第75話 四害王は議論する
「なあクリフレッド。ブラットニーが負けたみたいだけど、どうするつもりだ?」
剛剣のライオレッタ――
女性にしては高い身長に長く美しい赤髪。
身体は鍛え上げられていて、戦士らしく引き締まっている。
だが、彼女は魔族で見た目は人間と遜色ないが、二本の小さな角が生えており、その瞳は龍のようで怪しく金色に輝く。
クリフレッドたち四害王は現在、ヴァンダイン城に集結していた。
飾りっ気はなく、清潔感溢れる魔族の本拠地らしからぬ謁見の間で玉座に着くクリフレッド。
他の四害王3人は、胸中にそれぞれの感情を抱きながら彼の前で位置している。
ライオレッタは腕を組んで、少し怒気を含んだ声でクリフレッドに声をかけていた。
「どうする……と言ってもね。ライオレッタはどうしたいんだ?」
「オレか? オレはさっさと当初の予定通り、人間どもを支配すりゃいいと思ってるぜ。お前が重い腰を上げないから、こうやってブラットニーでも対処できない敵が現れた。これ以上強敵が誕生する前に叩いた方が賢明だろ?」
「うん……確かにそうだな」
どっちつかずのクリフレッドの態度に、苛立ちを隠せないライオレッタ。
彼女は舌打ちをし、煮えたぎらない彼に怒声を浴びさせようとした。
しかし、鮮血のツヴァイクが口を挟む。
「クリフレッド……人間たちを滅ぼすというのは魔族の総意である。何を迷う必要がある? ライオレッタの言う通り、さっさと人間どもを支配すればいいのである」
鮮血のツヴァイク。
血のように赤い髪と瞳。
肌は血の気を失ったように真っ青で、筋骨隆々の肉体。
上半身は裸で、下半身は膝上までしか生地の無いズボン。
全身には切り傷が多数あり、何度も死地をくぐり抜けて来た練者の雰囲気がある。
そんな彼は野太い声で話を続けた。
「人間どもを支配するである。何年も前にそれで話はついたはずである。なのになぜお前は動かないのである?」
「……それはお前たち三人で決めたことだろ? 俺は支配することに賛同はしていない」
「でもクリフレッド……俺、お前に天下を取らせた、い」
「ブラットニー……俺はそんなものを求めていない。世界の均衡がとれていればそれでいいんだよ」
ライオレッタは「だから!」と怒鳴り、
「人間どもを支配すりゃ、それなりに均衡が取れるんだろうが! お前は今の状態がいいと思ってんのかよ!?
「……人間たちを力尽くで支配すればバランスが取れると考えているのか?」
「当然だ!」
「クリフレッド。我々魔族と人間は相容れない存在。力で相手を支配するか、根絶やしにしなければ魔族側に未来はないのである」
静かにクリフレッドを見下ろすツヴァイク。
だがクリフレッドはそれに同意せず、ため息をつく。
「魔族がいて、人間がいて……それが自然なんだ。俺たち魔族にだって男がいて女がいる。それぐらい当然のことなんだ。人間たちを支配してバランスが崩れればこれから先何かよくないことが起きるのは明白だ。人間たちの逆襲か、または天罰か……多分、今の自然なままの状態が一番いいんだよ」
「自然だと考えているのはお前だけだ。同胞たちは人間を殺すことが自然だと思っているぜ」
人間と魔族、モンスターが殺し合うのは至極当然のこと。
しかし、このクリフレッドはそれを自然だとは考えていなかった。
共存することは不可能だとしても、現在のようにソルバーン荒地を境目に、互いに侵略せず現状を維持し続けている。
向こうもこちらを殲滅できないと考えているのだろう、無駄に攻め入るようなこともせず、こちらも無駄に攻め入るようなことはしない。
ブラットニーがゴルゴとかいう人間と取引し、勝手にレイナークに攻め込んだという話は何度か聞いたが……
これも天の意思か、失敗に終わっている。
だから攻めることは間違っているのだ。
支配する必要などない。
今のままでいいのだ。
世界を現象だけで判断せず、見えない力が及んでいるのを感じているクリフレッドはそう考えていた。
しかし、ライオレッタたちは納得などしない。
「なあクリフレッド。オレたちは魔族だ。魔族は人間を殺し、人間は魔族を殺す。それこそが自然であり世界の均衡が取れているってもんだろ。どちらかが滅ぶまで戦う方が自然なんだよ」
「俺もそう思、う」
「…………」
血で血を洗うような戦いを繰り返してきたライオレッタたちに、クリフレッドの思想など理解できるわけも納得できるわけもない。
魔族は人間を滅ぼして当然。
それが魔族たちの総意であることも、自分だけが違う考えを持っていることも理解はしている。
だけど……自分の心がそれをよしとしない。
それは間違っている。と、嘆き叫んでいるのだ。
クリフレッドはまた、話し合いを曖昧に終わらせようとする。
「……考えておくよ」
「おい、クリフレッド!」
立ち上がり、玉座を去るクリフレッド。
どうすれば分かってもらえるのだろうか……
戦いで解決させることが全てではないのに。
悩むクリフレッドは、静かに謁見の間を後にした。
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