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第50話 ロイたちは強くなる①

 俺はローズと共に、ルーズの森に来ていた。


「…………」


 数十人のひ弱な男たちが俺の後ろで俯き加減で立っている。


「ここではゴブリンしか出現しない。お前たちでも安全に戦えるだろう」

「で、でも俺たちなんかがモンスターに勝てるわけないんだ……」


 俺とローズは、彼らの反応にため息をつく。


 彼らは他の人たちと比べても戦闘力の低い人たちで、『落ちこぼれ組』なんて揶揄されている集団だ。


 弱いモンスターにも勝てず、仕方がなく最弱クラスのゴブリンだけが出現するルーズの森にやって来ていた。


 しかし、完全に自信を無くしている……無くしているというか、元々自信がないのかも知れないが。

 とにかく、自信の無い彼らはゴブリン相手でも弱気になっていて、ウジウジするばかりであった。


 だが、そんな中でも、一人だけやる気のある少年がいた。


「ぼ、僕、行きます」

「ロイ……」


 ロイ。

 金髪の少年で、全能力値が『1』という、この中でも最弱の男。


 最弱だというのに、一番やる気に満ち溢れている。


 ロイはゴクリと固唾を飲み込んで、ゴブリンに突撃した。

 しかし、持っていた棍棒にゴツンと顔を殴られて鼻血を拭き出す。


「ううう……」


 以前のロイなら、ここで泣いて怯えるだかりであったが、今回は違った。

 勇気を宿した瞳でゴブリンを睨み付け、再度攻撃に転じる。


 が、やはり棍棒の一撃で吹き飛ばされていた。


「……一番弱いロイが、一番やる気に満ち溢れているとはな」

「……やる気があったって、何もできなかったら意味ないじゃないか」


 ローズの言葉に、暗い声でそう言う男が一人。

 みんなもそれに同調するように何度も頷く。


「俺たちが……ロイがどれだけ頑張ったところで強くなれるわけがない。無駄だ。全部無駄なんだ」

「無駄なんかじゃないさ」

「?」

「ずっと闇の中を走るみたいに、先が見えない、いつ抜け出せるのか分からない状態が続くから不安になって、逃げたくなって、本当に逃げ出して……それが普通の人間が取る行動さ」

「…………」


 みんなはどんよりした表情のまま、俺の話を聞いている。


「だけど、走り続けていたらいつかは闇の中から抜け出せるものなんだよ。もちろん、逃げることが悪いことじゃない。自分に合っていないと思ったら辞めるのが一番だとも俺は思う。だけど、みんなは強くなりたいって気持ちがあるからここにいるんだろ?」

「そ、それは……そうだけど」


 俺は頷き、明るい声で話を続ける。


「その気持ちが一番大事なんだよ。どれだけ惨めだろうが、どれだけ人にバカにされようが、その気持ちを抱いたまま走り続けることによって、闇の中から抜け出せるのさ」

「……才能が無いんだよ、俺らは」


 ローズはムッとするが、一度深呼吸して冷静に口を開く。


「才能とは何だ?」

「さ、才能……そりゃ、資質だとか、あからさまに能力が高いことじゃないのか?」

「違うな。才能とは、『やりたい気持ち』以外の何物でもない」

「や、やりたい気持ち……?」

「そうだ。絵を描きたい。料理がしたい。そして、強くなりたい。そう思う気持ちがあるということは、それだけで才能があるということだ」

「だ、だけど、俺たちは強くない――」

「現時点ではそうだろ。そんなお前らを見て、周囲の人間はこう判断するだろう。『才能が無い』、とな。だが、何も成し遂げてもいない人間が判断することにどれだけの意味があるというのだ? 何の意味もない。そんな他人の判断などに何の意味も無いのだ」

「でも、自分たちに才能があるなんて、信じられない」

「才能はある。ただ、才能を開花させられるのは、自分たち次第だ」

「開花……?」


 俺はただ優しく頷く。


「やる気こそが才能。だけどそれを開花させる前に諦める人間の方が多い。始まりは、みんなより出来が悪くて嫌気がさして……でも、諦めないで日々高みを目指す。それで他の人より秀でた人間になった者は枚挙にいとまがない。結局のところ、才能を開花させられるのは自分次第だし、自分以外、自分の能力を開花させてやることはできないんだよ」


 一人の男が俺の話を聞き、目を閉じ、拳を強く握っていた。

 数秒葛藤したのだろう。そして、俺に向かって叫ぶように訊く。


「お、俺も、才能を開花させられるんだろうか? みんなよりも弱い俺でも……強くなれるんだろうか!?」

「ああ。大丈夫。絶対に強くなれるよ。俺はそう信じている」


 すると背後でバキッと何かを殴りつける音が聞こえてきた。


「はぁはぁ……」


 それは、顔をボコボコに腫らしたロイが、ゴブリンを殴り倒した音だった。

 ロイは敵を見下ろし、プルプルと震え出す。


 そして涙を流しながら、俺の方を見た。


「ぼ、僕、倒せました……初めてモンスターを倒せました」


 初めての勝利に、ほんの少しの前進に、わずかに見えた可能性に。

 小さな経験から、大きな喜びを感じ涙が止まらない様子のロイ。


 自分でもできるかも知れない。

 自分でも強くなれるかも知れない。

 ロイは涙を流しながらも、拳を強く握り締める。


 男たちはそんなロイを見て、身震いしていた。


「僕でも、強くなれるんですよね? 自分を信じていいんですよね?」

「ああ。ロイも、みんなもきっと強くなれるよ。みんななら大丈夫さ」


 スライムにも勝てなかったロイが、ボロボロになりながらもゴブリンを退治した。

 以前とは違い、自分の可能性を信じているロイ。

 そのロイの変化を見た男たちは、ほんの少しだが、自分たちの可能性をも信じ始めたように見えた。

 その眼には、未来を信じる輝きが灯っている。

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