第79話 ユーリは納得がいかない
「フレオ様はなぜ動かないのだ……」
レイナーク城の横にはギルド本部がある。
そしてギルドと真逆に位置する場所に騎士団の詰所が設置されていて、そこでユーリは最近フレオと話し合いをしてきたことの不満をバルバロッサにぶつけていた。
「ユーリ、陛下はお優しいお方だ。確かにローランドの力を借りれば、『魔界』奪還も夢ではなかろう。だが陛下は土地を取り戻すことよりも、兵士たちが死んでしまうことに心を痛めてしまう。人の命と奪われた土地。両天秤にかけた時に、どうしても人の命を選んでしまうのであろう」
石造りの部屋の中で、机を挟んで顔を合わせている二人。
ユーリは納得いかず、机を両手で力強く叩いた。
机の上に置いてあった飲み物がこぼれ、木造の机にしみ込んでいく。
「それでも……それでもここでモンスターたちを叩いておけば、真の平和が訪れるというのに」
「その確証はないじゃないか」
髭をさすりながらバルバロッサは言う。
ユーリはギリッと歯噛みし、両拳を握り締める。
「今が……今が千載一遇のチャンスだというのに……」
「お前たちはまだ若い。全盛期もまだまだこれから。いや、特にこれからの者たちは、さらなる力をつけていくであろう。焦る必要はない。まだ人間は成長を続けている」
神剣たちとの共同訓練のおかげで、レイナークの戦士たちもメキメキその実力をつけていた。
そしてその力はさらに大きくなり、並みのモンスター程度ではもう相手にならない。
だからこそユーリは戦いに打って出たいと考えていた。
もう仲間たちが強くなるのを待つ必要はない。
今でも充分な力が自分たちにはある。
待つというのなら、どれだけ待てばいいのか?
一年か? 十年か? そのいつかはいつ訪れるか分からない。
自分の全盛期は今なのだ。自分の命を燃やせるのは、今しかないのだ。
これからの時代の者たちのためにも、一番辛いことは自分が買って出る。
辛い思いをするのは、自分の代だけでいい。
ただ純粋に人類のためを思うユーリ。
人のことを想い、人のために戦う彼は悪い人間では無く、善人そのものではあったが、真面目に生きてきたユーリは頭が固く、自分の信じたこと以外は受け入れられないタイプの人間だ。
そんな彼には、到底フレオの考えは受け入れらるものではなかった。
苛立ちを胸に秘めるが、国王が動かなければ国は動かない。
そのまま何事もなく数日が過ぎ……ユーリは部下を引き連れてソルバーン荒地へと足を踏み入れていた。
それは偵察程度の任務であり、ユーリがわざわざ出向くほどのことでもなかったが、彼は取り戻すべき大地を観測したいと考え、ここにやって来たのだ。
「……お前たちはどう考える?」
「……自分たちは団長と同じ思いでございます。命を賭すのは、自分たちが……」
「そうか」
馬に跨りながら、ユーリと20人の部下は遠く北の空を見上げる。
するとその空から飛翔する物体が確認できた。
それは緑の体躯に竜の翼を持つ、ワイバーン。
Bクラスモンスターであるワイバーンは、人間がソルバーン荒地に侵入したのを察知し、早々と排除しに、まさしく飛んでやって来たのである。
「ワイバーンか……だが、貴様程度にやられる俺ではない!」
腰の剣を引き抜いたユーリは、馬を全速力で走らせる。
【ナイト】の上位職【マジックナイト】であるユーリは、その剣に炎を宿す。
ワイバーンはユーリに向かって高度を下げながら突撃を仕掛けようとしていた。
ユーリは馬から飛び上がり、ワイバーンの首を一刀両断にしてしまい、その全身は剣の魔力によって焼き払らわれる。
馬に着地し、停止するユーリ。
「さすが隊長。Bクラス程度など、ものともしない」
ワイバーンを倒したことにより、部下たちは歓声を上げる。
だがその喜びも束の間、遠く大地の果てより、大量のモンスターが押し寄せるのが目に映った。
その数、およそ200。
しかしユーリたちは怯えることなく、落ち着いた様子で敵を睨む付ける。
「……憂さ晴らしと行きますか、隊長」
「……そうだな。人間の力を見せつけてやるぞ!」
「「おおっ!」」
ユーリたちは馬で駆け出した。
自分たちの行き場のない感情をさらけ出すように、ドンドン加速させる。
そして衝突するユーリらとモンスターたち。
◇◇◇◇◇◇◇
激戦を制したのはユーリたちであった。
「…………」
返り血で真っ赤になったユーリらは、モンスターの死骸を見下ろしていた。
剣を収め、馬に跨り、踵を返す。
「自分たちは強い。どのようなモンスターが現れようとも負けはしない。なのに……なぜですか、陛下」
いまだ納得がいかないユーリはそう独り言ちる。
モンスターたちとの決戦を求めるユーリは、怒りを滲ませた表情で帰路へ着く。
だが、この戦いはただの衝突で終わらない。
それは四害王たちを動かし、人間と魔族の全面戦争へと発展する、大きな火種となるのであった。
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