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第67話 アルはブラットニーと激突する①

 真っ直ぐ俺に向かって駆けてくるブラットニー。

 俺は大きく息を吐き、剣を前方に突き出す。


「【ファイアランス】」


 ブルーティアの先端から鋭い炎の槍が飛び出る。

 ブラットニーに一直線へ飛ぶ槍は――


 奴の影から出た黒い牙にかみ砕かれた。


「またあれか……面倒な奴だ」


 あれは狼……

 狼が大きく口を開けて炎を飲み込んだ。

 サイズは人の影からは理解しがたいぐらいの大きさとなり、楽々と槍に対処した。

 どこまで大きくなれるのか分からないが……アダマンティンドレイクを処理できるぐらいには肥大化できるのだと思う。

 ということは……俺ぐらいならあっさりと飲み込めるというわけだ。


 俺は左手に駆け、ブラットニーに近づかれないように距離を取る。


「…………」

「…………」


 無言で一定の距離を取りながら俺たちは走り続ける。

 ぐるぐる円を描くように……お互いの手の内を探るかのように。


「ティア。援護を頼む」

『かしこまりました』


 俺が駆けている中、ブルーティアは炎や水球を吐き出していく。

 それらを自身の影で簡単に処理してしまうブラットニー。


 ティアの攻撃だけではあれを突破できない。

 俺はティアにショットガンモードに変形してもらう。


 攻撃力と魔攻力は40。防御が20。


「こんなの、見たことないだろ?」


 蒼く真っ直ぐの銃身に、少し斜め下へ下がる持ち手。

 俺はブルーティアのトリガーを引き、相手の胴体に向かって散弾を放つ。

 

 自分の足を止めないように、相手の動きを止めるように。

 

 しかし、影がバクンと大きく口を開いてそれらを全て飲み込んでしまう。


「!?」


  だがティアが、左右から【火術】の【フレイムソーサー】を俺の射撃に合わせて放出していた。

 炎の円盤が、相手の影を迂回するように左右から襲いかかろうとする。


「ははは。うちのティアを舐めないでいただきたいものだね」


 【フレイムソーサー】が直撃するかと思ったその時だった。

 

 ブラットニーの両腕が影と同じように狼となり、その二つの炎をパクリと喰らってしまう。


「俺も舐める、な」

「舐めるつもりはないけど……正直今ので勝ったと思ったんだけどなぁ」

『私もそう思いました。彼はこちらの想像以上に強いようですね』

「さすがはSクラスと言ったところか……でも手の内は全部見せたわけではない。奥の手(・・・)だってあるしな」


 俺は走りながらブルーティアをロッドモードに移行し、【フレイムレイン】を解き放つ。

 激しい衝撃が天へと上がっていく。

 すかさずアローモードに変更し、これも天に向かって矢を放つ。


「【アローレイン】」


 矢が空中でキラリと光ると、炎と矢の雨が土砂降りのように降り注ぐ。


「まだまだこんなものじゃないぞ。【サンダーショット】」


 雷を帯びた矢を放つ為にブルーティアを引き絞る。


「!」


 だが俺の足元の影から、異様な気配を感じた。

 俺は咄嗟に横に飛ぶ。


 案の定、影からは狼の牙が俺を襲おうとしていた。


 ブラットニーにすぐさま視線を戻すと、炎と槍の雨は、影によって全て喰らいつくされている。

 

 向こうも走る足を止めることなく、殺意も熱意も無い瞳でこちらとの距離を詰めて来ていた。


 俺はブルーティアをソードモードに戻し、こちらからも距離を詰めていく。

 

「ちょっと動きが単調すぎやしないかい?」


 俺は横一文字に剣を振るう。

 ブラットニーの胴体を捉えた――


 そう思ったが奴の体は影となり、こちらの攻撃が空振りに終わる。


「おいおい、そんなことまでできるのか」

『これは一筋縄ではいきませんね』

「では、いくつもの縄でも用意してやるか」


 影は俺の真下まで移動し、その牙を突き立てようとする。

 俺は冷静にこれを飛んで避け、魔力を解き放つ。


「【ウォーターバインド】」


 ブルーティアから水状の縄がいくつも飛び出ていく。


 ブラットニーの体へと戻りつつある影を捉えるために、それらは絡みつこうとしていた。

 が、一瞬で影へと戻ってこれをやり過ごすブラットニー。

 

 俺が地面に着地すると、奴も元の体に戻る。


「ふー……今のでもダメか。本当、面倒な奴だなぁ」

「お前も面倒なや、つ。俺相手にこんなにもった人間は今までいなかっ、た」


 互いに距離を取りつつ、ゆっくり足を動かす。

 

 俺は相手を仕留めきれないし、相手は俺を捉えきれない……

 ブラットニーもほんのり驚いているようだったが、俺も驚いていた。


 俺だって、こんなに抵抗できる相手は初めてだ。

 できることなら、戦いは楽に展開したいと思っているのに……激闘とか本当に勘弁してほしいんだけどなぁ。


 俺は嘆息し、いつもより少し早く打つ心臓の鼓動を感じていた。

 二人の間に肌寒い風が吹き、さーっと草を揺らす音がする。


 ジオたちは俺が瞬殺できないことに驚き硬直していた。

 いや、周囲には敵がいるから動きなさい。


 だけど今はジオたちに指示を出すだけの余裕はない。


『ご主人様。いかがなさいますか?』

「接近戦で勝負を仕掛ける。ティアは隙を狙って魔術を放ってくれ」

『かしこまりました』


 俺が動くのを察知したのか、ブラットニーも同時に走り出す。


 剣に闇の力を纏い、ブラットニーを見据える。

 これで終わってくれたら、嬉しいんだけどなぁ。


 俺はそんな淡い希望を込めて、剣を力強く振るった。

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ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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