第57話 ノーマンは悩む①
デイジーが誕生してから、一月ほどの時間が経過した。
ローランドの町はさらに発展し、現在も建物は建造、増築を繰り返している。
皆それぞれ住む場所を手に入れ、中央のチェルネス商会に住んでいる人はもういなくなっていた。
チェルネス商会としてはこれまで半分ぐらいの面積しか使用できなかったが、これで建物全てが仕事のための施設となったわけだ。
町も活発化し、マーフィンやレイナークから観光というか、見学に来る人も随分増えた。
これは観光に来た人を対象にした仕事も考えた方がいいかもな。
俺は塔の前で行き来する人々を観測しながら、堂々と歓喜していた。
まだまだ町はよくなっていくぞ。
そんなことを考えていると、デイジーが空間を広げてフェリスと共にマーフィンから帰って来る。
「お兄ちゃん、ただいま」
「おかえり、デイジー」
彼女は俺の姿を見るなり、尻尾を振りながら俺の胸に飛び込んで来た。
頭を撫でてやると、嬉しそうに体と尻尾を揺らしている。
なんて可愛い生き物なのだ。
現在デイジーには、マーフィンのギルドで冒険者たちの訓練と支援を任せていた。
後はゴルゴがザイたちに手を出さないか少々心配していたので、守ってもらおうと考えていたのだが……
どうやら『国王のお墨付き』というのがよく効いるのか、手を出してくる気配は一切なく、無事平穏に商売を続けさせてもらっている。
デイジーはオドオドしていて、自信なさげに見えるが、仕事の方はビックリするぐらいできるらしく、皆驚いていた。
普段の弱々しい雰囲気からは想像できないぐらい、キビキビ動くとのこと。
俺はその様子を見たことないが、皆がそう言っているのだ、真実なのだろう。
そんな彼女と帰って来たフェリスはあまり元気がない様子だった。
「どうしたんだい、フェリス」
「ああ、アル……ギルドのみんなが、やる気を出してくれなくて困っているの」
フェリスにはマーフィンでギルドマスターに就任してもらっていた。
彼女は仕事をキッチリ、しっかりこなす人なのだが……なるほど。
部下の扱いに困っているのだな。
俺はギルドでテロンさんを呼び出し、彼女の悩みを伝えた。
テロンさんはギルド前でフェリスと対面し、彼女の話を聞き始める。
「……なるほどなぁ。みんながやる気を出さない、と」
テロンさんは彼女の話を頷きながら、真剣に聴いていた。
俺がフェリスの対応をしても良かったのだけど、ギルドのことはテロンさんに完全に任せている。
任せているということは、無駄に口を挟まないということ。
口を出せば、テロンさんは自分を信じてないのかと思うだろう。
だが、口を出さなければ、信じているということを信じてもらえる。
だからここは口を出さない方が賢明なのだ。
ただテロンさんを信じ、彼に全てを任せるだけだ。
「あれだよ、あれ。モチベーションを管理してやらなきゃなんねーんだよ」
「モチベーション……管理?」
「ああ。やる気がねえってのは、『仕事頑張っても意味ねえ』って思ってるってことだろ?」
「まぁ……確かに」
「だから、相手の『やる気』とこっちの「やって欲しいこと」を直結させてやればいいんだよ」
「やる気と、やって欲しいこと……」
顎を撫でながらフェリスは唸る。
テロンさんは以前、冒険者のローズ派とカトレア派の人たちのやる気に上手いこと火を点けていた。
頑張ればローズとカトレアが振り向いてくれるかも。
これは冒険者たちにとってはやる気を出すに十分の理由だった。
そしてテロンさんはギルドの仕事をやって欲しい。
冒険者はローズたちの為に頑張り、テロンさんは仕事をしてもらうことによってギルドに得が生まれる。
まさに互いの利害が一致している状態だ。
こうやって利害を一致させていけばどんどん相乗効果が生まれ、組織というのは大きくなっていく。
自分だけのためだけではなく、相手のことも考える。
それこそ最高の組織作りの基本であり秘策なのだ。
「コラッ! 荷物持ってやろうか!? ああっ!?」
そこに丁度、おじいさんにガラ悪く親切にしているボランが通りかかった。
あの口調がなければ言うこと無いんだけど……でも、あれがボランなんだよな。
ボランの人柄をみんな理解していてるので、おじいさんも穏やかな声でボランと話す。
「ありがとな、ボラン。だけどこれぐらい自分で運ばないと、足腰がもっと悪くなるってものだ」
「そうかよ! だったら気をつけて帰れ! 困ったらいつでも言ってこい!」
笑みをこぼしながら去って行くおじいさん。
ボランは俺に気づき、こちらに歩いて来る。
「おう、アル!」
「フェリス。見ておきなよ」
「え? ええ……」
ボランが俺の前に立ち、眉を吊り上げて見下ろしてくる。
「いつもご苦労さんだね。そういえば、キャメロンも喜んでいたよ。ボランが見守りしてくれているおかげで、子供たちも平穏に暮らせているって」
「そ、そうか……」
「それに、キャメロンに給料をあげてるんだって?」
「おおお、俺は金に困ってねえからな……子供らに飯食わしてやるほうが、よっぽど有意義な金の使い方ってもんだろうが!」
真っ赤な顔で怒鳴るボラン。
キャメロンのためかどうかは知らないけど、子供たちのためにお金をあげるなんて本当に良い奴。
多分、ボランのことだ。
キャメロン抜きでもお金をあげていたであろう。
それぐらい彼は、善人なのだ。
「まぁ、ボランのおかげでキャメロンも子供たちも喜んでいるんだ。これからもよろしく頼むよ」
「そ、そんなに喜んでたのかよ……ああっ!?」
「ああ。それはとっても」
「……そうか。じゃあな!」
顔を赤くして去って行くボラン。
フェリスは「なるほど」と頷きながら感心していた。
「やる気とやって欲しいことを直結させる……私、マーフィンに帰って試してみるわ」
「おう。よく人を観察すること。そうすることによって相手の欲しい物を理解してやるんだ」
「そしてそれをこちらのやって欲しいことと繋げればいいのね。ありがとう。テロンさん、アル」
ちなみにデイジーは俺に抱きついたままだったりする。
名残惜しそうに離れ、フェリスと共にマーフィンへと帰って行く。
心配しなくても、夜になればまた会えるから。
「マーフィンのことまで面倒みなくちゃならなくなって大変だぜ」
「大変だけど、面白いでしょ?」
「ああ。それは違いねえな!」
ガハハッと大笑いするテロンさん。
俺も愉快な気分になり、一緒に笑う。
「ああ、アルベルトさん……」
明るく笑う俺たちに、暗い声で話しかけてくるノーマン。
この人はいつも暗い顔をしているなぁ。
「ノーマン。ペトラから聞いているよ。すごく仕事を頑張っているとね」
「あ、いや……」
ノーマンは何やら、褒められたことがむずがゆいのか、口元を緩めながらも困ったような表情をしている。
「どうしたの?」
「い、いや……仕事で褒められることなんて、今まで無かったから……」
そしてどんよりとした顔をし、ノーマンは踵を返す。
「なんで……こんないい子を……」
肩を落としてチェルネス商会へと入って行くノーマン。
「何か悩みでもあんのか、あいつ?」
「さあ……」
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