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第73話 アルは今回もみんなに料理を振る舞う①

「アルベルト様ぁ~!」


 ゴルゴの件が片付き、夜の自室での出来事。

 俺と一瞬だけの二人きりの時間を狙ってローズが抱きついてくる。


「毎日毎日アルベルト様のために私頑張ってるんですよぉ! もうアルベルト様のことだけを考えて頑張ってるんですから、褒めて褒めて褒めて褒めてくださ~い!」


 ローズは二人の時だけ俺に甘えてくる。

 子供みたいな表情に子供みたいな態度。

 普段の厳しい彼女からは想像できない、甘えっ子モード全開だ。

 他の誰かがいる時は、間違ってもこんな態度はしないのだけれど……


 まぁ困るようなことじゃないし、こんな彼女も可愛いと思うし、俺はローズを肯定するように、優しく頭をなでてやる。


「ローズは偉いなぁ。いつも頑張ってくれてるし、今回だってフレオ様を連れて来てくれた。いつも助かってるよ、ありがとう」

「アルベルト様アルベルト様アルベルト様ぁ! 大好きです! うふふふふっもっともっと頭撫でてくださ~い!」


 尻尾をギュンギュン動かしながらローズはこれでもかと甘えていた。


 しかし。


「アル。みんな集まってるぞ」

「ああ。じゃあ下りようか」


 エミリアが遠慮などする様子もなく、俺の部屋に入って来る。

 ローズは残像でも残すような勢いで俺から離れ、姿勢よく横に立つ。


「……ローズ、お前アルと何かやってたのか?」

「いえ、何も……どうしてだ?」

「……勘、だよ」


 平然としているローズを見て、エミリアは何かを感じ取ったらしく、怪訝そうに彼女に視線を向ける。

 だがローズは動じることなく、しゃんとその場に位置するだけであった。


「……まぁいいや。とにかく行こう」

「ああ……あ、そう言えばあの話聞いたか?」

「何をさ?」

「ゴルゴの奴、半身不随になったらしいぞ」


 その上、あそこ(・・・)も完全に破壊されていたらしい……

 俺はエミリアの脚力を思い出し、背中に寒気を感じていた。


「あっそ」


 彼女は当然だとでも言わんばかりに、それを聞いて鼻で笑っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ギルド横の酒場。

 もう店じまいしており、誰もいなくなった一階フロア。

 ペトラにジオらアルベルトファミリー、ボランとザイとノーマンがそこにはいた。

 ついで……というか、彼のことはついで何て言ってはいけないけれど、なぜかフレオ様もそこにいる。


「フレオ様……どうしてここに?」

「いや。君がみんなに変わった食事を振る舞うと聞いてね。僕も食べたくなったんだよ」

 

 少年のような笑みをこちらに向けるフレオ様。

 まぁ、断る理由もないし、それにいつもこの人には何かと力を借りている。

 だから恩返しでもないけれど、礼のつもりで食事を振る舞うことにした。


 俺の後ろに立っている神剣たちとエミリア。

 彼女たちにも席に着くように促す。


 もう下準備は済ませていたので、厨房でサッと調理をし、みんなに料理が乗った皿を渡した。


「アルの飯は美味いからな! だけど……今回のも何だこれは! ああっ!? 見たこともねえぞ!」

「変わった物とは聞いていたが……これは本当に、何なんだい?」


 ボランもフレオ様もそれを見て仰天しながら俺にそう聞いてくる。


「それは、焼き餃子ですよ」

「焼き餃子?」


 肉や野菜を皮で包み、黄金色に焼き目を付けた焼き餃子。

 異世界の日本で、もっともポピュラーな料理の一つのようだ。


 ティアは焼き餃子を凝視しながら、耳をピクピク動かしている。

 俺は粒の立った真っ白なご飯をティアの前に置く。


「ご飯が食べたい人は言ってくれ。これはご飯とよく合う食べ物らしいんだ」


 その場にいたみんなが、無遠慮に手を挙げる。

 俺は苦笑いし、みんなの分のご飯をよそって出した。


 そしてみな、一度ゴクリと息を飲み、パクッと餃子を口に含む。

 もぐもぐと口を動かし、味をよく味わって――


「うめえ! これメチャクチャうめえじゃねえか、コラッ!」

「アニキ! 本当に美味いっす! こんな美味いもん食うの、この間のもつ鍋以来っすよ!」


 ボランたちは感激の面持ちで餃子とご飯を次々に口へ運んでいく。


「ジュワッと溢れる肉汁。うま味たっぷりの新鮮キャベツにニラ。それを包み込む優しい皮……全部が完璧にマッチしており、酢醤油にこれをくぐらせた時の圧倒的美味さ……これはあまりに美味しすぎて、四害王さえも屈服してしまう、脅威の料理……まさに、SSクラス料理だにゃ!」


 その場にいる誰よりも素早い速度で餃子を食べるティア。

 

「美味いにゃ! 美味いにゃ! 美味過ぎるにゃ~!!」


 口の周りの汚れなど気にすることなく、ティアは餃子をバクバク食べる。


 清楚で優しいティアのもう一つの顔。

 普段の彼女からは信じられないような激しい動作。

 そして猫のような言葉使い。

 それを始めて見たデイジーはプルプル震えながら見つめている。


「ティアお姉ちゃん……?」

「あはは。私たちもあれはビックリしたよね~」

「……確かにな」


 俺としてはこんなに我を忘れて食べるティアを見れて嬉しいけれど。


「水餃子というものもあるから、欲しい人は遠慮なく言ってくれ」


 すると全員がさも当然のように手を挙げる。

 俺はまた苦笑しながら、みんなに水餃子を作ってあげることにした。


 いや、こんなに喜んでくれるのなら、嬉しい限りだけどね。

 俺は心を躍らせながら、みんなに料理を提供し続けた。

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[一言] >「ゴルゴの奴、半身不随になったらしいぞ」 >その上、あそこも完全に破壊されていたらしい…… >俺はエミリアの脚力を思い出し、背中に寒気を感じていた。 アル、くれぐれも脳筋さんを怒らせん…
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