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第69話 アルはブラットニーと激突する③

「くっ……」


 腹を抑え、こちらに鋭い視線を向けるブラットニー。

 これまでの怠惰な瞳ではなく、少々殺意の籠った目つき。


 俺は一撃を入れれたことに高揚し、パープルデイジーを構えながら奴に言葉をかける。


「そろそろ、やめた方がいいと思うけど?」

「……まだ、負けてな、い」


 ブラットニーは腹から手を離し、臨戦態勢を取る。


「ア、アニキ……やっぱすげーぜ! あんな奴相手に余裕っすね!」

「四害王の一人と対等以上にわたり合うなんて、さすが俺たちの親分だぜ!」

「ああ! 無敵だよ、あの人は!」


 ジオたちの言葉に少し鼻が高くなる思いではあるが、気を付けよう。

 天狗になるのだけは大問題。

 

 そして、ブラットニーは舐めてかかっていいような相手ではない。


 しかし。

 しかしである。


「ふー……」


 一度大きく息を吐き、デイジーに人間の姿に戻ってもらい、ブルーティアを再び手に握る。


「お前を舐めていたわけではないけれど、そろそろ本気を出させてもらう」

「……本、き?」

「ほ、本気ってどういう意味だよ……?」


 警戒するブラットニー。

 ジオたちはモンスターたちと戦いながらもこちらの方が気になって仕方ない様子。


「このままでも勝てるとは思うけれど……奥の手を使わせてもらうよ」

「奥の、て……」

「ああ」


 俺はニヤリと笑い、【呼び出し(コール)】でローズとカトレアに目の前に来てもらう。


「俺は【神剣使い】。そして神剣は4本ある」

「そう。我々は本来、一本ずつ使用するために存在しているのではない」

「4人全員がアル様に使われるために存在しているの」

「そ、それも、みんな同時にだよ」


 3人の身体がカッと輝き――


 刀身のみの神剣へと変化する。


 黒い刀身はローズ。

 白い刀身はカトレア。

 紫の刀身はデイジー。


 それぞれが宝石のように美しい煌めきを放つ。

 長さは統一されていて、ブルーティアの刀身と同じサイズ。

 あまりの美しさにか、ブラットニーはそれを見てごくりと息を飲む。


同時解放(フルイグニッション)モード、起動』


 ティアの言葉と共に、ローズたちはブルーティアに集まり、周囲をふわふわ浮かび始める。

 まるで、惑星の周りを公転する衛星のように。


「ティアとローズは攻撃を100。デイジーは魔攻力100。カトレアは防御100で頼む」

『かしこまりました』


 ブルーティアの剣先をブラットニーに向けると、全ての神剣が同じ方向を向く。


「悪いけど、ここからは一方的にやらせてもらう」

「舐める、な」

「舐めていないさ。だからこれを使ったんだ」

「!!」


 ブラックローズが光を放ち、真空の閃光を放出する。

 咄嗟に左手の影で防ぐブラットニー。


「くっ……」

『愛のフルサポート、いきま~す☆』


 ありとあらゆる【補助】を俺に使用するカトレア。

 体に圧倒的な力が注入されていくような感覚。

 

 俺が不敵に笑みをこぼすと、ブラットニーがキッと俺を睨む。

 すると俺の足元の影が狼に変わり、俺を飲み込もうとする。


 が、


「バ……バカ、な」

『んなもん、私らに利くわけねえだろっ!』


 ブラットニーは驚愕する。

 カトレアの障壁によってその牙は粉々に砕け散る。


「……アニキ……アニキやっぱメチャクチャだぜ! さすが俺たちの大将だ!」

「Aクラスの巨大モンスターを飲み込んだ影にビクともしてねえ……」

「どれだけスゲーんだよ! 親分は!」


 たじろぐブラットニー。

 大量の汗を流しながら、こちらを見据えている。


「行くぞ」


 俺が駆け出すと同時にローズが閃光を放ち、デイジーは炎、氷、土、風、全ての属性の魔術を放出する。


「う……うう、う」


 圧倒的な威力の閃光と魔術が止めどなく連続で放たれる。

 相手は防戦一方で、影で必死にそれらに対処していた。


 やがてこちらの手数が防御を上回り、直撃を受けていくブラットニー。


 俺はこれを勝機と捉え、天高く飛翔する。

 ブルーティアを上段に構え、ブラットニーを見下ろす。


 するとブルーティアから闇が立ち昇り、ブラックローズからは光が放出される。

 パープルデイジーからは炎が上がり、3本の神剣がブルーティアの周りで回転を始めた。

 回転する3本の神剣は、螺旋状にそれらの力を一つにまとめ上げていく。

 黒と白と赤の色が混じり合い、灰色の風が巻き起こる。


「終わりだ、ブラットニー」


 まるで台風でも起きたかのように、ブルーティアから暴風が吹き荒れる。


「ななな……なんだよあの力は……」

「ふ……吹き飛ばされる……」


 ジオたちは俺が放出する力に吹き飛ばされないよう、踏ん張って耐えていた。

 モンスターたちは抵抗空しく暴風に弾き飛ばされていく。

 ブラットニーは諦めでもついたのか、怠惰な瞳に戻り俺を見上げている。


「これ、が……アルベル、ト」

「【スパイラルストリーム】」


 圧縮された螺旋の力でブラットニーに斬りかかろうとした――


 だが、奴が刹那に見せた悲しそうな瞳を見て、俺はその力を停止する。


「…………」


 ふっと風は収まり、剣はブラットニーの眼前で止まる。


「なぜ、だ」

「……さあ。分からないけど、殺さないほうがいいと思った」


 ブラットニーは尻餅をつき、ボーっと俺に視線を向ける。


「少々気になることがあるんだけれど……」

「気になるこ、と?」


 俺はこくりと頷き、続ける。


「……俺と取引をしないか?」

「取ひ、き?」

「ああ。俺の質問に答えてくれるのなら、お前を生かして帰してやろう」


 怪訝そうに俺を見上げるブラットニー。

 俺はニコッと悪意の無い笑みを向ける。

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