第52話 ロイたちは強くなる③
ロイたちの訓練に付き合った次の日。
俺の自室の一階下にある会議室で、ティア、ペトラ、ザイらと共にこれからの商売の話をしていた。
「うーん……マーフィンで成功するには、どうすればいいんでしょうか?」
「基本は『今あるものをよりよくする』、だけど、他に何か目新しい物が欲しいな」
部屋の中央に真四角のテーブルがあり、俺たちはそこに着いており会議を続ける。
「目新しい物……何があるだろうか」
生真面目なザイは腕を組み思案顔をしている。
ザイはチェルネス商会で働くやる気溢れる男で、マーフィンの出店を任せることにした人物だ。
彼なら大丈夫だとペトラが推薦してくれた。
ペトラがおすだけあって、仕事熱心だし向上心もある。
「ご主人様、異世界の商品を取り扱うというのはどうでございましょうか?」
「異世界の物か……」
異世界の商品を取り扱うとなると……間違いなく話題にはなるだろう。
ただ、一つだけ問題というか、クリアしておかねばならないことがある。
「俺たちがいなくなって、それからも提供し続けられる物がいいな。俺たちがいないと出品できないようなものを出しても、儲けられるのは今だけだから」
「将来のため、でございますね」
「ああ」
俺が創ろうとしているのは、今だけ儲けられるような組織じゃない。
これから先、生まれて来る子孫たちのためにも、繁栄し続けられる組織だ。
その観点から見たら、俺たちがいないと成立しない物になんて意味はない。
やるなら、俺たち抜きでも提供できるものだ。
「……炭酸水はどうだろう?」
「炭酸水? なんですかそれは?」
「あー、まぁ一度飲ませてあげるよ。材料は……クエン酸と重曹があればできる、と」
重曹は海藻や条件を満たした植物を【錬金術】から作ることができる。
クエン酸は柑橘類からできるはずだ。
「じゃあ、早速用意してくるよ」
◇◇◇◇◇◇◇
クエン酸と重曹を作成し、それを水の中に適量投入する。
するとシュワシュワと気泡が底から湧いてきて、炭酸水の出来上がりだ。
それを4人で、同時に口にする。
俺も飲むのは初めてだが……うん。
悪くない。
「うわー……不思議な感じですね」
「ビールも作りたては、こんな感じだと聞く」
ビールなどは酒場で用意しているが、この『炭酸』は抜けきってしまっている。
作られたばかりの物は炭酸を含んでいるが、異世界ほど保存方法も進んでいないのでみんなの手元に届く頃には炭酸が抜けきっているというわけだ。
「これなら、みんなに喜んでもらえるんじゃないかな? レモネードにこの重曹を入れたら炭酸ジュースになるしね」
「わっ、それ、なんだか美味しそうですね」
ペトラは炭酸水を飲みながら嬉しそうに目を輝かせる。
「ティア。これの作成法をみんなに教えてやってくれ。ペトラは原材料が必要になるから、手配してくれ」
「かしこまりました」
◇◇◇◇◇◇◇
塔から出て、みんなとチェルネス商会の建物の方へと移動しようとすると、チェルネス商会から一人の男性が出て来て、ペトラにペコリと挨拶する。
「ペトラさん。私などを雇っていただいてありがとうございます」
「ペトラさんだなんて、呼び捨てでも構いませんよ。私はずっと年下ですし」
笑顔でその男性と話をするペトラ。
その人は腰が低く、痩せこけた穏やかそうな人だった。
「新しい働き手の人かい?」
「はい。こちら、ノーマンさんと言って、マーフィンから出稼ぎに来たみたいですよ」
「へー、マーフィンから」
「ノーマンさん、こちらアルベルトさんと言って、この町の代表のような方です」
俺の名前を聞いて、ノーマンはギョッと驚き目を見開いた。
え? 俺何かしたかな……
「そ、そうですか……初めましてアルベルトさん」
「初めまして、ノーマン。覚えることも沢山あるだろうけど、頑張って」
「は、はぁ……」
ノーマンは俺を見て暗い表情でその場を去って行く。
だから俺、何かした?
「アルさん!」
ローズがロイたちを連れて、ルーズの森から帰還して来たようだ。
ロイたちはボロボロになってはいたが、それ以上に勇ましい瞳の方が目立っていた。
少しずつだけど、戦士の顔つきになってきたような気がする。
「どうだ、ロイ」
「はい……ちょっとずつですけど、強くなってきたような気がします」
ロイは両手をグッと握り締め、その手を見下ろしながら続ける。
「僕、自分のためだけに強くなろうと思ってたんです。す、好きな子を振り向かせたくて、もうみんなからバカにされるのが嫌で……でも今は違うんです。今はボランさんみたいに、誰かを守る為に力が欲しい。そう思ってから以前はできなかったことまでできるような気がして……人って、自分の為だけじゃなくて、誰かの為の方が強くなれるんですね。それを、ボランさんから教えてもらったような気がします」
俺は高揚してそう言うロイに頷く。
「自分だけの為でも力は出ない。他人の為だけでも力は出ない。人が一番力を発揮するのは、自分と他人の為に動く時だ。だからロイは、これからも自分と他の誰かの為に訓練を続ければ強くなれるよ」
「……はい!」
力強い瞳で頷くロイ。
俺はそんなロイを見ながら、この子は絶対に強くなるという確信を得ていた。
その理由の一つにロイのスキルが関係していたからだ。
【可能性の卵】――
辛く険しい道を与えられる代わり、羽化するまでその道を歩み続けることができたのなら、強大な力を与えられるいうユニークスキル。
彼の初期能力の低さと成長が遅いのはこのためだろう。
なので、ロイがこれからも諦めず、高みを目指し続けることができたのなら……
俺は将来のロイを想像し、身震いする。
「ロイ~。おかえり~」
「ルルル、ルカ! ただただただいま……」
通りかかったルカに声をかけられて真っ赤になるロイ。
俺はそんなロイを見て、クスリと笑った。
今は頼りなさそうにしか見えないが……きっとロイは強くなる。
他の男たちを見ながら、ロイだけではなく、みんな強くなるはずだ。
俺はただ静かにそう信じ、一人胸を熱くさせていた。
【皆様へのお願い】
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
大感謝です!
これからもこの作品を他の沢山の方にも読んでいただいて、楽しんでもらいたいと考えております。
ランキングが上がれば自然に読んでくれる方も増えるので、ぜひお力添えのほど、よろしくお願いいたします。
そのため、もし少しでも、面白かった、続きが気になる。
そう思っていただけたなら、ブックマーク、高評価をお願いします。
評価はこの小説の下にある【☆☆☆☆☆】を押してもらえたらできます。
ブックマーク、高評価は、作品作りの励みになり、モチベーションに繋がります。
是非とも、よろしくお願いいたします!




