第72話 ゴルゴは制裁を受ける②
「う……ううう」
ジオたちに何度も殴りつけられ、ゴルゴは地面に這いつくばっている。
何倍も腫れ上がった瞼。
鼻の骨は折れ、歯も何本も折れて血を吐き出している。
豪華な服も汚くなり、元のゴルゴからは想像できないほどズタボロになっていた。
そんな状態でもゴルゴは俺へと怒りの視線を向けてくる。
「アルベルト……これで勝ったと思うなよ」
「これで負けてないとでも思っているのかい? 勝ち負けなんて興味はないけれど、誰がどうみても俺の勝ちだと思うけど」
「どう考えてもアルの勝ちだろ。負け惜しみなんて見苦しいんだよ」
エミリアは腕を組んで、汚物でも見るかのような目つきでゴルゴを見下ろす。
「でよ! こいつどうすんだよ! ああっ!?」
「どうするかなぁ」
ゴルゴへ暴力を振るうことなくジオたちを見届けていたボランは、唐突にそう言い出した。
もうやるべきことは決まっているのだが、考えるフリをする。
するとゴルゴはさらに目つきを鋭利なものにしながら、言う。
「殺せ……さっさと殺せよ! それでお前は満足なんだろうが!」
「お前を殺したところで、満足するわけないだろ。人が死んで根本が解決する問題なんてないんだから」
「てめえの話なんてどうでもいいんだよ! さっさと殺――」
「――うるせえんだよ、このカスが!」
ドカッとジオの蹴りがゴルゴの顔面を遠慮なく捉える。
鼻からさらに、ドバドバと血が流れ出す。
「アニキの話がどうでもいい? どうでもいいのはてめえの戯れ言だ!」
風とジオの叫び声だけが草原を駆け抜ける。
少々寒さを感じるが、デイジーが俺の背中に引っ付いている温かさから相殺されていた。
ゴルゴはペッと血の混じった唾を吐き出しギリギリと歯ぎしりをする。
「だったら……どうするんだよ?」
「…………」
俺が【通信】でローズに声をかけると、彼女はレイナークとこの場所との空間を繋げて、二人の人物を連れてやって来る。
「な……なんで……」
ゴルゴはやって来た人物を見上げ、情けなさを含んだ驚愕の表情を浮かべる。
ここへやって来たのは……フレオ様だった。
エミリアとティアは膝をつき、フレオ様に頭を下げる。
ボランやジオたちは国王が来たからと言って、別段態度は変えない様子。
「二人とも、頭を上げてくれ」
フレオ様の言葉に、立ち上がるエミリアとティア。
ゴルゴはハッとしフレオ様に対して膝まづく。
「ゴルゴ・ルノマンド……お前がアルの暗殺を企てたという話は本当なのか?」
「あ、暗殺? そんな真実あるわけがありません!」
「ほう。ではこの男が話しているのは嘘、ということか?」
ローズの後ろにいる男性……ノーマンが、ゴクリと唾を飲み込みながらもゴルゴを睨み付ける。
「ノ――そいつは、虚言癖がある男です! 俺はずいぶんと世話をしてきてやって……そいつの言葉に何度迷惑をかけられたことか!」
ゴルゴはダラダラと汗をかきながら、興奮した声でそうまくし立てる。
フレオ様はふむと短く首を振り、話題を変えた。
「では、レイナークとローランドを襲撃させた首謀者だとも聞いているが……それはどうなのだ?」
「魔族が言っていたことを信じるのですか!? そんなもの、根も葉もない、俺を貶めるためだけの嘘に決まっている!」
「アル。他に証言者はいないのか?」
「いますよ」
「はっ……?」
ゴルゴは俺の顔を見て、バカ面をキョトンとさせる。
するとカトレアが空間の穴を開き、一人の男性と共に草原へと足を踏み入れた。
その男を見て、ゴルゴの顔色が変わる。
「な……なんでてめえが……」
「ぬひっ……ぬひひひひっ」
驚愕するゴルゴ。
そのゴルゴをいやらしい顔つきで見下ろす男は――シモン。
「言ってました! 間違いなく言ってましたよ! ローランドを雇った殺し屋たちに襲わせたって! これでアルベルトもローランドも終わりだって高笑いしてました! レイナークのことは聞いておりませんが、同じタイミングで再度ローランドを殺し屋たちが襲ったということは、こやつが犯人で間違いないでしょう!」
ゴルゴは口が軽いから、あったことをシモンに自慢話として聞かせていたようで、それをこの場で暴露されているというわけだ。
