第76話 ボランとキャメロン
この度、神剣使いの書籍化が決定しました!
これもいつも読んでくれている皆様のおかげでございます。
つきましては、書籍化の決定に合わせて、タイトルと作者名を変更させていただきました。
よければこれからもお付き合いの程、宜しくお願いいたします。
それは、ボランが10歳の頃の話。
「ほら、ボランだよ……あの子は父親にそっくりで、人相が悪いわよねぇ」
「うちの子供にも怒鳴るし……困った子だよ」
「…………」
ボランは自分の父親に似て、いつも怒ったような表情をしていた。
周りに何と言われようと気にもしなかったが、それを言われる俺に対して、母親が寂しそうな顔をするのが辛かった。
「ボラン、いい? 人には優しくしないといけないよ」
子供の頃のボランにそう言う母親。
殴られた顔は腫れ上がり、服はボロボロ。
だが、芯の強さと優しさを兼ね備えた瞳は、彼の心に深く刻み込まれている。
「あなたはお父さんに似て、言葉遣いも悪いし、人相も悪い。だけどね、人に優しくしていたら、きっと幸せになれるから……」
ボランの赤い髪を優しく撫でる手。
冷たいはずの手が温かく感じ、ボランは照れか、視線を母親から逸らす。
だが、耳はしっかりと彼女へと傾けていた。
「ボランは、お父さんのようにはならないでね……」
そんな風にボランに言い聞かせていた母親は、数日後、父親の暴力が原因で息を引き取ることとなった。
それからボランは母親の言葉を何度も何度も呪文のように唱え、自身の信条とすることとなる。
「人に優しくしていたら、きっと幸せになれる……人に優しくしていたら、きっと幸せになれる……」
◇◇◇◇◇◇◇
「――ボラン。ボラン!」
「……ああっ!?」
少し肌寒い朝、ギルド前にて。
隣に立つボランに声をかけていたが、彼は何か想い馳せていたのか、心ここにあらず。といった様子だった。
何度も声をかけたことにより、ようやく反応を示したボランは、相も変わらず声を荒げに荒げる。
「どうした!!」
「いや、どうもしないけどさ、最近警備の方はどうだい?」
「順調そのものに決まってんだろうが! ネズミ一匹ぐらいは通すかも知れねえが、モンスターは一匹も通さねえよ!」
「そう。なら安心だ」
ゴルゴとの件から7か月が経ち、町の発展の勢いは増すばかりであった。
移り住む人は多くなり、商店の数も数えきれないほどに増え、笑顔が咲き乱れる素晴らしい町へと変貌したローランド。
人が増えた分トラブルなんかもあったりするが、ボランたちが駆けつけ問題をいち早く解決してくれる。
そのおかげでみんな安心して暮らせているし、みんなもボランに感謝していた。
「あ、キャメロンだ」
「ななな、なにぃ!?」
キャメロンは孤児の面倒を無償で見てあげている、優しい女性。
銀髪で美しく、ボランの惚れ込んでいる人だ。
「キャメロン、美人だな」
「それに子供たちの面倒を見て、本当にいい人だ」
その美しさには自然と視線が集まり、その母性溢れる優しさには惹かれる人が続出だとかなんとか。
通りかかる人もキャメロンを見ながら頬を染めていた。
以前と違い最近は服装も綺麗な物を着ているためか、その傾向が増えたように思える。
ボランはそんなキャメロンを見て、熱く熱した鉄のように真っ赤になっていた。
「あら、ボラン。いつもお金ありがとう。おかげでみんな毎日温かいご飯を食べられているの。あの子たちみんなあなたに感謝してたから、会いに来てちょうだいね」
「おおお、おう! いついついつでも会いにいってやろうじゃねえか! ああっ!?」
真っ赤になるボランに、くすりと優しく微笑むキャメロン。
この人はボランの気持ちに気づいているのか気づいていないのか……
「ちょっと寒いけれど、いい天気ね」
「ああっ!? いい、いい天気だな!」
「今夜は温かいスープでも作ろうかしら」
「あたたたたかいスープかよ! 悪くねえんじゃねえのか!?」
笑顔のキャメロンがボランに話しかけ、ボランは怒声でその全てに返答する。
傍から見たら、とてつもなく怒っているようにも見えるのだが……ボランのことを知っているキャメロンは、笑顔のまま彼と話をしていた。
そうしていると、話のネタが尽きたのか、黙り込んでしまうキャメロン。
「…………」
「…………」
二人はいつしか、無言で見つめあっていた。
ボランは大量の汗をかきながら、口を開けようとする。
おお! 何を言うつもりなんだ!?
これまで何か月も観察してきたが、キャメロンとまともな会話をしたところは見たことがない。
それなのに、とうとうボランが行動に出た!
俺は妙に興奮しながら、ボランの言うことに耳を傾けた。
「あ、あのよ――」
「ボラン! 見回り、終わったぜ!」
タイミング悪く、自警団の皆が見回りを終えてボランに報告しに帰って来た。
ああ……せっかくボランが何か言おうとしていたのに。
何を言おうとしたのかは分からないが、仲間たちに視線を移し、痙攣しているのかと思うほど顔を引きつらせるボラン。
俺は肩を落としてガッカリする。
その場にキャメロンがいたことに気づいたのは、自警団のナンバー2であるエイドルフであった。
彼は片手で目を覆い、「あちゃー」と声を漏らしている。
「す、すまねえ……もう一回見回り行ってくるわ」
「そそそ、それなら俺も行ってやろうじゃねえか! ああっ!?」
「い、いや、お前は来んじゃねえよ……」
ボランに気を使うエイドルフは呆れてしっしと手を振るう。
だがボランは手足を一緒に出しながら硬い動きで歩いて行ってしまう。
「……ボラン、またね」
「オ……オウッ!!」
去って行くボランに手を振るキャメロン。
キャメロンはボランの背中を眩しそうに、そして少し寂しそうに見つめていた。
「……じゃあ私は子供たちが待っているから行くわ。じゃあね、アル」
「ああ……」
自宅へと帰って行くキャメロン。
そしてまた見回りに行ってしまったボラン。
俺は二人のことを思い、ため息を一つつく。
なんというか、二人には幸せになってほしいものだな。
多分だけど、二人は両想いなのだと思う。
ボランがキャメロンのことを好きだというのは当然の如く周知の事実ではあるが、キャメロンもボランのことを少なからず好意を抱いていると感じる。
俺は腕を組み、どうにかならないものかと深く思案した。
ボランは良い奴だし、幸せになってほしい。そのために俺ができることはあるだろうか?
活気あふれる町中で、俺はうんうん一人で唸っていた。
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