な会議を開始する。


「うどんと、ラーメンというもの原材料はティアさんの【錬金術】に頼るとして……温泉はどうしますか?」

「俺たちの手で掘り起こすか? だけど、現実的ではないよな……」

「何か魔術で……ああ。でもそんなものは無いか……」


 唸りながらも楽しそうに会議をするペトラたち。

 俺は横から、ブルーティアの力を使えば温泉を掘り起こすことができるという話をする。

 カトレアのスライムたちは勘が鋭いらしく、温泉という情報を与えれば、どこを掘ればいいかを知らせてくれるらしい。

 そしてブルーティアの力があればどこまでだろうと地面を掘り起こすことは可能だ。

 少々面倒ではあるが、自分のためになるし、みんなのためになるし、まぁやるしかないだろう。


「じゃあ、アルさんに温泉の件は任せてもいいかい?」

「ああ。任された」


 ワッと歓喜に包まれる室内。

 それぞれ喜びに満ちた表情のまま、その場を退室していく。


「……皆さん、こちらが言わなくても動いてくれるようになりました」

「うん。ペトラが頑張ったからだな」

「違いますよ。アルさんがいてくれたからです。アルさんがローランドのために指導してくれて、アルさんがみんなを育ててくれた。だからこうして、みんな自発的に動いてくれるようになったんです」


 俺がやったことは大したことじゃない。

 本当にコミュニケーションを取って、みんなを褒めて伸ばしただけなのだ。

 だけど結果として、ローランドのみんなは際限なく成長していき、町を発展させ、楽しみながら、そして真剣にそれに当たっている。


「でもさ、ペトラだってそうだけど、みんながいなかったらここまでローランドは発展しなかったんだ。俺だけの力じゃないよ」

「……アルさん」


 ペトラはふと思案顔になり、そして顔を染めながら口を開く。


「あの……お礼じゃないんですけど……あ、お礼って言うか、嬉しいのは私なんですけど」

「ん?」

「良かったら今度お休みの日に、お出かけしませんか? アルさんとは仕事ばかりで、その、一緒にどこかに行ったこともないので……」

「ああ、いいよ。それぐらいいつだって付き合うよ」

「よっしゃー! デートの確約取ったで!」


 ペトラはガッと拳を握り、そしてすぐさまハッとしまた頬を赤くする。


「とと、とにかく、約束ですよ!」

「え? ああ。分かった」


 何を念押ししているんだ?

 別に出かけるだけだろうに。

 俺は怪訝に思いながらも、嬉しそうなペトラの顔を見てあまり深く追求するのはやめておくことにした。


「アル」


 扉を開けて、エミリアが深刻な表情で入って来る。

 が、ペトラの顔を見て、ジーッと何かを疑うような視線を向けた。


「な、何ですか?」

「いや……怪しいと思ってな。アル、ペトラと何かあったのか?」

「え? 特に何もないけど?」

「……そっか」


 ホッとため息をつくペトラ。

 そして小さな声で呟く。


「鈍いアルさんと違って、エミリアさんは鋭いなぁ……」

「はぁっ?」

「い、いえ……なんでもないです。なんでも……」


 二人は意味不明なやりとりをしていたが、エミリアは神妙な面持ちになり、話をし出した。


「レイナークにマーフィン、それにローランドを囲むように、モンスターが現れたみたいだ」

「モンスターが?」

「ああ……ティアとデイジーがそれぞれレイナークとマーフィンでそう報告を受けたらしい。ここから東の方にも、大規模のモンスターが出現したとローズに報告があったみたいだ」


 モンスターがこちらを取り囲んでいる……

 どう考えても、襲い来るつもりだよな。

 それも同時にだ。

 以前ローランドが襲われた時のように、計画的な臭いがする。

 だけど今回、ゴルゴは関係ないはずだ。

 だとすれば……モンスター自身の考えで行動を起こしたということか。


「ユーリが攻め込もうと提案をしていたが、まさか向こうからやってくるとはな……」

「……とにかく、一旦レイナークに向かおう。フレオ様とどうするかを話し合わないと」

「だな」


 俺は空間を開き、レイナーク城の入り口へと繋げる。


「アルさん……大丈夫ですよね?」


 青い顔でペトラは不安そうな声でそう聞いてくる。

 俺は笑顔で、穏やかに答えた。


「ああ。大丈夫。全部終わったら、約束通り出かけよう」

「……どういうことだ?」


 ピクピク顔を引きつらせているエミリア。

 ペトラはあわあわ大慌てで俺たちの背中を押してくる。


「み、みなさんのこと信じてますので、頑張って来てください!」

「お、おい! コラッ!」


 俺はエミリアと共にレイナークへ足を踏み入れ、空間を閉じる。


「……詳しい話は後で聞く」

「? ああ……」


 何をエミリアは怒っているのだろう?

 付き合いは長いけど、ちょくちょくこうやって理不尽に怒ることがあるよな、エミリアって。

 

 俺は少し苛立っているエミリアをなだめながら、フレオ様の下へと向かった。

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