口は災いの元、だな。
「シ……シモン! てめえ!」
「ひっ!」
ゴルゴの怒声に一瞬怯えるシモン。
しかしまたとてつもない下品な笑みを浮かべ、唾を飛ばしながらゴルゴに言う。
「バーカバーカ! 俺にはアルさんがついてるから、お前なんて怖くないよーだ! 今まで散々俺をこけにしやがって! なはははは! どう? どんな気分? 自分より格下のぉ、子分みたいな男に裏切られるというのはどんな気分!? あひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「シ……モン!!!!!」
血管が本当にキレたのではないかと言うぐらい青筋を立てるゴルゴ。
シモンは怯えながら、俺の後ろに回る。
デイジーが近づいてきたシモンにちょっぴり怯えていた。
「レイナークとローランドを襲撃させ、マーフィンでも色々と悪事を働いているという話は聞いている。だけど僕が個人的に一番許せないのは……僕の友人を貶めてきたこと。そして暗殺しようとしたことだ」
「ゆ……友人?」
ゴルゴは青い顔で、俺を見る。
俺はニッコリと笑い、穏やかに言う。
「俺は国王陛下と友好関係を結んでいるのさ」
「…………」
顔を引きつらせ固まっているゴルゴ。
ローズが開いたレイナークへと空間の穴から、ドドドッと兵士たちが雪崩れ込んで来る。
兵士たちに捕らえれられるゴルゴ。
「離せ……離せ! 俺は……俺は!」
「ゴルゴ・ルノマンド。お前を拘束し、公平な判断の下、処罰を与える」
「はっ! 一生臭い飯でも食ってろ」
エミリアが鼻で笑いながら、いつもより攻撃的にゴルゴにそう言う。
彼女とは子供のころからずっと一緒だった。
だからこいつに店を奪われたことも追い出されたことも当然のように知っている。
なので自分のことのように怒り怒鳴ってくれているのだ。
お前は本当にいい幼馴染だよ。
「アルベルト……利害を一致させよう。俺がいたら、お前の町はもっとデカくなる! なっ! 俺を助けろ! そうしたら俺が――」
「お前は自分の利害しか考えていない男だ。利害を一致させると言うのは、お互いに利益が出るよう、歩み寄ることだ。自分さえよければいいなんて考えの奴と一致することなんで永遠に訪れない。諦めろ」
ゴルゴは口から血泡を吹き出し、とうとう頭の血管からも血が噴き出していた。
「俺が……俺が! ガイゼル商店を大きくしたんだ! てめえの父親はそこそこの店にしかできなかった! 分かるか!? 店を大きくしたのは俺の力だ! マーフィンの頂点に立ったのは俺だ! そして……人間の頂点にだって立つはずだったんだ!」
息を荒くし、目を血ばらせながらゴルゴは怒り喚く。
「こんな終わり方……認められるものか!」
「ゴルゴ」
「なんだ!」
「悪く思うなよ。お前より俺の方が一枚上手だった。それだけのことだ」
以前、ゴルゴから言われたセリフをそっくりそのまま返してやった。
そのセリフを聞いた瞬間、ゴルゴは発狂する勢いで大暴れする。
「アルベルト! アルベルトォ! アルベルトぉおおおおおおおおおお!!」
ゴルゴは俺の名前を叫び、兵士たちの手から逃れて俺に襲いかかろうとする。
煮えたぎる感情を露わにし、血走った目つきで拳を振り上げ――
「往生際が悪いんだよ、このド外道がぁ!」
エミリアの前蹴りを喰らう。
彼女の常人離れした筋力。
その全力の前蹴りを下腹部に喰らい、一瞬で白目を剥き出しにするゴルゴ。
そのまま空間の歪みを通りぬけ、レイナークまで体をくの字にして吹き飛んでいく。
兵士たちはゴルゴを追いかけて穴をくぐり、それを確認したローズはさっさと空間を閉じる。
やれやれと、俺とフレオ様は嘆息する。
「フレオ様。わざわざ足を運んでもらって申し訳ありませんでした」
「いや。悪人を裁くのは当然のことだ。それに、友人の頼みは断れないだろ?」
「ははは。じゃあ俺も友人の頼みは断れませんね」
「これからも期待しているよ、アル」
少し意地悪な笑みを浮かべながらフレオ様は愉快にそう言う。
かくして、俺とゴルゴとの因縁は騒々しくも静かに幕を閉じたのであった。
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