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第54話 アルはエミリアと鍾乳洞へ行く②

 アウタン鍾乳洞。


 天井は氷柱(つらら)のように伸びた岩がいくつもあり、足場も悪く大きな水たまりがちらほらとあり、気温も少し低いようで、エミリアは肌を擦って身体を温めている。


「ここはCクラスモンスターが大勢いますので、お気をつけください」


 レイナークの兵士がアウタン鍾乳洞で待機しており、俺たちを出迎えるなりそう忠告してくれる。


 アウタン鍾乳洞に出現するモンスターは、巨大で岩の肉体を持つゴーレム。

 そのゴーレムは砂色をしていて、足は短く腕は太く、動きは遅く手は速い。


 鍾乳洞の中では大勢の兵士たちが、ゴーレムと激戦を繰り広げていた。

 ただ腕を振り回すだけの攻撃だが、兵士たちはそれにあっさりと吹き飛ばされている。

 攻撃も通用しにくいらしく、武器を弾かれていた。


「おいおい。大丈夫かよ」


 エミリアはその戦いっぷりを見て飽きれている。


「子供が偉そうに――」

「はぁっ!?」


 ギロッと睨むエミリアに兵士は恐怖を感じ、この世の終わりとでも言わんばかりに絶望の表情をし震え出した。


「誰が子供だぁ!」

「す、すいませんでした! 本当にすいませんでした!」


 もう無意識だろう。

 兵士はとにかくペコペコエミリアに頭を何度も下げて謝っていた。

 そんなに脅してやるなよ……

 だけど、エミリアを子供扱いした彼も悪いから、俺は口を挟まない。


「お、おい。この子……女性、もしかして、【神力瞬殺(ゴッドスピード)】のエミリアじゃないか!?」

「ゴ……エミリア・スタウト!?」


 周囲にいた兵士たちはザワッとし、エミリアとの距離を取る。


「エ、エミリア・スタウト……通るだけでモンスターが逃げ出すとか……近くに寄っただけで冒険者たちが殴り倒されるだとか……」

「お、俺が聞いたのは、少し口答えしただけで、ギルドマスターが高いところから突き落とされたと聞いたぞ……」

「み、見た目は子供だと聞いていたが……あいや、申し訳ありません!」

「な、なんでそんな噂が流れてんだよ……」


 エミリアは今にも爆発しそうな表情で兵士たちを睨み付けていた。

 さすがにモンスターが逃げだすとか冒険者たちが殴り倒されるとか、噂に尾ひれがつきすぎだ。

 エミリアが通っても、モンスターが一瞬でこま切れになるぐらいだし、冒険者だって子供扱いしなければ殴り倒されない。


 …………


 そう考えると、そこまで尾ひれがついたわけでもない……か?

 ギルドマスター……シモンの話に関しては誇張されすぎだけど。


 兵士たちはビクビク怯えながら奥の方を指差し話を続ける。


「お、奥の方に、大きなモンスターが出現いたしまして……」

「そうか。じゃあ行くぞ」


 エミリアが歩き出すと、まるで女王に付き添う従者のように、兵士たちはついて行く。


「ったく、なんで変な噂が流れてんだよ」


 近くで戦っている兵士たちを助けるために、ぶつぶつ言いながらもエミリアはゴーレムをこま切れにしていく。

 助けられた兵士たちは口をあんぐりさせ、後ろからついてくる兵士たちはその実力に衝撃を受けていた。


「エミリアがそれなりのことをしているからではないですか?」


 ティアの刀が、チンッと鳴る。

 ズズズとゴーレムの身体が、胸辺りで真っ二つになる。


「どういう意味だよ」

「そのままの意味でございます」


 ティアの刀捌きに驚嘆の声上げた兵士が、ふと何かを思い出したかのように口を開いた。


「あ、あの美女……知っているぞ。この間も戦っているのを見かけた」


 ティアはくいっと眼鏡を上げ、エミリアに勝気な視線を送る。


「普段から丁重さを心掛けていれば、あんな噂など広がらないと言うのに」


 ぐぬぬと悔しがるエミリア。


「あ、俺も見たぞ。たしか『にゃーにゃー』言いながらモンスターを倒していたな」

「…………」


 真顔で顔を赤くしているティア。

 エミリアはケラケラ笑いながらゴーレムを切り伏せて行く。


「にゃんにゃん言いながら敵を倒してるのかよ、お前」

「……記憶にございません」

「それなりのことをしてるからそう言われるんだろ」


 ゴーレムに飛びかかり、縦一文字に切り裂く赤面したままのティア。

 着地し、背後にいるゴーレムも返す刃で仕留めてしまう。


「…………」


 いがみ合いながら先へ進んで行く二人を見て、兵士たちは唖然としていた。


「ゴ、ゴーレムをあんなあっさりと……」

「もう遊び半分じゃないか……」


 俺も苦笑いしながら二人の後をついていく。

 もっと仲良くできないものかね。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 圧倒的な強さでゴーレムを倒していく二人。

 そしてあっという間に大型モンスターのいる比較的広い空間へと到着した。


 そこにいたのは黒く巨大な肉体に闇のような黒い翼。

 易々と人の身体を切り裂いてしまいそうな爪に重量感のある尻尾。

 畏怖の念を抱かざるを得ない、血のような紅い瞳。


 それは、ブラックドラゴン。

 

 Bクラス上位に位置し、闇の炎を使用する、凶悪なモンスターだった。


「ブラックドラゴンかよ」


 面倒くさそうに嘆息するエミリア。

 ティアはさすがに手に負えない相手だと判断し、神剣の姿に変形し俺の手の中に納まる。


 尻尾をバタンバタン左右に振り、こちらを威嚇してくるブラックドラゴン。 


「ゴォアアアアアア!!」


 洞窟中に響きそうな耳障りな咆哮を発し、ブラックドラゴンは駆け出した。


「来るぞ、アル」

「分かってる」

いつも読んでくれていただき、本当にありがとうございます。

9月はおかげさまで、多くの方に読んでいただける作品となりました。

心より感謝しております。


さて、10月からですが毎週、月曜日・木曜日の週二回の投稿を考えております。

よければこれからもお付き合いしていただけたら、幸いでございます。



【皆様へのお願い】


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

大感謝です!


これからもこの作品を他の沢山の方にも読んでいただいて、楽しんでもらいたいと考えております。

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― 新着の感想 ―
[一言] あー、エミリアを子供扱いしないほうがいいぜぇ? そう言った奴、手を大怪我したから。 エミリアのトリセツ。 彼女の扱いは簡単である。 子供扱いはしない。 バケモンとか言わない。 ね、簡単でs…
[一言] 前Aランクの魔物バッタバッタ主人公が倒してた記憶があって、Bランクのブラックドラゴンそんなに強いのか?と思ってしまう。 ティアは相変わらず可愛い。
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