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第71話 ゴルゴは制裁を受ける①

 月明かりだけを頼りに、ソルバーン荒地へと走る馬車が一つ。

 何も無い草原にはそれが疾走する音だけが鳴り響く。


 馬車の中でゴルゴはほくそ笑んでいた。


 アルベルト……全部上手くやったつもりだろうが、それはお前の思い違いってもんだ。

 俺は魔族の力を借りて、もう一度ナンバー1に返り咲く!

 まだ負けたわけじゃねえ……最後に俺が勝つ。

 だからこれは、俺の勝利へと通過点にすぎねえんだ。


 四害王の一人に勝っていい気になってるんじゃない。

 まだ3人も残ってるんだ。

 お前は遅かれ早かれ、死ぬ運命にあるんだよ。


 笑いが止まらないゴルゴ。

 ゴルゴは自分を信じていた。

 最後の最後にはアルを屈服させることができると。

 勝つのは自分だと。

 頂点に立つのは自分だと。


 ――この瞬間までは。


「!?」


 突如馬車はその勢いを止め、とうとう停止してしまう。


「……誰だ?」


 馬車を遮るように、数人の男がニヤリと笑いながら立ちはだかっている。


「俺らのモットーは一日一善……だけど今日だけはちょっと前の俺らに戻るぜ」


 それは、ジオたちだった。


 ジオは片頬をくいっと上げ、悪人そのものだった頃の表情に戻る。


「俺たちは……泣く子も黙る、アルベルトファミリーだ!」

「ア……アルベルトぉ!?」



 ◇◇◇◇◇◇◇



「アル、ゴルゴの奴が来たみたいだぞ」

「ああ。そうみたいだな」


 俺はエミリアとティアと共に、ゴルゴがやって来るのを夜の草原の中待ち構えていた。

 現在ジオたちが馬車を止め、ゴルゴと対峙している。


 馬車を操作する御者とゴルゴを護衛する冒険者が二人。

 彼らは慌て戸惑い、ジオたちに視線を向けている。


「お前ら、痛い目に逢いたくなかったらとっとと消えな。そいつかばって俺らとやりあうってのなら別に構わねえけど、おススメはしねえぞ」

「ひっ……」


 脱兎の如く。

 三人の男はレイナークの方角へと走って逃げて行く。

 ゴルゴはギロッとジオたちを睨むだけで微動だにしていない。


「ゴルゴ」

「アル……ベルトォ!」


 しかし、俺を見た瞬間、憤怒の表情になり、馬車を飛び出し俺に襲い掛かろうとしてきた。


「おいおい。アニキの前に、俺らが相手してやるよ」


 だがジオたちに取り押さえられてしまうゴルゴ。

 風に揺れる雑草に顔を埋めながらゴルゴは、俺を睨み付ける。


「てめえ! なんでこんなところにいるんだよ!」

「お前はなんでこんなところにいるんだ?」

「…………」


 肌寒い風が吹きつける中、俺はゴルゴを見下ろす。

 ゴルゴはとにかく俺が憎いらしく、鬼の形相でこちらを睨み付ける。

 俺は淡々と、冷静に話を続ける。


「言えない、か。俺はお前がここにいるからここにいる。これから何をしようと考えているのかもお見通しだ」

「……アルベルト……アルベルト!!」


 ゴルゴは大暴れし、なんとかジオたちの手から逃れようとしていた。

 しかし、そこは鍛え上げられている戦士たちだ。

 少々鍛えている程度の商人の力ではビクともしない。


「サシだ! サシで勝負しろ!」

「なんで俺がお前程度とサシで勝負しなきやいけないんだよ」

「くっ……そもそも! てめえはなんで俺のところに来やがった! 俺は何もしてない! 何もしてねえんだ!」

「何も、ね」


 俺は目を細めてゴルゴを見る。

 ゴルゴは勝気な瞳で俺を睨む。


「俺が何かやったというのなら、証拠を出せ、証拠を! もしかして、証拠も無しに、感情的に俺をやりに来たってのか!?」

「まさか。感情だけの話をするなら、お前なんてどうでもいいと思っているよ」

「だ、だからそれなら証拠があるのかって聞いてんだよ!」

「証拠ならございます。まずは、魔族である滅殺のブラットニーと共謀し、レイナークとローランドを強襲した件」


 ティアは眼鏡を指で上げながら冷酷に口を開き出した。


「う……証拠があるってのかよ?」


 ゴルゴは怒っているものの混乱する様子はない。

 こう見えてまだまだ冷静でいるようだ。

 

「これに関してはブラットニーから証言を取りましたので」


 ギクリとゴルゴの目が点になる。

 そして汗をダラダラとかきながらも笑う。


 ブラットニーにレイナークとローランドを同時に襲った時の経緯を聞いた。

 相手は唖然としながらも、生きて帰る道を選び、洗いざらい話をした。

 ゴルゴと共謀したという裏を取ることができたのだ。

 だからこうして、俺たちはゴルゴを捕えにやってきた。


「魔族の言うことを信じるってのか? ええっ!?」

「お前よりかは信用できそうなものだけどな」

「だけどよ……そんなもん、なんの証拠にもなりゃしねえ! 魔族が喋った? だから何だってんだ!?」

「……アニキ、こいつぶっ殺してもいいっすか?」

「ぶっ殺すのはあれだけど……お前らの恨みを晴らすのはいいぞ」

「ちょっと待て! 何の権利があって俺に暴力振るおうってんだ!?」

「町を燃やし、数人の町の人を殺した。それだけで権利は十分だろ」

「だから! それなら証拠を出せって言ってるだろ!」

「証拠……か」


 言い訳がましいゴルゴを見ながら、デイジーに【通信(テレパシー)】でコンタクトを取り、マーフィンと現在地の空間を繋ぐ。

 

「……くっ」


 ボランがゴルゴの仲間を引きずりながら草原へと足を踏み入れる。


「証拠はこれだけでも十分だろ。ローランドを燃やした連中の仲間……お前の仲間だ」

「そ、そんなもんが証――」


 ゴルゴがまた何かを言おうとすると、ジオが奴の顔面に蹴りを放ち、強引に黙らせる。


「証拠もクソもねえんだよ……てめえがやったことは間違いない。それだけで俺らには十分だ!」


 今にも怒り狂いそうな瞳でゴルゴを睨み付けるアルベルトファミリーの面々。

 そしてエミリアの「やれ」という短い合図でゴルゴへと制裁が開始された。

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ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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