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第68話 アルはブラットニーと激突する②

 奴の頭を狙った俺の剣を、大地から伸ばした影で防ぐブラットニー。

 それと同時に、奴は右手を槍に変化させて突き刺そうとしてくる。


 しかしその影の槍はブルーティアの障壁に阻まれた。


「!?」


 俺とブラットニーは同じタイミングで驚嘆する。


 ブラットニーは槍を防がれたこと。

 俺は槍によって障壁にヒビが入ったこと。


 理由は違ったが同じタイミングで驚き、同じタイミングで我に返る。


 刹那――ティアの援護魔術が発動し、炎の弾丸がブラットニーを襲う。

 その数、3つ。


 ブラットニーは目を見開くが――

 それを影に変化させた左手で処理してしまう。


 だが、両手と足元の影を使用し、隙ができた。


 ブルーティアを一瞬でショットガンに変身させ、ブラットニー目掛けて散弾を発射する。

 弾丸がブラットニーの胸を、顔を襲おうと放射状に広がっていく。


 勝った。


 俺はニヤリと笑みを浮かべ、そう思案する。

 しかしブラットニーは一筋の汗を流しつつも、足元の影と右手を狼に変化させ、散弾全てを喰らいつくしてしまう。


「嘘だろ……」


 一瞬固まってしまう俺に対して、ブラットニーは左手の狼で攻撃を仕掛けて来る。

 俺は反射的に後退しながらショットガンを放ち、狼の攻撃をやり過ごす。


「…………」

「…………」


 俺とブラットニーは驚愕し合い、お互いに視線を交わしていた。


『まさか……ここまでの実力者だったとは』

「四害王……その名は伊達じゃないようだな」


 ブラットニーは怠惰を感じさせる瞳のまま、ゆっくりと動き出す。

 だがこちらに近づくことなく、俺を中心に円を描くように歩いている。


「アルベル、ト。お前はクリフレッドの邪魔にな、る。だから全力で殺、す」

「!!」


 突如、俺の影がとてつもなく巨大な狼に変わり、大きな口を開く。


 滅殺のブラットニー……

 なるほど。相手をこうして飲み込んで跡形も無く消し去ってしまうから『滅殺』なのか……

 これに飲み込まれると生き残ることは不可能。


 俺は飛び上がりながらショットガンを神剣の姿に戻し、【フレイムレイン】を相手に向けて放つ。

 ブルーティアの先から、いくつもの紅い閃光が走る。


 ブラットニーはそれを影で飲み込むのかと思っていたが――

 それら全てを駆けて回避してしまう。


 走りながら両手を槍にし、俺を穿つためにそれを突き伸ばす。


 右手の槍をブルーティアで防いでやると、火花を散らしながら逸れていく。

 左手の槍は……障壁で対応するしかない。


 俺の心臓を狙って伸びる槍は、展開される障壁によって阻まれる。

 だがその威力に、次々とヒビが入っていく。


 しかし槍は障壁を突破できずに、俺の体を吹き飛ばすだけにとどまった。


 ホッとしながら着地する。

 と、また足元の影が狼に変わった。


「休む暇なしだな」

『ご主人様は楽なほうがお好みですのにね』

「まったくだ。こんな相手とは極力やりたくないよ」


 後方に跳躍して影を回避する。

 しかし影は着地する度にこちらに襲い掛かろうとするので、連続で跳躍しながら避けて行く。


「しつこい奴だ……なっ!」


 ブルーティアを振るい、漆黒の刃を相手に向かって放つ。

 やはりそれもブラットニーの右手から伸びた影に飲み込まれてしまう。


「やはり接近戦じゃないと無理か……」

『そのようでございますね』

「だけど同じやり方をしても結果は同じだ」


 今度は前方に飛び、相手に向かう形で影を回避していく。


「だから次は、少し違うアプローチをかけてみようじゃないか」

『料理も、同じ物ばかり食べていても飽きてしまいますからね』

「ははは。だったら、とびっきりの物を喰らわせて、ビックリさせてやるか」


 俺が地面に着地すると同時に――

 ティアが人間の姿に変化する。


 ブラットニーは表情を変えることなく、こちらを見据えたままだ。

 

 俺は相手の左から、ティアは右手から襲いかかる。


「【二の太刀・風迅】」

「!?」


 ティアが風のような速度でブラットニーに斬撃を繰り出した。

 それは予想以上の速度だったようで、相手は一瞬硬直する。

 だが剣状に変化させた右腕で、野性的な反応速度で刀を受け止めた。


「【ウォーターカッター】」


 ティアとの距離がさほど離れていないので、ブルーティアの能力を行使することができたりする。


 今使用したのは、【水術】だ。


 俺が振るう左手から放出される水刃。

 ブラットニーは左腕の狼でそれを喰らう。


「足元も注意したほうがいいぞ」


 【火術】で奴の足元から火柱を立ち上げる。


 ブラットニーは地面を蹴り、宙に舞いそれを避けた。


「まだまだ」

「これだけではありません」


(デイジ-)

(は、はい!)


 【呼び出し(コール)】で目の前に現れたデイジーは瞬時に神剣になり、俺の手に納まる。

 ティアは刀でブラットニーに追撃を仕掛け。空中で挟み撃ちにする。


 しかしそれも、両腕の影で防いでしまうブラットニー。


 キリキリと押し合いを展開しながら、俺たちは視線をぶつけ合う。


「……おま、え、本当に強、い」

「四害王にそんなことを言ってもらえて嬉しいよ。ついでに退いてくれたらもっと嬉しいんだけどな」

「それはむ、り。お前はここで潰、す」

「そうかい。なら、お前を倒すしかないみたいだな」


 俺の素早い膝蹴りがブラットニーの腹部に刺さる。

 初めての直撃。


 ブラットニーは胃液を吐き出しギロリとこちらを睨み付ける。

 俺とティアはちらりと視線を交わし、互いにニヤリと笑みを浮かべた。

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