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第53話 アルはエミリアと鍾乳洞へ行く①

 マーフィンに炭酸水を目玉商品とした商店を出店すると、瞬く間に注目の的となり、連日嬉しい悲鳴を上げているザイたち。


「ちょっと、これ頂戴!」

「俺も炭酸水くれ! ついでにポーションも買うよ!」

「こっちは炭酸レモネードをくれ!」


 ギルドの真横に、丁度空きがあったのでそこにザイの店を出店した。

 広さ自体は平均的な物で、店に10人も入れば混雑状態といったようなものである。

 その店に100から200人ほどの人が押し寄せていて、みんなで炭酸水の取りあいとなっていた。


「押さないでくれ! 炭酸水はみんなの手に渡るぐらいは十分にある!」


 ザイは大きな声で客たちにそう伝える。

 しかし勢いは止まらず、みんな手を伸ばして炭酸水を求めていた。


 俺とエミリアが店の外からその光景を眺めていると、ザイは俺に気づき近寄って来る。


「アルさん。見ての通り大繁盛だ」

「ああ。幸先いいスタートだな。この調子でマーフィンで一番の商店でも狙うか」

「気が早い。だけど、そのつもりで俺はいる」

「期待してるよ、ザイ」


 ザイは微笑を浮かべ、店へと戻って行った。

 エミリアは店をなるほどと納得したような様子で見ている。


「アルはやっぱり、商才があるんだな。いきなりこんな店を繁盛させるなんて……」

「いやいや。俺だけの力じゃないさ。ザイや店で働く人たちのおかげでもあるんだよ」

「……そういうとこも含めて、商才なんだろうな。自分の力だけを過信していない」

「人間一人でできることは限られているしな。モンスターの大群を一人で倒せるエミリアみたいなのばかりじゃないんだよ。世の中は」

「おい。それは私のことをバケモンって言いたいのか?」

「ははは。違うよ。規格外って言っているのさ」


 結局似たようなことだけど。

 エミリアはとりあえず納得したようで、怒りを沈めていた。

 ほっ……


「ご主人様、そろそろよろしいですか?」

「ああ。行こうか」


 ティアが空間を開き、レイナークの方から顔を出す。

 俺とエミリアは穴を通り、レイナークへと移動する。


「で、仕事の内容は何だよ?」

「ああ。アウタン鍾乳洞で大型モンスターが出現したらしい」

「それの退治か」


 アウタン鍾乳洞。

 レイナークからはるか北にあるソルバーン荒地。

そのソルバーン荒地から北はモンスターのみが生息する地域となっている。


 人間の存在しない、モンスターの国。

 【魔界】なんて表現する人もいたりする。


 そしてそのソルバーン荒地とレイナークの領土との境界線辺りにあるのがアウタン鍾乳洞。


 レイナークからソルバーン荒地へ偵察を出すらしいのだが、アウタン鍾乳洞からモンスターが湧き出て来ていて困っているとのことだ。


 先日、数名の猛者がアウタン鍾乳洞にモンスター退治に挑戦したらしいのだが、大型モンスターを発見し、断念したとのこと。

 それでフレオ様から俺に、直接の依頼が来たというわけだ。


「エミリアはなぜ一緒に行くのですか?」

「は? アルが行くから一緒に行くんだけど」

「……私がいればそれで十分でございますが?」

「…………」


 二人は火花を散らせて対峙する。

 睨み合いはしていないものの、エミリアは静かに、ティアは余裕の表情で、無言の重圧をかけるように互いに視線を向け合っていた。


「……さ、仲良く行こう」


 なんなんだよ、一体。

 初対面からこんな様子だし、相性が悪いのか?


 ティアにバイクモードになってもらい、俺が運転し、エミリアは後ろに乗る。

 体を密着させ、エミリアはなんだか照れているようだった。


「な、なんだか近いな……」

「バイクだし仕方ないだろ」

「こここ、こんなに密着して……お前はなんとも思わないのか?」

「ん? まぁ、幼馴染だし、どうってことないよ」

「…………」


 エミリアは複雑そうな表情をして、ギュッと腰に回す手に力を入れる。

 彼女は幼馴染だし胸もないし、緊張することなんて何もない。

 俺は上機嫌でアクセルを回す。


『……ご主人様は胸が大きいほうが好きですから』


 エミリアがガタッとブルーティアから落ちそうになる。


「そ、そうなのかよ……アル」

「え? なんでそんな話になっているんだ? そんな話したことないよな」

『……小さい方がお好みでしょうか?』


 心なしか少し寂しそうにそう言うティア。


「あ、いや、好みだとかそういうことではないけど……まぁ、サイズは気にしたこともないな。別に好きになった女性ならどっちでもいいんじゃないか、な?」

「そ、そうか……」

『…………』


 安心したような釈然としないような……

 エミリアもティアも、大きくため息をついていた。


 ブルーティアで走り、俺の頬を撫でる風は気持ちいというのに。

 なぜかチクチクと刺さるような空気が痛い。


 どうしたんだよ、二人とも。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「おい。それは私のことをバケモンって言いたいのか?」 あ、バケモンというのも禁句なんすね……。 そーいやボランが悪気ないとはいえ言っちゃったしw >「エミリアはなぜ一緒に行くのですか?…
[一言] これで行く行くは奴の商会を乗っ取っちゃう算段ですね!!!奴の今まで積み上げてきた者が崩れる時が待ち遠しい。
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