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第77話 ロイは進化し続ける

「ボランさんとキャメロンさん、上手くいくといいですね」

「うん。でも、ロイもルカと上手くいけばいいな」

「あはは……頑張ります」


 俺はロイと共に、以前キングコカトリスを倒した山へと彼の修行をしにやって来ていた。

 時間はまだ昼過ぎで、ポカポカ温かい太陽も元気一杯である。

 山なので少し気温は低いので太陽の温かさでちょうどいいぐらいの体感温度となっていた。


 ロイはオークを素手で倒しながら、俺と楽しく会話をしている。

 最近ロイを含めた『落ちこぼれ組』はメキメキと強くなっていた。

 もう他の冒険者たちと遜色ないぐらい……いや、彼らを超えるほどの実力を誇り始めている。

 信じられるかい? 落ちこぼれと言われた彼らが、ローランドで最高クラスの実力者になっているなんて。

 ボランやジオは頭が2つ3つ抜けているので彼らは別としても、他の人たちよりも強くなってしまった。

 愚直に自分の道を進み、自分を研磨し続けた結果だ。

 

 ロイは『落ちこぼれ組』の中で、一番の実力者となっていた。

 最低の能力値と成長率の低さを生まれ持つ彼が、一番強いというのは脅威の一言である。

 どれだけの努力をしたのだろう。どれだけの時間を要したのであろう。どれだけの涙をのみ込んだのであろう。

 可愛らしい顔には似つかわしくない、男らしい傷だらけの拳。

 皮膚が裂け、骨が折れ、何度も傷を作り続けて、いつしか拳ダコができあがっていた。


「…………」


 俺はひたすらに自分を磨き続けてきたロイのことを思い、込み上げるものがあった。


 現在ロイは【プリースト】の上位職である【モンク】に進化していて、徒手空拳のエキスパートとなっている。

 ほとんどの人が【ハイプリースト】や【エンチャンター】になり【プリースト】から引き続き後方支援を選ぶものなのだが、あえてロイは【モンク】の道を選択した。

 ボランのように前線に立ち、人々を守りたいそうだ。

 

 顔つきも最近は凛々しいものとなっており、服装も異世界の『空手道着』をイメージして【錬金術】で作成してあげたものを着ている。

 動きやすく、防御力も申し分ない、今のロイにピッタリのものだ。

 

 オルトロスが二つの頭でロイに噛みつこうと飛び出して来るが、その二つの頭を両手で難なく制し、垂直に蹴り上げ、オルトロスを吹き飛ばしてしまう。


「いやぁ、本当に強くなったな、ロイ」

「ですけど、まだまだです。もっと強くなって、アルさんやエミリアさん、それにボランさんにも追いつきたい」


 すかさず現れるオルトロスの牙を左腕に受けながら、右拳一撃で仕留めるロイ。

 左腕に傷を負ったものの、自身の【回復】で治療してしまう。


 【モンク】として接近戦を得意とし、プリーストのスキルである【回復】と【補助】で自身をサポートしながら戦うスタイルのロイは、一人でモンスターを蹴散らし続ける。

 本当に強くなったなぁ。 

 ジーンとする俺を見てロイはキョトンとしていた。


「どうしたんですか?」

「いや、なんでもないよ」

「……あの、アルさん」

「なんだい?」


 敵を倒しながらロイは続ける。


「なんだか妙に敵の数が多いような気がするんですけど……」

「……そう言われればそうだな」


 次々に襲い来るモンスター。

 ロイはそれらをあっさりと退治していたが、なるほど、確かに数が多いような気がする。

 モンスターの数が多いということは……


「あ……あああ!」


 ロイは急に声を張り上げる。

 獣道を進む俺たちの前に現れたのは、キングコカトリスそっくりなモンスター、クイーンコカトリスであった。


 キングコカトリスと同様に、ダラダラと涎を垂らして、こちらを見据えている。

 こいつも汚らしいなぁ……


「そうか。Bクラスモンスターがいたから場が乱れていたんだな」

「そうみたいですね……」

「まあいい。こいつは俺が相手するよ。ティアはいないけど、どうにでもなるだろう」

「お、お願いします。Bクラスはさすがに僕一人では……」


 俺はロイの前に出て、クイーンコカトリスと対峙する。


「コケー!」


 相手は怒り狂ったかのように、急速にこちらに突進を仕掛けてきた。

 一直線に向かってくるそれを、俺はジャンプして回避しながら、後頭部へと蹴りを放つ。


「ゴ、ゴゲー!」


 勢いよく木に頭を打ったクイーンコカトリスは頭をふらふらさせている。

 なんかキングコカトリスとよく似たことしてるなぁ……


「ア、アルさん! こっちにも見かけないモンスターがいるんで、僕が相手しておきます!」

「え?」


 ロイの方に振り向くと、そこにはどす黒い全身鎧を纏っていて首が無いモンスターの姿があった。

 自身の頭部が入った兜は左手に持ち、右手には血のように赤い剣を持っている。

 禍々しいオーラを放つそれは、デュラハンロード。


「ちょ、ロイ!」

「はああ!」


 デュラハンロードに突撃するロイ。

 俺は大慌てで、できる限りの速度を持ってクイーンコカトリスの首に拳を叩き込み、一撃で沈める。

 そしてティアを呼び出すために念じ始めた。


 ロイは理解していないようだが、今彼が戦おうとしている相手はAクラスモンスターだ。というか、なんでこんなクラスのモンスターがこんなところに……

 とにかく、さすがに強くなったと言っても、まだロイが相手できるようなレベルじゃ――


「【覇光拳】!」


 ゴォオオオオオン!! とロイの強化された拳が相手に炸裂する。

 鎧の腹部が陥没し、数メートル後ずさりした。


「…………」


 追撃を仕掛けようとするロイに、デュラハンロードは赤い剣で迎え撃つ。

 だがその剣を左手で軽くいなしてロイはもう一撃、剛拳を叩き込む。


「【覇光拳】!」


 光を纏った拳は、デュラハンロードの腹にポッカリと風穴を開けた。

 相手はそのまま起き上がることなく、息絶えたようだ。

 ふーっと大きく息を吐き、ロイはこちらに笑みを向ける。


「あまり強くないモンスターで助かりました」

「…………」


 Aクラスモンスターをあっさりと倒してしまったロイに、俺は驚愕を隠せなかった。

 いつの間にこんな……


「アルさん?」


 自分がやったことをまだ分かっていないロイは、無垢な顔で不思議そうに俺の名前を呼んでいた。

【皆様へのお願い】


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

大感謝です!


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